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出会い
しおりを挟む「こんな時、お前なら何て言うんだろうな……」
ワーワーと大きな声が少しずつ、しかし確実に近づいてくる。
地鳴りのような大地の揺れ、銃声や大砲の音、剣と剣が重なりあう金属音、
もう直ぐ敵本陣がここに到達する。
じき最後の砦であるポルカの町を敵兵が埋め尽くすだろう。
ここに残っているのは陛下たちを逃がす為に時間を稼ぐわずかな兵のみ。
「おい!何してるんだ!殿(しんがり)にここは任せてアイネも早く行け!」
若い頃から数多くの戦場を共に戦ってきた腐れ縁のブラッド、
「…殿下や貴族の者たちは全員城内から逃げ出せたか?」
「ああ、城の隠し通路から裏手に出た。お前の家族もちゃんと確認したぞ!」
慌てた様子でおれに訴える。
正反対におれはひどく落ち着いた様子で返事をした。
「そうか、それだけが気がかりだったんだ。ありがとう、おかげで安心したよ。」
「お礼は後だ、行くぞ!」
「………。」
「…どうした?さあ早く!」
「………。」
全く動く様子のないおれを見て何かを察したのか、
ブラッドはゆっくりと近づいてくる。
「ここで死ぬつもりか?」
困惑した表情でまじまじとおれを見つめる。
「………。」
「生き残れると思っているのか?」
黙ったまま彼を見つめ返し、そして外の方に視線を移す。
「…おれもお前もいい年になったな。来年にはおれの子も父親だ……
親としての役目は無事果たせたみたいだ。
…あとはあいつとの約束を果たさなきゃならない。」
「………ユウのことか?」
「なあ、一生のお願いを聞いてくれないか?」
「死ぬつもりの奴の願いなど聞けんな。」
時間が無い…戦況を見る限りもってあと数十分といったところだろう。
おれは踵を変えし、足早にブラッドに近づいて真剣なまなざしで肩を掴み訴えた。
「ここまで生きてこれたのはユウのおかげなんだ!
だからおれがこの場を捨てることはできない!ここにはユウの魂が残ってる!」
ブラッドがおれの眼差しから視線を外し、はあっと溜息をつく。
「…どうするつもりだ。」
「殿(しんがり)と一緒に逃げてくれ。」
「ばかを言うな!お前1人に何ができる!」
「老人の為に若者の命を散らしてはならない、
それは貴族であっても、陛下であってもだ。」
「説明になっていない!どうするつもりか聞いているんだ」
「もちろん陛下たちが逃げ延びる為の時間は稼ぐ…準備は既にできている。」
「なんだと?」
「この状況で嘘や冗談は言わないさ、信じてくれ。」
「………本当に1人でやるつもりか?確実に死ぬぞ。」
「…死ぬ為に戦うつもりはない。ただ…もしこの場を捨てこのまま逃げたら、
もう二度とユウには会えないような、
そんな気がするんだ…あいつの魂が消えちまうような、
そんな気がするんだよ。だから…頼む。」
ブラッドは観念した様子でやれやれと手をひらひらと振っている。
「付き合いきれないバカだ、お前は。本当に付き合いきれねえ…」
「…。」
ブラッドがおれをチラッと見る。おれは表情を変えずにブラッドを見据えた。
「…ったく、普通の奴ならな!おれは普通レベル人間じゃねーからできるけどよ!
お前おれの後のことも考えろよ!殿を勝手な判断で退却させるんだぞ。
逃げ延びれたとしても、その先に待ってるのは地獄だ!」
「大丈夫だ、お前ならやれるさ。
昔からおれの後始末をやるのが上手かったじゃないか。」
「今回はレベルがちげーっつうの。」
「そうだな…すまない。」
「…バーカ、だったら初めから頼むんじゃねーよ。…バーカ……全く…全くよお。」
ブラッドの泣き顔を見るのは何度目だろうか…泣き虫ブラッド…懐かしいな。
おれは彼との会話を楽しむ為に、わざとらしく明るい声で冗談を言った。
「最後にお前の泣き顔が見れて嬉しいよ、お前の孫に見せてやりたいな。」
「………うっせえ。もうとっくに見られてるわ。」
「なら今度はひ孫だ。」
彼は泣きじゃくった顔でニヤッと笑い、わざとらしい大声で返事がある。
「バーカ、玄孫やしゃごまで見せてやるわ!」
「ああ…長生きしろよ。」
ブラッドは苦笑いし、小さな声で
「…初めて会った時のお前はそんな奴じゃなかっただろ…」
おれは静かに笑う。
「ユウのおかげだ。」
「…そうだったな。」
「…ああ。」
時が一瞬止まったかのような感覚が生まれ、
そしてブラッドはおれに最後の言葉をくれた。
「じゃあなアイネ。」
お互いの目と目を見合わせた後、おれとブラッドは同時にゆっくりと背を向けた。
振り返ることなく彼は足早に殿しんがりの方へ近づくと、
たくましい声で号令を掛ける。
「お前たち!コール准将から勅命を預かってきた。
裏手に敵軍勢の兵が待ち構えていたのだ。直ぐにこの場を離脱し、
陛下の守りを厚くするべく城の隠し通路から先団に追い付け!」
おれは目を閉じ、振り返ることなく心のなかでブラッドに感謝の念を送った。
カチャカチャと鎧の擦れる音を響かせながら、殿たちが駆け足で去っていく。
ユウ―
もしお前が今のおれを見たら何て言うんだろうな…
こんなに年を重ねても、歳を取ることの無いお前に答えを求めてしまう。
お前はこんなことバカげてるって言うかもしれないが、
おれはお前の魂を守る為に生きてきたんだ。
すまない…
だから、お前にもお願いをさせてくれ、最後のお願いを。
ユウ―――
「―食べる?吹かしたての吹かし芋、美味しいよ。」
「そんな古臭いものいらんわ。」
「えー?美味しいのに、吹かし芋。めっちゃ心込めて吹かしたのに…。」
「…お前がやったのか?」
「ううん、ばあちゃん。」
「ばあちゃんて、お前なんもしてないじゃないか!」
「あははははっ。ばあちゃんのふかしいも、すっごく美味しいんだけどなー。」
―ユウは不思議な女の子だった。何も考えずに笑っているように見えても、
こっちの気持ちは全部見透かせれているような気がして…
なのに全く不快にも不気味にも思わなかった。
むしろ心地よく、ユウと一緒にいると自然に笑顔になってしまう。
彼女の周りにはいつも人がいて、
おれにはまるでユウが世界の中心にいるように思えた。
「なんでユウはあんな奴のこと構うんだろー。」
「ね、ほっとけばいいのに。優しすぎるんだよユウは。」
…聞こえてるっつーの。
おれはユウの幼馴染で、大した力も無いのにプライドだけは高くて、
生意気なガキだった。人を遠ざけるくせに寂しがりやで、
おれは必死に剣にしがみついていた。
今思えば餌に困っている犬や猫のように、ユウはおれをほっとけなかったんだろう。
年齢を重ね18になった頃、おれはユウと2人で暮らし始めた。
恋愛感情があったかは良く分からない。
もともとお互いに両親がいなくて、ユウを育ててくれていた祖母も亡くなり、
一人立ちをしたところで彼女から提案があったのだ。
「ボロボロじゃねーか。」
「大丈夫!ちゃんと掃除して修理すればそれなりになるって。」
「修理って…お前そんなこと出来んのかよ。」
「…頑張ろうね!」
「………。」
ポルカの町の入口にある、広さだけは一丁前のオンボロ平屋、
そこがおれとユウの住まいになった。
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