申し訳ありませんが、勇者は品切れになってしまいました。

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「申し訳ありません。勇者は品切れになってしまいました――」
 目の前にいる天使は、申し訳なさそうな顔をしながら
「現在、残っているのは盗賊だけになってしまいます」
 そう言った。
「えーと、すみません。ちょっと、状況確認をさせてもらっても?」
 目の前で微笑んでいる女性に対して、僕は
「はい、構いませんよ」
「俺、死んだんですよね?」
「ええ、死にましたね。享年22歳です」
「それで……異世界を救うために転生させるってことで、貴方が僕の元に来た、と」
「そうです。貴方が生きていた時の肉体と精神を強化して移動させるので、転生というよりも転移に近いですが。それと、私の名前はペリドットです」
「えっと、じゃあペリドットさん。それなのに、転生先に選べる職業が盗賊しか残っていないって……いや、普通転生するって言ったら勇者とかじゃないんですか?」
「そんなおとぎ話みたいなことあるわけないじゃないですか……。それに、勇者なんて職業、本当はありませんし……」
「えぇ……」
「なんですかその顔は。盗賊が嫌だっていうんですか?」
「いや、別に嫌じゃないですけど……」
「はあ、仕方ないですねえ。うーん、じゃあこうしましょう。ちょっと手を出してください」
「こうですか?」
 言われた通りに手を差し出すと、ペリドットさんは虚空をなぞるように指先を動かし、そのまま僕の掌へ触れる――その瞬間、掌に謎の紋様が浮かび上がって来た。
「え、っと……これは?」
「盗賊では不満そうでしたから、私の権限で加護を付与しました」
「加……護? それって、状態異常にならない、とか。その、無敵になるとか……」
「流石にそこまで行くと、大天使様クラスの加護になるので……。そのスキル自体は対したものではありません。盗んだものが増殖するという単純なものですよ」
「なるほど……」
 もしかすると、便利なスキルかもしれない。
「これで盗賊として転生して頂けますか?」
 別に、加護をもらえなくても元々転生するつもりだった、なんて今更ペリドットさんに言うと怒られるかな……。
 既に死んでいる手前、転生してくれるというのであれば願ってもない話だ。
「わかりました。けど、実際具体的に何をすればいいんですか? 世界を救うって言っても、ほら、僕そんなに運動が得意とかいうわけでもないじゃないですか」
「ないじゃないですか。って言われても私貴方のこと知らないですし……。末端天使には、上の考えていることなんて全くわかりませんよ。あ、でも、転生者にはなんたらの運命力が働いてどうのこうの……みたいな事を言っていたので、多分、お好きになさって結構ですよ。本来存在するはずのない二度目の人生ですし、楽しまなきゃ損ですよ」
 ペリドットさんは、表情を崩すことなく曖昧な返事を返してくる。どこも大変なんだなあ……。
「そう、ですね。とりあえず、出来るだけ楽しんでみたいと思います」
「あ、忘れてました。転生初心者用三点セットをお渡ししておくので、向こうで目を覚ましたら必ずこれを確認しておいてくださいね」
 ペリドットさんの手には、どこから取り出したのかわからない大き目の麻袋が握られていた。彼女はそれを僕の方へと無言で突き出している。
 僕が麻袋を受け取った瞬間、驚く程突然に睡魔に襲われて目を開けている事を身体全体が拒んでいる。
「あ……れ……?」
 どうにか目を開けようと踏ん張ろうとしたが、そんな僕のささやかな抵抗は無意味に終わってしまう。
「そろそろお時間ですね……。では、第二の人生をどうか……どうか、お楽しみくださいませ」 
 闇に沈みゆく意識の中で、ペリドットさんの声だけが明瞭に頭の中に響きわたった後、僕の思考は完全に途切れた。
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