【完結】幸せの25セント

四季苺

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side星野:2 詐欺師まがいの告白

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私は最初、北斗が嫌いだった。
 だって胡散臭うさんくさいから。いつも穏やかに微笑んで、誰に対しても公平で、本音を見せない。そんなヤツ、信用できないでしょ?
 だから、北斗が「星野はオレに冷たいよな。なんで?」なんてきいてきた時、ハッキリ言ってやったんだ。
「アンタと親しくしたら、変な壺とか買わされそう」
と。
 そしたらアイツは大笑いして、「よく分かったな」って言った。その笑顔は「ホンモノ」だった。紛れもない、長谷北斗はせほくとだった。

 それから北斗は私によく構ってくるようになった。みんなに見せるよそゆきの北斗じゃなくて、腹黒くて怠惰で、少し弱いところもある本当の北斗で。

 そんなの、特別みたいだ。

 そういう存在になれたこと、ホントは嬉しかった。でもこの気持ちを素直に認めるのは、なんかイヤだった。サークルで一番人気の男子に簡単に落ちたみたいで。
 そんな私が「なんか良い雰囲気になって自然と付き合ってた」とか、「いつの間にか友達から恋人同士になってた」なんて、できるわけがない。
 ああそうですよ、私は!意地っ張りなんです!

 「オレの彼女になりませんか?そうしたら、この幸運になれる壺を差し上げます」
 十九歳の誕生日に、北斗はそう言って瑠璃色るりいろの花瓶を差し出してきた。花瓶を斜めに走る細かい白い塗料が、まるで天の川みたいなデザインだった。
「壺…」
 なんだこの交際の申し込み方は。ロマンのかけらもない。
「良いでしょう、この壺」
「そうだね、綺麗」
 どこで買ったんだろう?こんな綺麗な花瓶、見たことない。
「欲しいでしょう、この壺」
「まぁね。でも、アンタと付き合わなきゃもらえないんでしょ?それは嫌だわ」
「幸せになれますよ」
「いや、絶対ウソ」
 笑って流そうとする私の両手を取り、北斗は花瓶を手渡した。
「…だまされちゃってくださいな。そうしたら…」
 言葉はそこで途切れた。
 ああ、そうか。北斗は私に「幸せになれる壺欲しさに騙されて付き合う」というていを作ってくれたんだな。

 それは、意地っ張りな私に作られた、やさしい逃げ道。

 ふぅっと息を吐いて、覚悟を決める。
「ホントに?ホントに幸運の壺なの?」
「もちろんです。今なら、なな、なんと!こちらのキシリトールガムもついてきます!」
 北斗はパーカーのポケットからヨレヨレの包装紙にくるまれたガムを差し出してきた。
「古そう!汚い!いらない!」
 壺を抱えたのとは反対の手で、ガムを叩き落とす。
「じゃあ、壺のみで交渉成立ですね。」
「…ハイ」
 なんだか気恥ずかしくて、目を逸らすと北斗はずいっと一歩距離をつめてきた。
「オレの彼女になったということなので、ハグしてもいいですよね?」
「………ハイ」
 北斗は私の背中に腕を回して、壊れ物みたいにそっと抱きしめてきた。いや、実際、私と北斗の間には壺という壊れやすい物があったのだが。
「幸せにするよ」
 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、北斗はそう言った。
「幸せになる」じゃなくて「幸せにする」…言葉にすればほんの少しの違いだったけれど、そこに込められた意味を思って、私は不覚にも涙をこぼしてしまったのだった。
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