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第35話目 終わりの博物館
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閉館10分前、博物館の化石フロア。
客は真理子(まりこ)ひとりだけだった。
恐竜の骨格標本の影が床に伸びていて、
館内の冷たい空気がやけに静かだった。
出口へ向かおうとしたとき、
スタッフ用の扉がわずかに開いていて、
そこから小さく声が聞こえた。
——ガサ…ガサ…
(職員さん…?)
気になって覗くと、
薄暗いバックヤードの奥で、
白衣を着た男が“何か”を袋に詰めていた。
ビニール袋が赤く染まっている。
(怪我した動物?……そんな展示あったっけ)
真理子が目を凝らした瞬間、
袋の中に 人の手首 が見えた。
指にはまだ結婚指輪がついている。
息が止まった。
男がゆっくり振り返った。
白衣は、胸から下が赤黒く濡れている。
「……ああ」
目が合った瞬間、男は静かに笑った。
「見られちゃったか。」
真理子は走った。
展示室に戻り、巨大な恐竜の骨格の下をすり抜ける。
後ろで足音がしない。
追いかけてこないのが逆に怖い。
出口まであと数十メートル。
そのとき——
展示の薄暗い足元に、
ポタ…ポタ…
赤いしずくが落ちた。
(上……?)
ゆっくり見上げる。
恐竜の骨格の“首”の部分に、
さっきの白衣の男が立っていた。
骨の隙間に指をかけ、
信じられない速さで降りてくる。
「逃げないって言われたんだけどなぁ」
瞬きの間に着地すると、
男は真理子の腕をつかんだ。
振りほどこうとした瞬間、
金属の冷たい音が耳元で鳴った。
ザクッ。
痛みではなく、息が吸えなくなる感覚だけが走る。
視界がゆっくり白く霞む中、
男の声だけがはっきり聞こえた。
「うちの博物館、遺体の収蔵品が多くてさ。
管理、大変なんだよね。」
真理子はそのまま意識が闇に落ちた。
最後に見えたのは、
恐竜の骨格の足元に転がる“まだ温かい自分の手”だけだった。
客は真理子(まりこ)ひとりだけだった。
恐竜の骨格標本の影が床に伸びていて、
館内の冷たい空気がやけに静かだった。
出口へ向かおうとしたとき、
スタッフ用の扉がわずかに開いていて、
そこから小さく声が聞こえた。
——ガサ…ガサ…
(職員さん…?)
気になって覗くと、
薄暗いバックヤードの奥で、
白衣を着た男が“何か”を袋に詰めていた。
ビニール袋が赤く染まっている。
(怪我した動物?……そんな展示あったっけ)
真理子が目を凝らした瞬間、
袋の中に 人の手首 が見えた。
指にはまだ結婚指輪がついている。
息が止まった。
男がゆっくり振り返った。
白衣は、胸から下が赤黒く濡れている。
「……ああ」
目が合った瞬間、男は静かに笑った。
「見られちゃったか。」
真理子は走った。
展示室に戻り、巨大な恐竜の骨格の下をすり抜ける。
後ろで足音がしない。
追いかけてこないのが逆に怖い。
出口まであと数十メートル。
そのとき——
展示の薄暗い足元に、
ポタ…ポタ…
赤いしずくが落ちた。
(上……?)
ゆっくり見上げる。
恐竜の骨格の“首”の部分に、
さっきの白衣の男が立っていた。
骨の隙間に指をかけ、
信じられない速さで降りてくる。
「逃げないって言われたんだけどなぁ」
瞬きの間に着地すると、
男は真理子の腕をつかんだ。
振りほどこうとした瞬間、
金属の冷たい音が耳元で鳴った。
ザクッ。
痛みではなく、息が吸えなくなる感覚だけが走る。
視界がゆっくり白く霞む中、
男の声だけがはっきり聞こえた。
「うちの博物館、遺体の収蔵品が多くてさ。
管理、大変なんだよね。」
真理子はそのまま意識が闇に落ちた。
最後に見えたのは、
恐竜の骨格の足元に転がる“まだ温かい自分の手”だけだった。
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