最恐 百物語

いつき

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第二話「紙人形」

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ある村に、ふとした時に”白い紙人形”が落ちているという噂が広がった。
田畑のあぜ道、井戸のそば、そして人の玄関口。必ずひとりでいる時にだけ、それを見るのだという。

その紙人形は小さく、どこか人の形をしている。
手に取ると、薄く、さらさらと和紙の音がして……目の部分に、墨で小さな点が二つ打たれていた。

「拾うと良くないことが起こる」と言われていた。
だが若者のひとり、与三はそれを信じず、ある夜、道に落ちていた紙人形を持ち帰ってしまった。

次の日の朝。
与三の母親が突然、部屋で首を吊って死んでいた。

理由はわからない。
だが、部屋の隅に――あの紙人形が、きちんと立っていた。

与三は気味悪がり、川に流した。
しかしその夜。彼の枕元に、それは戻ってきていた。濡れたまま、ぺたり、と……。

翌朝、与三の妹が床で冷たくなっていた。
やはり、その傍らに、紙人形。

怖くなった与三は、村の古寺へ駆け込んだ。
老僧が言った。

「それは“形代”じゃ……。怨念を吸い、人を呪い殺すもの。捨てても捨てても戻る。最後に命を取るのは、拾った者じゃ」

震える与三に、老僧は御札を渡した。
「今夜、これを紙人形に貼るがいい。そうすれば……」

与三は家に帰り、夜を待った。
ふと、外から「トントン」と戸を叩く音。誰もいるはずがない。
覗き穴から見た。

そこに――無数の紙人形。

白い紙人形たちがずらりと並び、じっとこちらを見ている。
よく見ると、その一つひとつ……村で死んだ者たちの顔になっていた。

気づけば背後に、一枚。
肩の上に――そっと、白い手の形の紙人形。

与三の悲鳴と共に、夜が明けた。

次の朝。
与三の家の前に、新しい紙人形がひとつ、落ちていた。
墨で描かれた、その顔は――確かに、与三だった。
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