最恐 百物語

いつき

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第六話目 赤い部屋

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俺の友人・田島が行方不明になったのは先週のことだ。最後に「絶対入るな」と言われた古アパートの『赤い部屋』に足を踏み入れたのが原因だろうと思っていた。怖いもの見たさで、俺は昨日、その部屋の前まで行ってみた。

玄関の扉は、内側から腐った肉の臭いが滲み出ている。気持ち悪くなりながらもノブに手をかけると、嫌に湿っていて、ヌルリとした感触。手を引くと、血……いや、それよりもドロドロに変質した何かがついていた。

ギィ、と扉を開けると、部屋の中は真っ赤だった。壁、天井、床まですべてが何層にも重なった肉の塊でできていた。ミミズのように蠢く血管が網の目のように走り、ところどころから赤黒い膿が噴き出している。
一歩足を踏み入れるたびに、ぐちゅり、と肉の中に沈んでいく。靴底から暖かい生臭さが染みてきた。

その奥に、人の形をしたものがいた。
「田島……?」
声をかけると、それがゆっくりとこちらを振り向いた。顔は半分溶け、歯茎から歯が丸見えになり、左目は眼窩から垂れ下がりブランブランと揺れている。右腕は肩から裂け、筋繊維がロープのように垂れ下がり、胸の真ん中には穴が開いて心臓が剥き出しになっていた。心臓はまだ脈打っている。

「……た……すけ、て……」
唇のない口から漏れる声。
その瞬間、壁の肉が一斉に蠢き、無数の人間の顔が浮かび上がった。目、鼻、口がズラリと並び、全員が「タスケテ」「クルシイ」「カエシテ」と呻いている。中にはまだ生きた目をしている奴もいた。
田島の身体から、何本もの赤黒い触手が伸び、俺に向かってきた。

「お前も、こっちへ……来い……」

背後の扉はいつの間にか消えていた。代わりに開いた床の裂け目から、真っ赤な液体と臓物の山が噴き出し、俺の足を飲み込んでいく。骨がボキボキと砕かれ、皮膚がズルリと剥がれ、肉と神経が絡みつく。

最後に見たのは、俺の顔が肉壁の一部として浮かび上がる姿だった。目だけはまだ動いている。叫びたいのに声が出ない。生きたまま、ここに、永遠に――。
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