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第26話目 「宿儺の呪いvsワクちゃん -終わらぬ呪縛の闘い-」
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俺は骨董屋で、異形の指の標本を手に入れた。
それは腐敗した黒い巨大な指、店主は「宿儺の指」と警告した。
好奇心に抗えず持ち帰ると、身体はじわじわと蝕まれた。
一方、地下室の暗闇では、ひび割れた腹話術人形・ワクちゃんが静かに目を開けていた。
ワクちゃんの背中には、無数の子どもの魂が詰まっている。
彼らは長く封印されていたが、呪いの気配を察知し目覚めを告げた。
宿儺の呪いは、世界を腐敗と混沌に陥れる邪悪。
一方、ワクちゃんは、無数の子どもたちの声と記憶を宿す“呪いを祓う呪い”とも言える存在だった。
しかし、両者が共存することはできなかった。
呪いが呪いを呼び寄せ、力の均衡を崩す。
ワクちゃんの“子どもたちの呪い”は宿儺の呪いの拡散を止めようと動き出し、
宿儺の呪いは自身の力を守るため、ワクちゃんを排除しようとした。
⸻
▪︎運命の邂逅
呪いの黒い霧が地下病院を包む中、男は叫びを上げながらワクちゃんの元へと向かう。
ワクちゃんは、声なき子どもたちの集合体の意志を宿し、迎え撃つ準備を整えていた。
「ここで終わらせる。お前の呪いは、もう広げさせない」
ワクちゃんの声が低く響く。
「呪いは永遠に消えぬ……お前ごときに止められるか!」
男は瘴気の槍を握りしめ、凄まじい力を解き放った。
こうして、呪いの二大存在による壮絶な闘いが幕を開けたのだった。
ーーーーーーーー
暗闇に包まれた廃病院の地下。
壁には黒いシミが蠢き、天井からはポタポタと濁った水が落ちていた。
その中心に、二つの異形が向かい合っていた。
ワクちゃん――ひび割れた陶器のような顔に、不自然に開く大きな口。
腹話術人形だったはずの彼は、今や“呪いを集めた生きた器”だった。
背後には無数の子どもの魂の幻影が浮かび、ワクちゃんと共鳴していた。
「……わたしは、子どもたちの声を守るの……あなたは、全部、壊すから」
ワクちゃんの声は、悲しく、しかし決して揺るがなかった。
対するのは、“宿儺の指”を吸収した元人間――俺。
もはやその姿は人とは呼べず、半身が鱗と霧に覆われ、片目はぐにゃりと垂れ下がり、笑っていた。
「子どもの声? ハッ、そんなもの、呪いには無力だ」
「呪いはな……喰らって、喰らって、生き延びる。
泣き声など、味のいい調味料に過ぎん」
黒い霧が天井を突き破り、病院全体を包む。
窓の外には、逃げ遅れた人々が見える。逃げようとして、霧に包まれた瞬間――凍りついたように動きを止めた。
ワクちゃんの手が小さく動いた。
次の瞬間、子どもたちの歌声が地下に満ちた。
「♪おともだち いなくなっちゃ いやだよ……」
「♪だれにも さわらせない…… この おもいで……」
それは、ただの童謡ではなかった。
子どもたちの強い思念が呪術のように空間を震わせ、宿儺の霧を削り取っていく。
「なっ……!? この声は……!?」
「さわらないで……わたしたちの、思い出に!」
ワクちゃんの両手が大きく開かれた。
すると、背後の幻影の子どもたちが一斉に飛び出し、宿儺の呪いを裂こうと突撃した。
宿儺の男は咆哮した。
「来るなぁあああッ!」
黒い触手のような呪いが空間をねじ曲げ、幻影の子らを一体、また一体と呑み込んでいく。
だが、ワクちゃんの動きは止まらない。
「……痛くても……怖くても……それでも、わたしは、忘れたくない!」
その言葉に、宿儺の目が一瞬だけ揺れた。
彼の中にかすかに残る“かつての自分”が、幼い頃の記憶を呼び起こしていた――。
が、それもすぐに呪いにかき消された。
「ならば、その声ごと、喰い尽くしてやるッ!」
ーーーーーーーーー
地下に響く、子どもたちの歌。
呪いの霧が蠢き、ねじれた空間の中で、ワクちゃんは――まだ立っていた。
ボロボロに砕けた右腕。胸の辺りには大きな裂け目。
それでも、笑っていた。
「わたしは、わたしが――“本当に大切だったもの”を守るって、決めたから」
宿儺の男は、笑った。
「お前は……ただの人形だろ? そんな魂、元から持ってねえはずだ」
「……人形は、誰かの声を“代わりに話す”存在でしょ?」
「じゃあわたしが守ってるのは、あの子たちの“本当の声”――!」
その瞬間だった。
ワクちゃんの体から溢れ出した無数の影。
それは、宿儺の呪いを受けて消えていった子どもたちの“最後の声”だった。
「……ありがとうって、聞こえた」
影はやさしく、けれど確実に、宿儺を包んでいく。
「やめろ……来るな……!俺は、こんなところで終わ――」
声が止まった。
影たちは、彼の“中の子ども”だけを取り出して、やさしく抱きしめた。
そして――宿儺の身体は、霧と共に崩れ、塵となった。
――静寂。
「……終わった、のかな」
ワクちゃんの顔のヒビは深くなり、目の奥から淡い光が漏れていた。
その瞬間――どこからか、小さな手が彼の手を握った。
「ありがとう、ワクちゃん」
振り返ると、そこにはかつて救えなかった“最初の子ども”、リオの姿。
「ずっと、待ってた。いっしょに帰ろう?」
ワクちゃんの顔に、最後の笑みが浮かんだ。
「……うん」
光の中へ、ゆっくりと消えていく二つの影。
ワクちゃんは、ようやく“人形”をやめ、
一人の“守りたかった存在”として旅立った。
病院には、風の音だけが吹いていた。
だが、その風はどこか、優しくて――
まるで子守唄のようだった。
それは腐敗した黒い巨大な指、店主は「宿儺の指」と警告した。
好奇心に抗えず持ち帰ると、身体はじわじわと蝕まれた。
一方、地下室の暗闇では、ひび割れた腹話術人形・ワクちゃんが静かに目を開けていた。
ワクちゃんの背中には、無数の子どもの魂が詰まっている。
彼らは長く封印されていたが、呪いの気配を察知し目覚めを告げた。
宿儺の呪いは、世界を腐敗と混沌に陥れる邪悪。
一方、ワクちゃんは、無数の子どもたちの声と記憶を宿す“呪いを祓う呪い”とも言える存在だった。
しかし、両者が共存することはできなかった。
呪いが呪いを呼び寄せ、力の均衡を崩す。
ワクちゃんの“子どもたちの呪い”は宿儺の呪いの拡散を止めようと動き出し、
宿儺の呪いは自身の力を守るため、ワクちゃんを排除しようとした。
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▪︎運命の邂逅
呪いの黒い霧が地下病院を包む中、男は叫びを上げながらワクちゃんの元へと向かう。
ワクちゃんは、声なき子どもたちの集合体の意志を宿し、迎え撃つ準備を整えていた。
「ここで終わらせる。お前の呪いは、もう広げさせない」
ワクちゃんの声が低く響く。
「呪いは永遠に消えぬ……お前ごときに止められるか!」
男は瘴気の槍を握りしめ、凄まじい力を解き放った。
こうして、呪いの二大存在による壮絶な闘いが幕を開けたのだった。
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暗闇に包まれた廃病院の地下。
壁には黒いシミが蠢き、天井からはポタポタと濁った水が落ちていた。
その中心に、二つの異形が向かい合っていた。
ワクちゃん――ひび割れた陶器のような顔に、不自然に開く大きな口。
腹話術人形だったはずの彼は、今や“呪いを集めた生きた器”だった。
背後には無数の子どもの魂の幻影が浮かび、ワクちゃんと共鳴していた。
「……わたしは、子どもたちの声を守るの……あなたは、全部、壊すから」
ワクちゃんの声は、悲しく、しかし決して揺るがなかった。
対するのは、“宿儺の指”を吸収した元人間――俺。
もはやその姿は人とは呼べず、半身が鱗と霧に覆われ、片目はぐにゃりと垂れ下がり、笑っていた。
「子どもの声? ハッ、そんなもの、呪いには無力だ」
「呪いはな……喰らって、喰らって、生き延びる。
泣き声など、味のいい調味料に過ぎん」
黒い霧が天井を突き破り、病院全体を包む。
窓の外には、逃げ遅れた人々が見える。逃げようとして、霧に包まれた瞬間――凍りついたように動きを止めた。
ワクちゃんの手が小さく動いた。
次の瞬間、子どもたちの歌声が地下に満ちた。
「♪おともだち いなくなっちゃ いやだよ……」
「♪だれにも さわらせない…… この おもいで……」
それは、ただの童謡ではなかった。
子どもたちの強い思念が呪術のように空間を震わせ、宿儺の霧を削り取っていく。
「なっ……!? この声は……!?」
「さわらないで……わたしたちの、思い出に!」
ワクちゃんの両手が大きく開かれた。
すると、背後の幻影の子どもたちが一斉に飛び出し、宿儺の呪いを裂こうと突撃した。
宿儺の男は咆哮した。
「来るなぁあああッ!」
黒い触手のような呪いが空間をねじ曲げ、幻影の子らを一体、また一体と呑み込んでいく。
だが、ワクちゃんの動きは止まらない。
「……痛くても……怖くても……それでも、わたしは、忘れたくない!」
その言葉に、宿儺の目が一瞬だけ揺れた。
彼の中にかすかに残る“かつての自分”が、幼い頃の記憶を呼び起こしていた――。
が、それもすぐに呪いにかき消された。
「ならば、その声ごと、喰い尽くしてやるッ!」
ーーーーーーーーー
地下に響く、子どもたちの歌。
呪いの霧が蠢き、ねじれた空間の中で、ワクちゃんは――まだ立っていた。
ボロボロに砕けた右腕。胸の辺りには大きな裂け目。
それでも、笑っていた。
「わたしは、わたしが――“本当に大切だったもの”を守るって、決めたから」
宿儺の男は、笑った。
「お前は……ただの人形だろ? そんな魂、元から持ってねえはずだ」
「……人形は、誰かの声を“代わりに話す”存在でしょ?」
「じゃあわたしが守ってるのは、あの子たちの“本当の声”――!」
その瞬間だった。
ワクちゃんの体から溢れ出した無数の影。
それは、宿儺の呪いを受けて消えていった子どもたちの“最後の声”だった。
「……ありがとうって、聞こえた」
影はやさしく、けれど確実に、宿儺を包んでいく。
「やめろ……来るな……!俺は、こんなところで終わ――」
声が止まった。
影たちは、彼の“中の子ども”だけを取り出して、やさしく抱きしめた。
そして――宿儺の身体は、霧と共に崩れ、塵となった。
――静寂。
「……終わった、のかな」
ワクちゃんの顔のヒビは深くなり、目の奥から淡い光が漏れていた。
その瞬間――どこからか、小さな手が彼の手を握った。
「ありがとう、ワクちゃん」
振り返ると、そこにはかつて救えなかった“最初の子ども”、リオの姿。
「ずっと、待ってた。いっしょに帰ろう?」
ワクちゃんの顔に、最後の笑みが浮かんだ。
「……うん」
光の中へ、ゆっくりと消えていく二つの影。
ワクちゃんは、ようやく“人形”をやめ、
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だが、その風はどこか、優しくて――
まるで子守唄のようだった。
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