強制的魔王

ほのぼのる500

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魔王誕生

8話

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おめでとうという言葉を耳にした瞬間、ふっと意識が遠のいた。

「いって~」

頭が痛い。
何が起こったんだ?
確か、魔王の体を手に入れるためボタンを押して……。
あ~、あれだったんだよな。
そう、蛇……はぁ。
そういえば、アルフェはどこだ?

「アルフェ? アルフェ? いるか?」

名前を呼ぶが返答がない。
可笑しいな、視界が悪い。
よく見えない。
どうなっているんだ?
俺は視力はいい方なのに。
良かったよな?
あぁ、確かそのはずだ。
なのにどういうわけか、ぼやけて見える。

「コウキ? コウキ? どこ?」

少し離れた場所にうごめく何かが見える。
遠いためよく見えないが、黒い何かがごそごそと動いている。
やはり見え方が記憶の中にあるものと違う。
ただ、視野は広くなったような気がする。

「アルフェ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない。歩けない」

「は? 歩けないってどうして……もしかして蝙蝠こうもりだからじゃないか?」

「あっ」

アルフェが蝙蝠で歩けないとしたら、この視界は蛇だからか。
はぁ、ちょっと期待したんだけどな。
蛇の能力だけを手に入れて、実際は人間のような体を手に入れられないかと。
甘い考えだったな。
期待するだけ無駄だとはわかっていたんだけど、それでもほんの少し期待してしまった。
結果は、蛇の体で産まれたみたいだな。
自分の体を見ると、どう見ても蛇だ。
それも真っ黒な鱗を持つ蛇で、それほど大きくないようだ。
これ、どう見ても魔王とは程遠いと思うがこれでいいのか?
とりあえず、アルフェのもとに行こう。
これからの事も話し合いたいし。

思い出した。
そうよ、私は蝙蝠として産まれたんだった。
蝙蝠って魔王の使いのイメージがあるんだけどな。
いや違うか、ヴァンパイアの下僕?
下僕は嫌だな。
それにしても何も見えない。
蝙蝠の視力は、ほとんど見えてない状態だったのかな?
空を飛んでいるのに、大変だな。
ん?
何あれ?
赤くぼんやり見える何かが、こっちに近づいて来る。
……もしかしてコウキ?

「コウキ?」

「どうした?」

「こっちに来てる?」

「あぁ、これからの事も相談したいし。どうした?」

「蝙蝠は視力が悪いみたいでほとんど見えないんだけど、赤いぼやけたものが見えて、それがこっちに近づいて来るから、もしかしてコウキかなって」

「蝙蝠も視力悪いのか?」

「そうみたい」

「も」という事はコウキも視力悪いの?
とりあえず、私もコウキのもとへ行こう。
えっと、足は無理。
体を支えられない。
蝙蝠は飛ぶことは得意だよね。
って、どう飛べばいいの?
羽を広げて、よかった。
何となくわかる。
たぶん飛べる!

「あっ、飛べた」

飛ぶのって気持ちがいいな。
えっと赤いものがコウキだから、あっちだな。

「飛べるのか、羨ましいな」

「気持ちいいよ」

上空をくるくる回るアルフェ。
地面を移動するより早いな。
本当に羨ましい。

「アルフェ、赤く見えるのは熱をかんじているのかもしれないぞ」

「熱? なるほどね~。あっ! 1つ確認したいのだけど、蛇って蝙蝠を食べたりしない?」

「いや、知らないな。でも大丈夫だろう」

「そう?」

「あぁ、天敵ではなく仲間なのだから」

「そうか。でも、コウキに近づくと恐怖心が沸き起こるんだけど」

「それはもともと蛇が嫌いだったからだろう」

「あっ、なるほど忘れてた。ってどこに止まればいいの? 天井?」

くるくる回っていたら疲れてきた。
どこかに止まりたい。
蝙蝠のイメージは洞窟の天井なんだけど。
上に視線を向ける。
見えていないのに、天井までの距離がしっかりと分かる。
これも蝙蝠の能力?
蝙蝠の能力とか生態とかもっと調べておけばよかった。
まぁ、普通に生活している分には無駄な知識だけど。
あっ、摑まりやすそうなものを発見!
あれでいいや。

「ふ~、飛ぶのって疲れる。そっちの蛇の体はどう? 動きやすそう」

「まぁ、動きやすい事は動きやすい。ただ、視力は良くないな、ただ視野は広くなったよ」

地面をすべるように移動したときは、自分自身で驚いたけどな。

「お~、視野が広いんだ。そういえば、蛇の蝙蝠って会話出来るんだね」

「ん? そういえば、普通に会話出来ているな?」

「この部分だけ特別仕様?」

「……これだけは感謝しておくか」

これで会話が出来なくなっていたら最悪だったな。

「ねぇ、コウキは蝙蝠の生態に詳しい?」

「まったく知らないし蛇も分からない」

そうか、残念。

「あっ、ステータス! それで、何か確認できるんじゃないかな?」

「おお~」

そうだ。
これが確認できれば、俺たちの事が分かるはず。

「ステータスオープン」

ウィン。

「………………」

「どう、何か分かった?」

「目の前に出たのは分かった」

蛇の視力は悪すぎるな。
近づいたら見えるか。
……えっ?

「うん、それで?」

「蛇はかなり視力が悪いことが分かった。まぁ、近づいたら見えたけど。ただ、言葉が分からない」

「ん?」

言葉が分からない?
ステータスオープンに表示された言葉が理解できないって事?

「読めないの?」

「全部・・・てん、てん、てんで表示されている。もしかして言葉を決めるガチャでもあるのか?」

ありえそう。
このゲームではそういう小さな嫌がらせが本当に多いから。

「言葉か文字を決めるガチャが出るまで待つしかないね」

「そうだな」

気長に待つしかないよな。

「これからどうなるんだろうね」

どう考えたって、今の状態では魔王とは程遠い。
魔王の体と言っていたのに蝙蝠だし。
頑張っていい方向へ想像しても、攻撃されたら即死で間違いなしだ。

「ゲームならこれから強化していくんだろうけど」

「強化?」

「RPG系ゲームをした記憶がないから、詳しくはわからないが装備を増やしたりとかかな? あとは何だろう。あっ、ダンジョン攻略とかあったな」

ダンジョンか。
小説で読んだ事があるな。
魔物を倒すと魔石とかマジックアイテムとかドロップするんだよね。

「でも、今ダンジョンに行ったら死ぬよ。速攻で消滅確定」

「さすがに行かないから。ダンジョンがあるのかも分からないだろ?」

「そうだね。今出来る方法で強化と言えば、やっぱりガチャぐらいかな?」

アルフェの言う通り、ヴァンを溜めてガチャを回すのが安全だろうな。
まぁ、それもまだ未定な話だが。
奴らの事だ、いきなり戦闘しろとか言いだしそうだ。

「コウキ、蝙蝠は強化したらどうなるの?」

強化したら?
蝙蝠は蝙蝠だろう。

「巨大な蝙蝠?」

「いや、それは嫌! 蛇のほうがまだ……だめ、無理~。」

何を想像したのか、蝙蝠の姿のアルフェが天井から飛び出した何かにぶら下がりながらくねくねしている。
……気持ち悪い。
そういえば、ここはどこなんだ?

「アルフェ、俺たち今どこにいるんだ?」

「えっ? 私たちが作った国でしょ?」

そこ以外に居場所はないでしょ?

「どっちの?」

漆黒の国?
暗黒の国? 

「…………それは、どっちだろ」

そこまでは考えてなかったな。

「場所を特定出来る物が近くにあったりしない?」

特定出来る物?
そういえば、俺の体に触れている地面は随分とつるつるしているな。
よく見ると、白い床のように見える?

「建物の中かもしれない」

「どうして?」

「凸凹が無いつるつるした白い床のようなものが体の下にある」

「なるほど、という事は建物の中かな?」

じゃあ、私が摑まっている物は何?
天井に摑まりやすい物を見つけたんだけど?
もしかして鳥が止まる、止まり木とかいうやつ?

「まぁ、どこだとしても雨風は防げるな」

「うん。それは助かる」

チャラン。

「お待たせしました! さぁ魔王自身? 国? 世界? どれの強化を行いますか?」

「「…………」」

女性の機械音なのは変わらないが、聞こえてきた女性の声が変わった。
前よりかなり若い女性の声だ。
何か意味があるのか?

「やはり強化出来るみたいだな」

「そうだね。それに関しては安心だけど……」

「どれの強化を行いますか」という事は、全部の強化は出来ないって事だよね?
ここまで頑張ったんだから、全部の強化をさせてくれてもいいのに!

「はぁ、どれから強化するのがいいんだろうね?」

「そうだな。俺たち自身が強くなればいいのか、それとも世界を強くするのか」

「国はいいの?」

「世界を強化したら国も強化出来ないかと期待してる。無理かな?」

どうだろう?

「とりあえず、俺たちか世界にしておこう」

まぁ、そうだね。
候補がいろいろあると選べないだろうし。
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