トラウアンデ・レリック~最強の”第一世代”魔術師は迷宮都市で最期を飾る~

うどん米

文字の大きさ
18 / 18
契約編

第18話・自利は私に利他は彼に

しおりを挟む

 流石に、腹に穴が開いた状態で戦い続ければいずれ限界が来る。

 アンルーフの前で見せたくなかったのでさっきまで全力で虚勢を張っていたのだ。

 それを見てすぐにみんなが駆け寄ってくれる。

「その、わ、私のせいで……」
「これは、時間停止の悪魔にやられた奴だよ。そうだ、せっかくだしやって見ようかここで”治療の奇跡”を」
「ち、治療の奇跡をですか!?」

 元々、迷宮に行こうとした理由の一つに彼女の特訓と言うのがあった。
 そのため、どこかで怪我をする気ではあったのでむしろちょうどいい。

 だが、当のカタリナは顔を青くし、自身の責任に悶えている。

「詠唱は覚えてる?」
「は、はい」

 正直、内心は痛みで穏やかではないがそれを隠すために必死に笑顔を作る。
 呆れた目で僕を見るアフェには十中八九バレている作り笑いだが動揺している彼女は気づかないだろう。

「なら早速やって見よう。失敗してもいいから、ほら詠唱詠唱」
「っ、はい!!」

 彼女は祈りを捧げるように両手を重ね合わせ握る。
 次に、神の奇跡を発動させるとき特有の神聖なオーラがまとわりつく。

「『”偉大なる我が主”よ。我が捧げし魔力を贄に彼の者を癒したまえ。”治癒の奇跡ヒーリング”』」

 そして、彼女の詠唱が成立すると手に緑の光が集まる。
 しかし、それが僕に届けられる前に光は霧散して消えてしまった。

「あ、あ、ごめんなさい。も、もう一度だけ」
「いいよ。どんどんやろう」
「はいっ!『”偉大なる我が主”よ。我が捧げし魔力を贄に彼の者を癒したまえ。”治癒の奇跡ヒーリング”』」

 だが、彼女の祈りとは裏腹に次も緑の光は霧散していく。
 その次も、その次も、そのまた次も同じような失敗を繰り返していく。

(おかしいな。魔力の動きはこれであってるはずなんだけど)

 それでも、実際には成功しない。
 もしかしたら、魔力とはまた別の要素が失敗に関わっているのかもしれない。

 けれど、僕は教会関係者ではないのでそれを教えることはできない。

「カタリナ……」

 最悪、火で傷口を焼いてしまおうかと思ったその時、僕は自身の言葉を思い出した。

「君は何をしたい?」
「え」

 引っ張られ緊迫した糸が持っている両側から中央に力が加わるような一休止
 それを、彼女に与えるような問いだった。

「少しせかすようで悪いけど、それを今聞かせてほしい。もちろん、完璧じゃなくてもいい。長期的なものじゃなくてもいい」
「私のしたい事。でも、今はそれよりもアポロさんが!」
「うん。だけど、一回忘れて……ほら、目を瞑って考えてみて」

 何か言いたいことがありそうだったが、僕は構わず血のついてない方の手で彼女の目を閉じさせた。



 ***



 目を閉じて、急に考えてと言われても私には彼の体調の方が心配だった。

 教会には怪我人が来ることも多かった。
 だから、彼が無理をして虚勢を張っていることだってすぐにわかる。

(考えてって……でも、それよりアポロさんが)

 たとえ目を閉じたところで血の匂いはするし、怪我人特有の息遣いは顕著に聞こえる。
 そのため、目を閉じても考えるどころか焦るだけだった。

(このままじゃアポロさんが死んじゃう。なのに、何で私は奇跡を使えないの!!)

 奴隷に売られる前だって必死に練習した。
 買われるために、少しでも有用に見せるために頑張り続けた。

「落ち着いて」

 その時、彼の手が私の手を包んだ。

(暖かい)

 覚えてる。
 買われたとき、私をクランハウスにまで連れて行ってくれた時と一緒に寝た時に感じた暖かさだ。

 でも、時間が経つにつれ段々と冷めているような気がした。

(嫌だ、嫌だ、嫌だ……アポロさんが消えちゃう)

 手放したくない。
 理由はわからないけど、とにかくこれを失いたくなかった。

 それに気づいた時、私はゆっくりと瞼を開いた。

「私は、私は!アポロさんがいて欲しいです!一緒にいると暖かいアポロさんと!」
「そっか!」

 それを聞いた彼は満面の笑みで答えてくれた。
 間違いなく、痛みとかそう言うのを隠している物じゃなくて心の底から嬉しそうな声だった。

「っうぅ!!」

 それを見た私は気づいたら彼に抱き着いていた。
 血が付くとか、そう言うのは全く気にせずその温もりに飛びつき背中に手を回しながら詠唱する。

「『”偉大なる我が主”よ。我が捧げし魔力を贄に彼の者を癒したまえ。”治癒の奇跡ヒーリング”』」

 考えてみれば、私はいつだって誰かのために祈りを捧げていた。
 奴隷になった時だって自分を犠牲にする行為こそが尊いものだと本気で思っていた。

 でも、それだけじゃダメだ。

(私とアポロさんのために祈らなくちゃ)

 片方が欠けてもいけない。
 誰かのためにと自分をないがしろにせず、自分のためにと誰かをないがしろにもしない。

 アポロをさんの傷を癒すために、自分自身の温もりのために祈った。



 ***



 彼女が僕に抱き着きながら発動させた治療の奇跡は緑の光を放ち体全体を包んだ。
 それにより、腹に空いた傷は塞がり、細かい傷も癒えていく。

(凄い。初めてでこんな規模の治療の奇跡が使えるようになるなんて……)

 あくまで彼女を落ち着かせるための軽い方便のようなつもりだったが、ここまで効果が出るなんて思わなかった。

「すうすぅ……」

 そして、当の彼女はと言うと力を使い果たしてしまったのか僕の腰まで手を回したまま眠りについてしまうのだった。

 だけれど、その表情は随分と安らかに見えた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした・完結

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

処理中です...