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何かが変わるその手前
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綾と話しをしたお陰で、自分の中でのゴチャゴチャとしていた気持ちが少しずつまとまってきた。
自分の望みは正直まだよくわかってはいない。
だけど、姫乃ちゃんにどうなって欲しいかは決まっている。
それならもし、万が一、その時が来たとしたら私の答えは決まっている。
*
それからは、年末の仕事納めに向けて猛然と仕事に打ち込んでいった。
姫乃ちゃんの様子はこれまでと変わらなかった。
だけど、私がどこか吹っ切れたことはなんとなく感じ取っているようだった。
それでも、二人での夕飯の時間は変わらずにとっていた。
仕事で遅くなることが増えた私のために、先に我が家にきて夕飯を作って待ってくれている姫乃ちゃん。
最初の頃のような申し訳なさはなく、ただただ嬉しさが込み上げてくる。
仮初めだとしても、私がずっと望んでいた暖かい家庭を感じることができた。
「ようやく今年の仕事も終わるね」
明日を残して今年の仕事はようやく終わりを迎える。
なんとか終わらせることができて一安心だよ、去年は最終日まで残業してなんとか一年を終えたからなぁ。
「そうですね、自分の分の仕事は先輩よりも少ないからあっという間でしたけど、紗希先輩が最近残業続きでしたから安心しましたよ」
本当にこの時期は残業が多い。
前もってやっておければいいんだけど、そういうわけにもいかない仕事がなぜか年末に限って残っているんだよね。
「ところで姫乃ちゃんは、冬休みに入ったら実家に帰るの?」
明日の仕事の後には忘年会をやって、そこからは年始まで長期休暇に入る。
私はこのアパートで年を越すつもりだけど、姫乃ちゃんがどうするつもりなのか今まで聞いてなかった。
「そうですね、おそらく実家に帰ることになると思います」
なんだかはっきりしないけど、姫乃ちゃんがいない長期休暇になりそうだ。
「そうかぁ、じゃあ明日の忘年会が最後に会う機会になっちゃうね」
ちょっと寂しいけど、姫乃ちゃんは家族に会いたいだろう。
それに来年になったらまたこうして会えるんだから我慢しなくちゃ。
そう思っていると、姫乃ちゃんが珍しく窺うような視線で私に問いかける。
「…紗希先輩って明後日は暇ですか?」
「もちろん暇だよ」
私はノータイムで答える。
私の返答が予想通りだったのか、姫乃ちゃんは小さく頷いた。
そして、なぜかこの場には相応しくない真剣な表情をして私に尋ねる。
「それなら、また前のようにお昼から一緒に過ごしませんか?」
もちろん大丈夫だ。
だけど姫乃ちゃんの、その真剣な表情に何かをいつもとは違うものを感じ取ってしまった私は、その理由がなんなのか少しだけ考えてしまう。
「だめ、ですか?」
私の迷いに姫乃ちゃんが残念そうにする。
「ううん、もちろん大丈夫だよ。」
明るく言い切る。
その理由が悪いものだと決まったわけではないなら、今は姫乃ちゃんとの時間を楽しめばいいと思う。
「良かったぁ。またこの間と同じ店に行きたいなぁって思ってたんです」
そう言う姫乃ちゃんは、いつも通り可愛らしい表情をして幸せそうに笑っている。
この表情のためならなんだってしてあげたくなるほどに。
「うん、明後日は楽しみだね」
「あっ、それと明後日の料理教室のことなんですけど」
そう言って姫乃ちゃんは神妙な顔つきになって話題を急展開する。
一体どんなことを言われるのかと身構えながら話の続きを待つ。
「今年最後の料理教室で長期休暇にも入るので、卒業試験を行おうと思います!」
突然の姫乃ちゃんからのお達しに私は驚いてしまう。
確かに最近は実践的なやり方、料理本をみながらだったら料理ができるようにひたすら練習していた。
でも明後日いきなり卒業試験と言われると胸がざわついてしまう。
卒業試験に何か重大な意味があるんじゃないかと。
「大したことはしないんですけどね?ただ長期休暇中でも紗希先輩が健康的な食生活を送れるか確認したいだけですよ」
「本当にそれだけ?」
私は不安げに聞いてしまう。
「本当にそれだけです」
姫乃ちゃんはそう言い切った。
…それなら、私はその言葉をただ信じるしかできない。
「そっか…分かったよ。明後日のお出かけも楽しみにしてるね」
「はい!もちろん明日の忘年会も、今度は紗希先輩と一緒に飲めると思って楽しみにしてますけどね?」
「ふふっ、今度は遠くからじゃなくて近くでお話ししようね」
そう言う私の言葉に、満面の笑みで返事をする姫乃ちゃん。
だけどその笑顔に、今だけしかみられない儚さをどこかで感じ取ってしまう。
でも私はそんなの気のせいだと自分に言い聞かせてその笑顔を見送る。
この日は穏やかに、でもどこか二人とも何かを隠したまま話を続けた。
明日にも仕事があるって言うのにいつもより少しだけ遅くまで…
翌日の仕事は運良く大した問題もなく終えることができた。
そして忘年会では、前半は面倒な上司の愚痴や自慢をなんとか受け流して耐え。
後半では姫乃ちゃんとの二人の世界を形成して幸せな時間を過ごした。
まぁ同僚や上司の男性からは空気の読めないやつ扱いされたかもしれないけどね。
あんた達なんかには姫乃ちゃんはもったいないからね。
明日どこに行くかワクワクしながら話しかけてくる姫乃ちゃんを愛でながら、忘年会だってことを忘れながらもずっと話し続けた。
「それじゃあ明日の12時に駅前に集合でお願いしますね」
忘年会が終わって姫乃ちゃんの家まで送り届けた時に明日の集合時間と場所を言われる。
「あれっ今回は駅前に集合なんだね?」
この間とは違う集合場所に何か意味でもあるんだろうか。
「はい…今回は紗希先輩とのお出かけ気分をより味わおうかなって思って」
なるほど?わかったような、わからないような。
まぁ姫乃ちゃんがそうしたいなら文句はないけど。
「うん分かったよ、駅前に12時に集合ね」
「はい、お願いしますね」
そうして姫乃ちゃんに背を向けて自分の家に歩き出した。
ふと気まぐれに後ろを振り返ってみると、まだこちらを見送っている姫乃ちゃんがいた。
驚きながらも手を振ると、姫乃ちゃんも手を振りかえしてくれる。
あいにく距離が離れすぎて表情は見えなかった。
だけどきっと、明日のことを楽しみにしている表情だと思う。
私は前を向いて家に帰った。
自分の望みは正直まだよくわかってはいない。
だけど、姫乃ちゃんにどうなって欲しいかは決まっている。
それならもし、万が一、その時が来たとしたら私の答えは決まっている。
*
それからは、年末の仕事納めに向けて猛然と仕事に打ち込んでいった。
姫乃ちゃんの様子はこれまでと変わらなかった。
だけど、私がどこか吹っ切れたことはなんとなく感じ取っているようだった。
それでも、二人での夕飯の時間は変わらずにとっていた。
仕事で遅くなることが増えた私のために、先に我が家にきて夕飯を作って待ってくれている姫乃ちゃん。
最初の頃のような申し訳なさはなく、ただただ嬉しさが込み上げてくる。
仮初めだとしても、私がずっと望んでいた暖かい家庭を感じることができた。
「ようやく今年の仕事も終わるね」
明日を残して今年の仕事はようやく終わりを迎える。
なんとか終わらせることができて一安心だよ、去年は最終日まで残業してなんとか一年を終えたからなぁ。
「そうですね、自分の分の仕事は先輩よりも少ないからあっという間でしたけど、紗希先輩が最近残業続きでしたから安心しましたよ」
本当にこの時期は残業が多い。
前もってやっておければいいんだけど、そういうわけにもいかない仕事がなぜか年末に限って残っているんだよね。
「ところで姫乃ちゃんは、冬休みに入ったら実家に帰るの?」
明日の仕事の後には忘年会をやって、そこからは年始まで長期休暇に入る。
私はこのアパートで年を越すつもりだけど、姫乃ちゃんがどうするつもりなのか今まで聞いてなかった。
「そうですね、おそらく実家に帰ることになると思います」
なんだかはっきりしないけど、姫乃ちゃんがいない長期休暇になりそうだ。
「そうかぁ、じゃあ明日の忘年会が最後に会う機会になっちゃうね」
ちょっと寂しいけど、姫乃ちゃんは家族に会いたいだろう。
それに来年になったらまたこうして会えるんだから我慢しなくちゃ。
そう思っていると、姫乃ちゃんが珍しく窺うような視線で私に問いかける。
「…紗希先輩って明後日は暇ですか?」
「もちろん暇だよ」
私はノータイムで答える。
私の返答が予想通りだったのか、姫乃ちゃんは小さく頷いた。
そして、なぜかこの場には相応しくない真剣な表情をして私に尋ねる。
「それなら、また前のようにお昼から一緒に過ごしませんか?」
もちろん大丈夫だ。
だけど姫乃ちゃんの、その真剣な表情に何かをいつもとは違うものを感じ取ってしまった私は、その理由がなんなのか少しだけ考えてしまう。
「だめ、ですか?」
私の迷いに姫乃ちゃんが残念そうにする。
「ううん、もちろん大丈夫だよ。」
明るく言い切る。
その理由が悪いものだと決まったわけではないなら、今は姫乃ちゃんとの時間を楽しめばいいと思う。
「良かったぁ。またこの間と同じ店に行きたいなぁって思ってたんです」
そう言う姫乃ちゃんは、いつも通り可愛らしい表情をして幸せそうに笑っている。
この表情のためならなんだってしてあげたくなるほどに。
「うん、明後日は楽しみだね」
「あっ、それと明後日の料理教室のことなんですけど」
そう言って姫乃ちゃんは神妙な顔つきになって話題を急展開する。
一体どんなことを言われるのかと身構えながら話の続きを待つ。
「今年最後の料理教室で長期休暇にも入るので、卒業試験を行おうと思います!」
突然の姫乃ちゃんからのお達しに私は驚いてしまう。
確かに最近は実践的なやり方、料理本をみながらだったら料理ができるようにひたすら練習していた。
でも明後日いきなり卒業試験と言われると胸がざわついてしまう。
卒業試験に何か重大な意味があるんじゃないかと。
「大したことはしないんですけどね?ただ長期休暇中でも紗希先輩が健康的な食生活を送れるか確認したいだけですよ」
「本当にそれだけ?」
私は不安げに聞いてしまう。
「本当にそれだけです」
姫乃ちゃんはそう言い切った。
…それなら、私はその言葉をただ信じるしかできない。
「そっか…分かったよ。明後日のお出かけも楽しみにしてるね」
「はい!もちろん明日の忘年会も、今度は紗希先輩と一緒に飲めると思って楽しみにしてますけどね?」
「ふふっ、今度は遠くからじゃなくて近くでお話ししようね」
そう言う私の言葉に、満面の笑みで返事をする姫乃ちゃん。
だけどその笑顔に、今だけしかみられない儚さをどこかで感じ取ってしまう。
でも私はそんなの気のせいだと自分に言い聞かせてその笑顔を見送る。
この日は穏やかに、でもどこか二人とも何かを隠したまま話を続けた。
明日にも仕事があるって言うのにいつもより少しだけ遅くまで…
翌日の仕事は運良く大した問題もなく終えることができた。
そして忘年会では、前半は面倒な上司の愚痴や自慢をなんとか受け流して耐え。
後半では姫乃ちゃんとの二人の世界を形成して幸せな時間を過ごした。
まぁ同僚や上司の男性からは空気の読めないやつ扱いされたかもしれないけどね。
あんた達なんかには姫乃ちゃんはもったいないからね。
明日どこに行くかワクワクしながら話しかけてくる姫乃ちゃんを愛でながら、忘年会だってことを忘れながらもずっと話し続けた。
「それじゃあ明日の12時に駅前に集合でお願いしますね」
忘年会が終わって姫乃ちゃんの家まで送り届けた時に明日の集合時間と場所を言われる。
「あれっ今回は駅前に集合なんだね?」
この間とは違う集合場所に何か意味でもあるんだろうか。
「はい…今回は紗希先輩とのお出かけ気分をより味わおうかなって思って」
なるほど?わかったような、わからないような。
まぁ姫乃ちゃんがそうしたいなら文句はないけど。
「うん分かったよ、駅前に12時に集合ね」
「はい、お願いしますね」
そうして姫乃ちゃんに背を向けて自分の家に歩き出した。
ふと気まぐれに後ろを振り返ってみると、まだこちらを見送っている姫乃ちゃんがいた。
驚きながらも手を振ると、姫乃ちゃんも手を振りかえしてくれる。
あいにく距離が離れすぎて表情は見えなかった。
だけどきっと、明日のことを楽しみにしている表情だと思う。
私は前を向いて家に帰った。
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