サ帝

紅夜蒼星

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 先日の対抗戦と違い、放送室から合図が流れるようなことはないらしい。
「相手してやるぜ童貞ボーイ」
 始まるや否や、竹沢先輩がこちらを見据えてくる。
 相も変わらずこちらは目の敵というか、今日のライバル認定されているようだ。
 別に本気で敵視されているわけではない。 
 サウナに入ったとき、なんとなく「目の前のコイツよりは後に出てやるぞ」というような、その程度の敵愾心だ。
 だから、本気で相手することじゃない。
 スマートに、シンプルに。竹沢先輩に返事をしてあげることにしよう。
「どどどど童貞じゃないんですが? 人聞きの悪いことは言うのはよしてもらおうか、堀川先輩」
「かすってもねぇんだが?」
 めちゃくちゃ動揺してしまった。
 若干声も震えてた気がする。
 何人か笑ってるが、絶対お前らも童貞だろ。
 え? もしかして違うの?
 いつから高校一年生の性事情はそんなに爛れてしまったの?
「いいっていいって。一般の男子高校生で童貞なんて、別に珍しくもないし」
 一般て。
 もしかしてこの先輩は一般の男子高校生ではないというのか。
「そういう先輩は何年卒なんですか?」
「俺はDC2年卒だ」
 ホントに一般ではなかった。
 今は卒業年ってそういう表現するの? 男子中学二年生のときという認識で合っているだろうか。
 一瞬紀元前(BC)かと思った。
 男は誰しも童貞を卒業してからが始まりだってことか? そう言いたいのか?
 やかましいわ。
「ころ……たいしたものですね」
「一瞬見え隠れした殺気、俺でなきゃ見逃しちゃうね」
 漏れ出た殺気も見逃してくれなかった。
 つくづくこの人は一般人とは異なる存在らしい。
「そういえば大海よ、新人戦にお前も当然出場するんだが、何か滝から聞いてるか?」
「いやまぁ特には……」
 新人戦。
 入学と同時に部員の一員として活躍する一年生もいるにはいるが、大部分の一年生は三年生が引退したこの大会から参戦する。
 高校生の運動部にとって、新人戦とインターハイが一年を通して大きな大会にあたる。
 秋口から冬にかけて行われる新人戦と、最後の夏の集大成、インターハイ。
 中学の頃にも同じものがあったし、経験済みと言えば経験済みだ。
「そうか? 他の一年生もいることだし言っておくけど、今年の俺たちは正直、優勝を狙える立場にある」
 GTSの新人戦はいきなり県大会から行われる。
 それをいきなり優勝を狙えるとは、なかなか大きく出たものだ。
 自分の、部員たちの実力を見てなのか。
 あるいは。
 あるいは、卑しくも俺、「福良大海」の存在を鑑みてのことだろうか。
「自分がいるからとでも思ってるなら、それは大きな間違いだぜ」
「そそそそそんなこと考えてないんですが? あまり俺を性格の悪いカスだと思うのはやめてもらおうか勅使河原先輩」
「お前のそのキャラ何なの? 動揺どころじゃなくないかその震え声」
 めちゃくちゃ図星を突かれてまた動揺してしまった。
 なんて性格の悪いカスみたいな先輩なんだろう。
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