サ帝

紅夜蒼星

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「先輩方は飯とかあんまり気にしないんすねぇ」
 奢ってもらった豆乳を片手に、なんとなく気になったのか淳介がそれとなく聞いている。
 言われてみれば、テニスという体力必須の競技では、食事も競技に支障が出ないようなものを選ぶのかもしれない。
 月並みだが、高たんぱく低カロリーとか?
 だがそもそもの話、テニスだろうがなんだろうが、GTSを超える環境の競技はなかなかないだろう。
 別にGTSは我慢大会ではないが、設定される時間まで熱に耐えるという性質上、最低限の我慢強さは必要になる。
 我慢強さ。体力、気力、精神力。
 たかがサウナで何をいうかと言われるかもしれない。
 だがこれは事実だ。
 少なくとも高校生の身分で出来うるスポーツとしては、これほどまでに過酷な条件下で行うスポーツはないだろう。
「GTSにおいて筋肉ある方が有利、デブは不利、といった体形による有利不利はない」
 ――と、思われる。
 やや細めというか、身長の割には痩せすぎ感も否めない滝部長がいう。
 ペットボトルコーラのキャップを緩めながらだ。さっきはチキンを食べてたし、意外と買い食いするんだなこの人。
「第一、俺たちゃ花の高校生。買い食いぐらいは問題ないだろ」
 たしかに、高校生は食べても食べてもその分消費されてしまう。体の成長に加え、脳みそが勉強によってカロリーを消費しているのだろう。
 部活に勉強に打ち込む滝部長の姿を見れば、なんとなく高校生の栄養事情が窺える。
 かたや俺はと言えば、中肉中背と自信を持って言えるほどの、一般的すぎる体形だ。運動もほとんどしていなければ、勉強もしていない。
 サウナくらいしか打ち込んでいるものはない。
 サウナでカロリーが消費できるかと言えば、そんなことはないらしいし。
 流れるのは汗だけだ。
 うら若き男子高校生たちの。
 古井先輩あたりは喜びそうなものである。
「最近調子がいいな大海。明日からよろしく頼むぞ」
 そういえば、と滝部長は切り出し、俺の肩を叩いてくる。
 一瞬何の話かと思ったが、そういえば明日は新人戦じゃないか。
 完全に忘れていた。先輩の多重債務の話や、高校生のカロリー事情なんてどうでもよかった。よくはないけど。
「おかげさんで体力がついてきたというか、元に戻ってきたって感じですね」
「これまでサボりすぎてただけな気がしなくもないが……」
 滝部長はそういうが、体の仕上がりはなんとなく感じている。
 全国制覇した二年前と比べても遜色ないような、言葉では言い表せないような感覚。
 ただ必死だったあの頃の感じに比べて、全身が鋭敏になっているような、曖昧な感じ。
 どこか精気に満ち満ちているような、漠然とした自信。
 そんな身体の感覚に加えて、重ねてきた練習と過去の経験により鍛えられた目がある。
 自分と相手の呼吸を。サウナの温度を。これからの未来すら見通せるような、両の眼が俺にはある。
 だが、だからこそ気付いてしまう。
 目の前にいる男は、そんな俺と比肩する、あるいは俺を超えているのではないかと思うほどに、絶好調だと。
「滝部長こそ、今回こそ全勝狙えるんじゃないですか」
 それは謙遜によって出てきた言葉なんかではない。
 それは遠慮によって出てきた言葉なんかでは、けっしてない。
 客観的な認識。現実、事実だったからだ。
 サウナには、GTSには体形など関係ない。
 目の前にいる滝部長本人が言った言葉だ。
 なるほど、たしかにそうだろう。滝部長が言うのであれば、猶更信ぴょう性が増すというものだ。
 滝部長は見た目だけで判断すればあるいは、ひ弱な印象を受けるかもしれない。
 だが漂ってくるオーラは。強者の雰囲気は。勘違いしてぶつかってきた相手を、忽ちのうちに粉砕してしまうような気さえする。
 その細身の身体で宿すは、大木の如き存在感。
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