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第二話 【預言】 4
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「しかし最上軍師ってのは思ったよりも恐ろしいもんだな」
「はぁ?」
ギルドルグとゼルフィユの二人は、部屋に散らばったガラスの破片や砂利を集め、家の外まで捨てに来ていた。メルカイズと優の二人は、椅子に座って談笑の真っ最中だ。後処理は元気な若い男二人に、というわけである。文句を言うつもりもないが。
先ほど撃退したまま放っておいたあの三人は、いつの間にか姿を消していた。逆に死んでいないか不安であったが、体力だけはそこそこあるようだ。だがあそこまで実力の差を見せられては、復讐なんて考えはしないだろうから安心である。
それよりも、と。
彼は、退屈そうに欠伸をし始めた人狼の青年に話しかける。
「ちょいちょい後ろを向いたりしてたが、あのじいさん、多分顔色一つ変えてねぇ。俺はまだしも、仲いいんだろ? お前ら二人。そんな二人のピンチに呑気に微笑んでやがったぞ」
「まぁあの人がどこかずれてるのは知ってたしな。大体この国の最上軍師とやらなんだろ? そういう奴じゃねぇと務まらねぇだろ」
ゼルフィユは思ったよりも落ち着いた考えができているようだ。先ほどの獣のような攻勢の面影はまるでない。本当に、先ほど獣と化した彼とは別人だった。彼の赤い瞳も心なしか落ち着いたように見え、彼のギルドルグに対する態度も、若干柔らかくなったようである。
とはいえ、預言者。であり元最上軍師。
二人は絶大な信頼を置いているように感じられるが、ギルドルグからすれば意味が分からない。
先ほどから全く動かず見守っていたのに、ゼルフィユは少しも非難する様子もない。この分だと優も同じであろう。味方の戦闘展開に一喜一憂している人物では務まらないという言い分は分かるが。
本当にこの三人は、一体どういう絆で結ばれているのだ。
「ゼルフィユ、お前ら三人は一体……」
「知りたいか?」
時が止まる。
二人の間に、冷たい風が一筋流れた。
ギルドルグは真面目な顔をするゼルフィユから目を逸らさず、ゴクリと唾を飲む。
「……教えてくれ」
「やだ」
「即答!?」
拒否するが早いか、ゼルフィユは踵を返して家の中へと戻ろうとする。
分かってたけどね! 大体こんな流れだと思ってたけどね! ギルドルグは軽く落胆するが、同時に理解した。
彼らの関係は、今日会ったばかりの輩に教えてやれるほど、浅いものではないということ。彼らの数奇な邂逅は人に簡単に語れるものではないということか。例えそれが、今日から行動をともにする男が相手であろうとも。
「まぁそのうちに教えてやるさ。今はまだお前を完全に信用したわけじゃない」
ゼルフィユは彼に背中を向きながら言った。絶対に教えてやることは出来ない、ということではないようで、少し安堵する。
それにしても、優に対するゼルフィユの執着ぶりは何なのだろうか。それも、時が来れば教えてくれるというのだろうか。
なんにせよ、まず信用を勝ち取るところから始めないとな。
態度こそ最初の時とは大分違うが、それだけではいけないのだ。仲間とは、背中を守りあう関係でこそ仲間なのだから。背中を刺される心配があるうちは、仲間とは間違っても言えないのだ。
「はは……まぁこれからよろしく頼むよ」
「だが油断はするな。腹が減ったら衝動的にお前の頭を噛み砕いてしまうかもしれねぇ」
「お前それこれからの旅に支障が出るんですが」
「冗談だ。たまにしかやらないから安心しろ」
「やる気満々かよ! 今すぐ家に帰れ!」
しかし傍から見れば、二人は仲の良い友人そのものであった。当然、ゼルフィユは全力で否定するだろうが。
「そういえばお前は魔法を使わないのか?」
先程の戦い、そういえば使っていなかったので聞いてみる。状況的にも使う必要が全くなかったと言えばそれまでだが。
ギロリと、喧嘩を売っているような目つきでゼルフィユはギルドルグの方に視線を移した。
「今まで必要なかったんだから上手く使えないんだよ……んだよ悪いかよ」
「悪くはねぇが、今までどうやって生活してたんだお前? 料理なりシャワーなりで使わないってことはないだろ」
「ゼルは一般魔法なら問題ないわ。あと暗いところでも夜目が効くから、強い炎魔法は特に必要ないそうよ」
機嫌が悪くなりかけているゼルフィユに、優からの助け舟。いつの間にやら家の外に出てきたようだ。
今までずっと一緒にいたのだから、彼女は彼女でゼルフィユのフォローもしてきたのだろうか。
一般魔法とはそのまま一般人の生活に使う魔法であり、シャワーや洗い物などの水魔法や、明かりや料理のための電気魔法、炎魔法が主な魔法だ。そのための魔法石はどの街にも専門の店があるため、入手も容易い。
使い方は簡単だ。例えば水を浴びたいのなら、シャワーノズルに魔法石を設置して、魔法を作動するだけである。料理ならば鍋の下に炎魔法で火を顕現させて使用する。
だがこれらの魔法を戦闘や特殊作業に使うのは、出力が弱すぎて話にならない。そのため一般魔法とは別の魔法石が必要となり、力の調節を練習しない限り使用は難しい。
兵士のための学校や専門職のための施設以外で学ぶことは稀なため、戦闘魔法や特殊魔法を使える者は選ばれた存在と言ってもいいかもしれない。
「いつまで話してるの。早く家の中に戻りなさいよ」
「あぁ……てか優、俺のことをいつからゼルって呼ぶようになったんだ?」
「今からよ。ギルドルグとゼルフィユでギルゼル……なんだか二人一緒みたいで可愛いわ」
「呼び方は自由なんだけどその言い方はやめてくれる? いやなんか心がザワザワして気持ち悪い」
さっきまでのピリついた空気はどこにやら。
ギルドルグはひとまず、肺の中の戦闘で淀んだ空気を冷たい大気へ吐き出してみる。
そして呼び方について適当に考えてみて、まぁどうでもいいかと肩をすくめ、預言者の家に戻った。
「はぁ?」
ギルドルグとゼルフィユの二人は、部屋に散らばったガラスの破片や砂利を集め、家の外まで捨てに来ていた。メルカイズと優の二人は、椅子に座って談笑の真っ最中だ。後処理は元気な若い男二人に、というわけである。文句を言うつもりもないが。
先ほど撃退したまま放っておいたあの三人は、いつの間にか姿を消していた。逆に死んでいないか不安であったが、体力だけはそこそこあるようだ。だがあそこまで実力の差を見せられては、復讐なんて考えはしないだろうから安心である。
それよりも、と。
彼は、退屈そうに欠伸をし始めた人狼の青年に話しかける。
「ちょいちょい後ろを向いたりしてたが、あのじいさん、多分顔色一つ変えてねぇ。俺はまだしも、仲いいんだろ? お前ら二人。そんな二人のピンチに呑気に微笑んでやがったぞ」
「まぁあの人がどこかずれてるのは知ってたしな。大体この国の最上軍師とやらなんだろ? そういう奴じゃねぇと務まらねぇだろ」
ゼルフィユは思ったよりも落ち着いた考えができているようだ。先ほどの獣のような攻勢の面影はまるでない。本当に、先ほど獣と化した彼とは別人だった。彼の赤い瞳も心なしか落ち着いたように見え、彼のギルドルグに対する態度も、若干柔らかくなったようである。
とはいえ、預言者。であり元最上軍師。
二人は絶大な信頼を置いているように感じられるが、ギルドルグからすれば意味が分からない。
先ほどから全く動かず見守っていたのに、ゼルフィユは少しも非難する様子もない。この分だと優も同じであろう。味方の戦闘展開に一喜一憂している人物では務まらないという言い分は分かるが。
本当にこの三人は、一体どういう絆で結ばれているのだ。
「ゼルフィユ、お前ら三人は一体……」
「知りたいか?」
時が止まる。
二人の間に、冷たい風が一筋流れた。
ギルドルグは真面目な顔をするゼルフィユから目を逸らさず、ゴクリと唾を飲む。
「……教えてくれ」
「やだ」
「即答!?」
拒否するが早いか、ゼルフィユは踵を返して家の中へと戻ろうとする。
分かってたけどね! 大体こんな流れだと思ってたけどね! ギルドルグは軽く落胆するが、同時に理解した。
彼らの関係は、今日会ったばかりの輩に教えてやれるほど、浅いものではないということ。彼らの数奇な邂逅は人に簡単に語れるものではないということか。例えそれが、今日から行動をともにする男が相手であろうとも。
「まぁそのうちに教えてやるさ。今はまだお前を完全に信用したわけじゃない」
ゼルフィユは彼に背中を向きながら言った。絶対に教えてやることは出来ない、ということではないようで、少し安堵する。
それにしても、優に対するゼルフィユの執着ぶりは何なのだろうか。それも、時が来れば教えてくれるというのだろうか。
なんにせよ、まず信用を勝ち取るところから始めないとな。
態度こそ最初の時とは大分違うが、それだけではいけないのだ。仲間とは、背中を守りあう関係でこそ仲間なのだから。背中を刺される心配があるうちは、仲間とは間違っても言えないのだ。
「はは……まぁこれからよろしく頼むよ」
「だが油断はするな。腹が減ったら衝動的にお前の頭を噛み砕いてしまうかもしれねぇ」
「お前それこれからの旅に支障が出るんですが」
「冗談だ。たまにしかやらないから安心しろ」
「やる気満々かよ! 今すぐ家に帰れ!」
しかし傍から見れば、二人は仲の良い友人そのものであった。当然、ゼルフィユは全力で否定するだろうが。
「そういえばお前は魔法を使わないのか?」
先程の戦い、そういえば使っていなかったので聞いてみる。状況的にも使う必要が全くなかったと言えばそれまでだが。
ギロリと、喧嘩を売っているような目つきでゼルフィユはギルドルグの方に視線を移した。
「今まで必要なかったんだから上手く使えないんだよ……んだよ悪いかよ」
「悪くはねぇが、今までどうやって生活してたんだお前? 料理なりシャワーなりで使わないってことはないだろ」
「ゼルは一般魔法なら問題ないわ。あと暗いところでも夜目が効くから、強い炎魔法は特に必要ないそうよ」
機嫌が悪くなりかけているゼルフィユに、優からの助け舟。いつの間にやら家の外に出てきたようだ。
今までずっと一緒にいたのだから、彼女は彼女でゼルフィユのフォローもしてきたのだろうか。
一般魔法とはそのまま一般人の生活に使う魔法であり、シャワーや洗い物などの水魔法や、明かりや料理のための電気魔法、炎魔法が主な魔法だ。そのための魔法石はどの街にも専門の店があるため、入手も容易い。
使い方は簡単だ。例えば水を浴びたいのなら、シャワーノズルに魔法石を設置して、魔法を作動するだけである。料理ならば鍋の下に炎魔法で火を顕現させて使用する。
だがこれらの魔法を戦闘や特殊作業に使うのは、出力が弱すぎて話にならない。そのため一般魔法とは別の魔法石が必要となり、力の調節を練習しない限り使用は難しい。
兵士のための学校や専門職のための施設以外で学ぶことは稀なため、戦闘魔法や特殊魔法を使える者は選ばれた存在と言ってもいいかもしれない。
「いつまで話してるの。早く家の中に戻りなさいよ」
「あぁ……てか優、俺のことをいつからゼルって呼ぶようになったんだ?」
「今からよ。ギルドルグとゼルフィユでギルゼル……なんだか二人一緒みたいで可愛いわ」
「呼び方は自由なんだけどその言い方はやめてくれる? いやなんか心がザワザワして気持ち悪い」
さっきまでのピリついた空気はどこにやら。
ギルドルグはひとまず、肺の中の戦闘で淀んだ空気を冷たい大気へ吐き出してみる。
そして呼び方について適当に考えてみて、まぁどうでもいいかと肩をすくめ、預言者の家に戻った。
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