ライオンハート

紅夜蒼星

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第二話 【預言】 5

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「さて、君たちにはこれから旅をしてもらうことになる。まぁあまり気負いはするな、この国が滅んでいくのを防ぐなんぞ、君たちだけには出来るわけがない。いっそのこと、人生の経験として旅をしてしまうのも悪くないじゃろう」

 二人が家の中に戻ると、メルカイズに色々と話をされた。いくらなんでも否定的すぎやしませんかねと、ギルドルグは内心でツッコみまくっていたが。
 ただ、まぁ。
 老人の言っていることももちろん理解できる。
 この国の滅びなんていう重大な事象は、しがない一般人であるギルドルグ達には手に余りすぎる。それこそ昔の知り合いでもなんでも使って、軍隊や帝国上層部とメルカイズ自身が連携を取ればいいだけの話なのだ。
 それをしない理由、否、できない理由はたった一つ。
 預言が絶対とはいえ、滅びが間近に迫っていること、どんな形で滅びるのかなどということは確信が持てないからだ。
 
「そういえば預言者さんよ、俺はあくまでも宝狩人だぜ? 旅も何もねぇだろ」

「心配するなギルドルグ君よ。君は、大いなる流れに身を任せていればいい。君の意思とは無関係なところで、定められた運命は動いていく。歯車が狂っているならば、しばらくはそのまま身を任せることじゃ。狂っているのに気付いた者が、最悪のタイミングには間に合うように、歯車を勝手に直してくれるじゃろう」

 そういう者が、英雄と呼ばれるのさ。メルカイズは小さく付け足した。
 狂った歯車を正す者こそが英雄か。
 それならば、父は一体どんな歯車を正したというのだろう。死を遂げ救国の英雄となった父は一体、どんな運命を変えたというのだろう。

「大いなる流れ、ねぇ」

 預言者らしい言葉だと、ギルドルグは感じた。
 大いなる流れ。すなわち運命。意思とは無関係に、ということにやや不安を覚えるが。
 そういうものなのだろう。

「とりあえず俺は一旦ノーランドの街まで仕事に戻るつもりだが。別にそれは絶対だめだってことはねぇよな? あくまで宝狩人の仕事が最優先なわけだし」

「構わん、というよりも道は全て君たちで決めるのじゃ。わしもどこへ向かえばいいのかは分からん。正解が分からんのだからなぁ」

 メルカイズは三人の顔を一人ずつ見ていく。
 焼き付けるように。ここで出会ったことを、自らの脳裏に刻むように。
 
「言ったじゃろう、流れに身を任せよと。今は流れを見つける時。運命の針を見つける時。頼んだよ、若人よ」

 預言者は頷き、晴れやかな笑顔を見せた。
 先ほどの微笑みとは違って、心からの笑みのように感じられる。全く根拠はない。だが、悪くない。
 それは認められたように、英雄の息子という肩書を認められたように思った。この国を頼むぞ、と。そういった預言者の意思を受け取ったように思った。

「じゃあとりあえずお前らの家に戻って支度をするか。レブセレムに帰ることがあるかもわからんし」

「そうね。ではメルカイズさん、お邪魔しました」

「じーさん、今まで楽しかったぜ。達者でな」

 三人は座っていた椅子から立ち上がり、家の扉へと向かう。メルカイズも頷き、扉へと歩き始めた。

「何かあったら自分の命を優先しなさい。無理して何かをする必要はない。ギルドルグ君、君もじゃよ」

「わかってるって」

 メルカイズは家の外まで見送りに来てくれた。意外に優しいというか、なんというか。
 忠告をいくつかされたが、ギルドルグからしたら基本中の基本を言っているだけだった。優もゼルフィユも少し受け流しているような気もするし、単純にこの老人は仲良しの二人と別れるのが悲しいだけなのかもしれない。
 しっかりとした姿勢で立っている姿は年齢を感じさせないが、少し人間味も感じられた。
 そして最後にと、メルカイズは忠告を締めにかかる。

「足りないのは、あと一歩じゃよ」

 ――どういうことだ?
 ギルドルグは間の抜けた表情でメルカイズを見たが、メルカイズは手を軽く振ると家の中に戻っていった。
 忠告というか、旅の心得のようなものを聞かされ続けた最後にこれである。
 やけに具体的な助言だ。なんのことなのか、どういう意味なのか――今のギルドルグには、検討もつかなかった。
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