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第三話 【依頼】 1
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ギルドルグたちはあれから二人の家で準備をし、レブセレムからやや南東にあるノーランドの街へと“機関車”で向かった。
詳しい原理は分からないが、機関車というのは魔宝石の魔力を使って動かしているらしい。まだまだ全ての街に行けはしないものの、以前に比べて国の交通事情は格段に便利になったものだ。大きく黒い鉄の塊が、人間よりもはるかに速いスピードで力強く荒野を駆ける姿は圧巻である。
そしてそんな機関車を使って、暗くなり始めた頃に彼ら三人はノーランドの街へと到着した。
レブセレムの街よりもさらに大きく、規模や交通の面から、エルハイム帝国西部の中心と言っても過言ではない。
まずギルドルグが、ノーランドの駅からすぐのところにある“ダークウインド”という看板を掲げている店に入る。すると店主らしき男に、ギルドルグは声をかけられた。
「おぉーギルドルグじゃねぇか! まだ生きてやがったかこの野郎」
「お前の軽口聞いてホッとしたのは初めてだぜ鏡介……」
カウンターに肘をつきながら薄ら笑いを浮かべる男に、ギルドルグは苦笑しながら近づく。
ゼルフィユと優も遅れて中に入るや否や、部屋の壁を見て感嘆の声を上げた。広がっていたのは、剣や槍などのあらゆる種類の武器であり、どれもが誇り高そうに光沢を放っていた。ここ“ダークウィンド”は、どうやら武器屋のようである。
そして赤いボサボサの髪を軽く掻きながら、鏡介と呼ばれた男は今度は不審そうな顔を浮かべた。
「その顔を見る限り、今回の依頼は失敗か? お前にしちゃ珍しいな」
「意味わかんねぇ能力使う奴がいたんだよ。ぶっちゃけた話、ここに立ってる理由すらわかんねぇ」
はぁぁぁと、鏡介の方が深いため息をついた。
ガッカリしたような溜息ではなく、驚嘆したような溜息だ。心底興味を刺激されたように、ギルドルグを見る。
「おいおい、お前がそこまで言う相手とはなかなかじゃねぇの? んで、さっきから商品凝視してるそこのお二人さんは一体誰だい」
ギルドルグが後ろを向くと、剣や槍を手に取り、まじまじと凝視する二人の姿があった。欲しいものが目の前にあるときの、子どものそれとそっくりである。
ゼルフィユは使い辛そうに武器を軽く振り回していたが、優は刀身が他のものよりやや反っている、見慣れない剣を興味深そうに見つめていた。やや青みがさした刀身は、優の瞳と髪色によく映えており、凛としたその姿は誰よりもこの剣が似合うだろうと、ギルドルグは直感で感じた。
「っほぉぉぉぉ嬢ちゃん。よく似合うじゃねぇかよ! よけりゃ名前なんか教えてくれねぇか?」
「……夜昏優よ」
「優ちゃんか。いい名前だよ、親御さんには感謝しねぇとな」
鏡介は愉快そうに笑ったが、優はピクリとも表情を変えなかった。表現に乏しい奴である。
ただその代わりに、彼女はうっとりとした目線を剣へと向けていた。刀身を嘗め回すようにじっくりと観察している。
「嬢ちゃんはお目が高い。その剣はネヴィアゲートの更に東、失われた極東の国からの遺品だ。それぞれ作り方や材料、そして込められた意思も違う。ただ材料だけが未だ分からなくてな、再現は難しいんだよ。ただ発見されたものはどいつもこいつも一級品だ。嬢ちゃんが持ってるそれも、銘からしてその品格ってもんが分かる」
「……“月影”」
剣に刻まれた銘の通り、まさに月の姿を映したかのような美しい刀身は、見る者を魅了するようだった。
しばらくギルドルグは呆けたように彼女を見つめていたが、やがて思い出したように鏡介の方を向きなおす。
「依頼を受けて一週間ってとこか。どうだい宝狩人諸君の様子は」
「そうさな、別に難しい依頼を受けてるわけじゃねぇし、上々だな。今滞ってる依頼は別にないと思うぜ」
「ねぇ、貴方の言っていた“依頼制”の宝狩人って、一体どういうことなの」
月影を元の場所に返すと、優はカウンターの二人に声をかけた。ゼルフィユはまだ武器を見回っている。
ギルドルグは一瞬無表情になり、ポンと自分の額を叩いた。
「お前らが全然聞いてこねぇから知ってのことかと思ったぜ……。まぁいいや、依頼制ってのはな」
「私たちが悪いとでも言いたげね。自分の失敗を人に擦り付けるなんて恥ずかしくないのかしら。幻滅しました。実家に帰らせていただきます」
「あ、うん。とりあえず話聞いてくれるかな」
このままいくと話が全く進まない。というか何で皆俺の話を聞いてくれないんだろ。
ギルドルグはやれやれと溜息をついて語りだす。
詳しい原理は分からないが、機関車というのは魔宝石の魔力を使って動かしているらしい。まだまだ全ての街に行けはしないものの、以前に比べて国の交通事情は格段に便利になったものだ。大きく黒い鉄の塊が、人間よりもはるかに速いスピードで力強く荒野を駆ける姿は圧巻である。
そしてそんな機関車を使って、暗くなり始めた頃に彼ら三人はノーランドの街へと到着した。
レブセレムの街よりもさらに大きく、規模や交通の面から、エルハイム帝国西部の中心と言っても過言ではない。
まずギルドルグが、ノーランドの駅からすぐのところにある“ダークウインド”という看板を掲げている店に入る。すると店主らしき男に、ギルドルグは声をかけられた。
「おぉーギルドルグじゃねぇか! まだ生きてやがったかこの野郎」
「お前の軽口聞いてホッとしたのは初めてだぜ鏡介……」
カウンターに肘をつきながら薄ら笑いを浮かべる男に、ギルドルグは苦笑しながら近づく。
ゼルフィユと優も遅れて中に入るや否や、部屋の壁を見て感嘆の声を上げた。広がっていたのは、剣や槍などのあらゆる種類の武器であり、どれもが誇り高そうに光沢を放っていた。ここ“ダークウィンド”は、どうやら武器屋のようである。
そして赤いボサボサの髪を軽く掻きながら、鏡介と呼ばれた男は今度は不審そうな顔を浮かべた。
「その顔を見る限り、今回の依頼は失敗か? お前にしちゃ珍しいな」
「意味わかんねぇ能力使う奴がいたんだよ。ぶっちゃけた話、ここに立ってる理由すらわかんねぇ」
はぁぁぁと、鏡介の方が深いため息をついた。
ガッカリしたような溜息ではなく、驚嘆したような溜息だ。心底興味を刺激されたように、ギルドルグを見る。
「おいおい、お前がそこまで言う相手とはなかなかじゃねぇの? んで、さっきから商品凝視してるそこのお二人さんは一体誰だい」
ギルドルグが後ろを向くと、剣や槍を手に取り、まじまじと凝視する二人の姿があった。欲しいものが目の前にあるときの、子どものそれとそっくりである。
ゼルフィユは使い辛そうに武器を軽く振り回していたが、優は刀身が他のものよりやや反っている、見慣れない剣を興味深そうに見つめていた。やや青みがさした刀身は、優の瞳と髪色によく映えており、凛としたその姿は誰よりもこの剣が似合うだろうと、ギルドルグは直感で感じた。
「っほぉぉぉぉ嬢ちゃん。よく似合うじゃねぇかよ! よけりゃ名前なんか教えてくれねぇか?」
「……夜昏優よ」
「優ちゃんか。いい名前だよ、親御さんには感謝しねぇとな」
鏡介は愉快そうに笑ったが、優はピクリとも表情を変えなかった。表現に乏しい奴である。
ただその代わりに、彼女はうっとりとした目線を剣へと向けていた。刀身を嘗め回すようにじっくりと観察している。
「嬢ちゃんはお目が高い。その剣はネヴィアゲートの更に東、失われた極東の国からの遺品だ。それぞれ作り方や材料、そして込められた意思も違う。ただ材料だけが未だ分からなくてな、再現は難しいんだよ。ただ発見されたものはどいつもこいつも一級品だ。嬢ちゃんが持ってるそれも、銘からしてその品格ってもんが分かる」
「……“月影”」
剣に刻まれた銘の通り、まさに月の姿を映したかのような美しい刀身は、見る者を魅了するようだった。
しばらくギルドルグは呆けたように彼女を見つめていたが、やがて思い出したように鏡介の方を向きなおす。
「依頼を受けて一週間ってとこか。どうだい宝狩人諸君の様子は」
「そうさな、別に難しい依頼を受けてるわけじゃねぇし、上々だな。今滞ってる依頼は別にないと思うぜ」
「ねぇ、貴方の言っていた“依頼制”の宝狩人って、一体どういうことなの」
月影を元の場所に返すと、優はカウンターの二人に声をかけた。ゼルフィユはまだ武器を見回っている。
ギルドルグは一瞬無表情になり、ポンと自分の額を叩いた。
「お前らが全然聞いてこねぇから知ってのことかと思ったぜ……。まぁいいや、依頼制ってのはな」
「私たちが悪いとでも言いたげね。自分の失敗を人に擦り付けるなんて恥ずかしくないのかしら。幻滅しました。実家に帰らせていただきます」
「あ、うん。とりあえず話聞いてくれるかな」
このままいくと話が全く進まない。というか何で皆俺の話を聞いてくれないんだろ。
ギルドルグはやれやれと溜息をついて語りだす。
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