ライオンハート

紅夜蒼星

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第三話 【依頼】 2

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「基本街の掲示板なんかに張り出されてる魔法石の入手依頼をこなしたり、自分で魔法石を見つけて市場に出すのが宝狩人だ。しかしそれを続けていって名を上げた奴は、ギルドに入っていることが珍しくない。依頼客も成功率の高い狩人に頼みたいんだから、そんな宝狩人が集まるギルドに入っていれば報酬がいい仕事も入ってくる。仕事がなかなか回ってこなくとも、ギルド全員でそれを補うから飢える心配もねぇ。つまりはギルドに入ってるのは“依頼制”の宝狩人と呼ばれるのさ。まぁ一人で依頼制の仕事をこなす奴もいるそうだが、俺にはそんな真似できないね」

「前々から思ってたんだけどよお」

 今度はゼルフィユが質問し始める。

「魔法石はそのへんで適当に探すのか? 場所も分からないなら、探しようがねぇだろ」

「新しく魔法石が出現すると、そいつから光が溢れ出るのさ。その光がデカいほど内包魔力も多い。光を目撃するか、その情報が入ってきた奴が宝狩人に依頼するのさ。純性の魔法石は、そのへんで売ってる魔法石より遥かに美しく、魔力の応用が利く。単なる観賞用、戦闘用、装飾品に求めるお客様もいらっしゃるぜ」

「あぁ、売られている魔法石は生活用品だものね」

 優が合点がいったように頷いた。
 あくまで基礎的な知識を伝えたはずなのだが、まさかこの二人は知らなかったのか。若干この先が不安になってしまうギルドルグだった。

「そんでこのギルドルグは宝狩人ギルド、“ダークウィンド”の稼ぎ頭よ!」

 鏡介が、調子良さげにギルドルグと肩を組む。ギルドルグとよく似た髪色をする彼だが、ややくせっ毛なようで、ギルドルグの頬にチクチク髪が刺さっている。
 顔をしかめるギルドルグであったが、そんなことはお構いなしに鏡介は続けた。

「難易度が高い依頼も大抵こなしちまうおかげで、このあたりのギルドじゃ目の敵よ。ただそいつらにはこいつほどの実力がねぇから指くわえてみてるしかねぇんだけどな!」

「おいおいどうしたそんな褒めんなよ。お前が褒めるなんざ本当に世界でも終わるのかな」

「まぁ間違って受けちまった高難易度の依頼をこいつに全部回してるだけだけど……ごめんなんでもない」

「テメェそうだったのか! 今の発言でこれまでの信頼関係がパァだからな! 次の危険な依頼はテメェも連れてくからな!」

 肩を組んでキスでもしそうな距離だった鏡介を遠ざけて蹴りを入れる。
 完全に予想外の告白である。このギルドにいるうちは知りたくなかった情報がそこにはあった。
 
「仕方ないじゃない。実力があるんだから過程なんてどうでもいいでしょ。鏡介さんからしたら要らない道具が思ったより高値で売れたみたいな、そんな感じよ」

「お前も何なの? 褒めてんのか喧嘩売ってんのかハッキリしてくれる?」

 何で出会って間もない女にプライドをずたずたにされなければならないのか。男だったら顔面に拳を食らわせていたところだ。
 そして退屈そうにゼルフィユが欠伸を噛み締めながら言う。

「とりあえず、疲れたし泊まる場所を探さねぇか? 日も完全に落ちちまったし」

「それならうちの二階から上の宿を使ってくれて構わんよ。ダークウィンド関係者しか泊まれない宿だ。部屋にはシャワーもついてるし、なかなか設備はいいぜ?」

「んじゃあ空いてる部屋を優とゼルフィユが使えよ。俺は俺の部屋で寝る」

「銀貨1枚になりやす」

「おいおい鏡介それはあまりにもだろ。俺の知り合いということで無料で泊まらせてくれよ」

「ギルドルグ、お前の宿泊料金がだよ」

「お前稼ぎ頭に向かって扱い厳しくない!?」

 冗談だよ、と鏡介は軽快に笑う。
 疲れたようにため息をつき、鏡介が立っているカウンターの裏側に向かうギルドルグ。二人も彼の後ろにつき、木で作られた階段を踏みしめた。
 ダークウィンドの建物は一階の武器屋も含め四階まで存在し、ギルドルグの部屋は三階に設けられている。ゼルフィユと優は、二階で向かい合うちょうど空いていた部屋に入ることになった。

「確かにいい部屋ね。私の家とそう変わりはないかも」

「おいおい優、いくらなんでも言い過ぎじゃねぇか? 流石にあの家とは……ってデカいじゃねぇか喧嘩売ってんのか!」

「うるせぇよ! 黙ってもう寝ろよ!」

 彼らを部屋まで案内し、ようやくギルドルグは一人になる。
 やっと落ち着いたと言わんばかりに、彼は階段で深く息をついた。
 階段を上った先、目の前に彼の愛すべき部屋はある。ギィィと音を立てながら扉を開ける。ベッドと机、ソファしかない質素な部屋だが、長い間暮らしてきた、言わば故郷のような部屋だ。
 一度は戻れないことを覚悟した。
 だがギルドルグ・アルグファストは無事、この寮、この部屋に帰還した。
 その事実に全身を安堵が包み、彼はとてつもない眠気に誘われた。

「とりあえず寝て……明日以降は明日考えるか」

 服を脱ぎ捨て、そのままベッドに倒れこむ。
 太陽の朗らかな匂いがし、母のぬくもりさえ感じるフカフカのベッドである。彼はまどろみ、しばしの安息に身を横たえた。
 しかし運命は、そんな彼をねぎらおうとはせず、それどころか鞭打つことになるのである。
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