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第三話 【依頼】 3
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翌日。ギルドルグは優のビンタで目を覚ました。
「あっ……痛い……」
「おはようギル。なんだか鏡介さんが話があるそうよ。早く下に来て頂戴」
右頬をさすりながら彼は上体を起こした。意識が覚醒してくるにつれて、だんだんと左頬にも痛みを感じ始めてきた。
まさか両方に平手打ちを食らわされたのか。出会って二日目の男になんて真似を。というかいつの間に俺をギルなんてあだ名で呼ぶようになった。
ギルドルグはブツクサ言いながら、部屋に備えてあった新しい服装に着替えて一階へと足を運んだ。
彼は基本的に服装に無頓着であるため、服装は動きやすさを優先されて決められる。ただ服装を選ぶのは彼ではなく鏡介であるために、時々値段だけで決めたような凄まじいものが備わっているときもある。今回は一般的なパーカーと厚めの素材で出来たズボンであったが。
この建物は一階の入り口に鏡介が経営する武器屋があり、その奥には食堂兼、会議室が存在する。二十名ほどが座ることができるが、今日は優とゼルフィユ、そして鏡介のみが座っていた。
鏡介が最奥、二人は鏡介と対面する形で座っていたため、とりあえずギルドルグも二人の真ん中の椅子に腰を下ろした。
「さてギルドルグ」
「あーなんだよ。俺は依頼を片付けてきてまだ寝足りないんだっつの。朝食を出せ朝食を」
「霧厳山脈で、永遠の秘宝を探してこい」
ギルドルグの頭が完全に覚醒した。鏡介の顔を見つめるも、彼が冗談を言っているようには全く見えない。いつもふざけたような笑みをして依頼を知らせる鏡介が、口元を微かにも動かさない。
何年もギルドルグは彼を通して依頼を受けてきたが、こんなことは初めてだった。
「どういうことだ」
「昨日お前さんたちが上に行った直後だったかなぁ。顔を隠した依頼人が来て、とある依頼をしていったのさ。ライオンハート、永遠の秘宝の調査をな」
三人とも言葉を失った。すぐに行き先が見つかって運が良かった、どころの騒ぎではなかったからだ。
あまりにも、都合がよすぎる。ご都合主義にもほどがある。流れに身を任せよと、昨日出会った預言者は言った。だがここまであからさまに、その流れは彼らを誘導していくものなのだろうか。
永遠の秘宝へと。ライオンハートへと。
しかし問題は依頼された場所そのものにあった。
「よりにもよって霧厳山脈か……一体なんで、よりにもよってまたそこの依頼がウチに来る? あそこは国境警備軍の管轄だろ。軍に任せればいい話じゃねぇか」
霧厳山脈はエルハイムとオスゲルニアとの国境線ともなっている、非常に広大な山脈だ。峰の平均標高が高く、標高が高いところでは未だに、この異常気象で雪が降り続いている。
さらに問題は、名前の通り深い霧に覆われているということだ。多くの宝狩人が霧厳山脈の依頼に挑み、そして失敗した。失敗の確率が高いとまでは言えないが、けして軽く見ることは出来ない難易度だ。
ギルドルグが失敗した依頼は報酬が高く、金に目がくらんだ鏡介が二つ返事で受けてしまった依頼だった。今から依頼主に失敗を告げるのも嫌だというのに、失敗した地へもう一度赴けなど、普通なら断っている依頼だ。
そう、普通なら。
「さぁ? そういうことを聞く前に出て行かれたからな。だが前金と一緒に、こいつを置いていった」
鏡介は机の下から何かを取り出し、三人に見えるような位置に置いた。
それは剣だった。見る限りでは一般的な剣とあまり変わった様子はない。しかしどこか謎めいた雰囲気を感じさせる。
「この剣を置いていったんだよ。エルハイム王家の紋章、それが彫られた剣をな」
「……王家の紋章ねぇ」
ギルドルグは鏡介から剣を受け取り、改めてその剣を観察する。
なるほどたしかに、剣身の根元あたりには紋章らしきものが彫られていた。一本の剣と、一匹の獅子。二つは並ぶように配置され、忠誠と勇気を示している。この国の人間ならば誰もが知っている印だ。
つまり、こんな剣を持っている依頼人ということは、王家の関係者ということだろうか。
「王家からのご命令とあらば断るわけにはいかねぇけどよ。採ってこいじゃなくて調査してこいとはどういうことだ」
「単純に真偽を確かめたいだけだろ。秘宝の噂を聞いて、他の奴が手に入れたらことだしな。あくまで可能性を潰していくとかそんなところじゃねぇのか」
なんとなく事情は分かるが、完全には腑に落ちない。
第一そういう役目を民間の宝狩人に任せていいものなのか。王家の息がかかったちゃんとした者に任せるのが安心なのではないか。
胸に引っかかるような不安を感じながら、受け取った剣を握ってみる。
いい剣だ。
ギルドルグは心からそう思った。
本物の剣は使い手を選ぶという話を鏡介から聞いたことがある。だとしたら、握ってから心に染み渡るようなこの感覚がそうだというのか。まるで手と剣が再会を喜んでいるかのようだ。
「ギルドルグ、その剣持っていくか?」
「は?」
鏡介の申し出にギルドルグは素っ頓狂な声を出す。
冗談で言ったのかと思ったが、彼を見つめるダークウィンドの店主の目は真剣そのものだった。これは剣として役目を果たすため、鏡介に渡されたのではないと思っていたが。
「前も言ったよな? 俺には武器の声が聞こえる。……待ってるんだ。そいつはお前に使われるのを待ってるぜ」
鏡介がこんな立派な武器をタダで提供するなんてことはありえないと思っていた。
ギルドルグは考えながら、晴れて自分のものとなった剣を見つめる。
真っ直ぐに伸びた剣身は銀色に輝き、荘厳な雰囲気を纏っているように見える。握りの部分は使い込まれたように傷だらけだが、どこか浮世離れした刃の部分とは違い、以前の使用者の信頼が感じられるようだった。
昔の使い手は、間違いなく名高い剣士だったのだろう。王のため、国家のために戦って、そして何らかの事情で剣を置いたのだ。
何より、しっくりくる。理由は全く分からないが、今まで扱ってきたどの剣よりも、しっくりくる。
「いいのかよこんな貴重そうな剣を持っていって。平気で俺は使うし、お前のもとには二度と帰ってこないかもしれないぜ?」
「だから言ってるだろ、その剣がお前を望んでるんだ。第三者である俺の意思なんか関係ない。俺は剣の意思を邪魔するつもりはないし、その権利もない。その剣は今日からお前のものだ」
自分の意思ではなく、武器の意思こそ優先されるべきだ。
ダークウィンドの首領、鏡介とはそういう男で、特異な考えを持っている男だ。それゆえ、武器に関しては誰よりも信頼がおける。
そんな鏡介がこう言っているのだ。使わない理由はないだろう。
「でもどこかで見たんだよなぁその剣を。確実に見覚えはある」
「そりゃあ鏡介、職業的にお前が作ったなんてこともあるんじゃねぇか? 珍しくはないだろ」
鏡介は武器屋の経営、ギルドの首領、そしてもう一つ武器の製造をも行っていて、幅広い分野に顔が利く。時系列で言えば武器製造人から経営を始め、最後にこのギルドを創り上げたらしい。
店の中に所狭しと並ぶ剣や弓矢、さらには使い方のよく分からない武器の半分以上は彼の創作であり、この国の軍にも武器を提供するほどの有名人だ。
そして何より武器に対する執着はすさまじく、どんな客が相手であろうとも武器が認めない限り売ることは一切ないという、ギルドルグ曰く“偏執的武器博愛主義”を掲げる男であった。
「俺は俺が関わった武器は二度と忘れねぇ。それが武器に対する俺の礼儀だ。だから作った、鍛え直したなんてことはねぇ。はてどこで見たのか……」
「ギルドルグ、とりあえず私たちは霧厳山脈へ向かえばいいのかしら」
二人だけで話を続けていたせいか、完全に帳の外だった優がじれったそうに話に割り込んできた。話自体は聞いていたらしいが、確かにこの剣の過去なんてどうでもいい話だろう。
そうだとギルドルグは返事をし、気持ちを切り替える。
「それじゃあ朝飯を出してくれよ。準備をして、昼過ぎには霧厳山脈へ出発する」
「了解だ。それと優ちゃんとか言ったか? お嬢ちゃん」
いきなり鏡介は優に何かを投げつける。優は動じることなくそれを受け取った。
それは、またも剣であった。しかし今度は最近見た記憶がある剣。
昨日優が眺めていた、“月影”だった。
「これを私にどうしてほしいの?」
「使ってみてくれ。餞別として受け取ってくれよ」
またも他人にタダで剣を譲ろうとしている鏡介。その姿にやはり、ギルドルグは疑念を持つ。
単純に先ほどのように、剣が認めた相手――というわけなのだろうか。いつも通り鏡介はへらへら笑っているが、その笑顔からは、何の考えも読み取れない。
しかし、別に剣が害をなすわけではないだろう。名刀が自分のもとを離れたがっているのが悔しいとか、そんな単純な理由ではないか。
ギルドルグは無理矢理納得すると、受け取った剣を自分の足元に置いた。
「レブセレムは北部終点駅だし、レブセレムに一度寄ってもいいかもしれないわね」
「なんだ結局レブセレムに戻るのかよ? またじいさんに会っていくか?」
「昨日の今日でまた会うのはちょっとな……」
ギルドルグたちは朝食をとり、それから街に出て仕事の支度を整えた。その後三人は再び、レブセレムの街へと向かう。
ただ昨日と違って家には戻らない。預言者に会うこともない。慣れ親しんだであろうあの街の人々に、二人が会うことはしばらくない。
目的地は呪われた山々。忌まわしき、北の軍事帝国との国境線。魔物の巣窟とも噂される。
霧厳山脈である。
「あっ……痛い……」
「おはようギル。なんだか鏡介さんが話があるそうよ。早く下に来て頂戴」
右頬をさすりながら彼は上体を起こした。意識が覚醒してくるにつれて、だんだんと左頬にも痛みを感じ始めてきた。
まさか両方に平手打ちを食らわされたのか。出会って二日目の男になんて真似を。というかいつの間に俺をギルなんてあだ名で呼ぶようになった。
ギルドルグはブツクサ言いながら、部屋に備えてあった新しい服装に着替えて一階へと足を運んだ。
彼は基本的に服装に無頓着であるため、服装は動きやすさを優先されて決められる。ただ服装を選ぶのは彼ではなく鏡介であるために、時々値段だけで決めたような凄まじいものが備わっているときもある。今回は一般的なパーカーと厚めの素材で出来たズボンであったが。
この建物は一階の入り口に鏡介が経営する武器屋があり、その奥には食堂兼、会議室が存在する。二十名ほどが座ることができるが、今日は優とゼルフィユ、そして鏡介のみが座っていた。
鏡介が最奥、二人は鏡介と対面する形で座っていたため、とりあえずギルドルグも二人の真ん中の椅子に腰を下ろした。
「さてギルドルグ」
「あーなんだよ。俺は依頼を片付けてきてまだ寝足りないんだっつの。朝食を出せ朝食を」
「霧厳山脈で、永遠の秘宝を探してこい」
ギルドルグの頭が完全に覚醒した。鏡介の顔を見つめるも、彼が冗談を言っているようには全く見えない。いつもふざけたような笑みをして依頼を知らせる鏡介が、口元を微かにも動かさない。
何年もギルドルグは彼を通して依頼を受けてきたが、こんなことは初めてだった。
「どういうことだ」
「昨日お前さんたちが上に行った直後だったかなぁ。顔を隠した依頼人が来て、とある依頼をしていったのさ。ライオンハート、永遠の秘宝の調査をな」
三人とも言葉を失った。すぐに行き先が見つかって運が良かった、どころの騒ぎではなかったからだ。
あまりにも、都合がよすぎる。ご都合主義にもほどがある。流れに身を任せよと、昨日出会った預言者は言った。だがここまであからさまに、その流れは彼らを誘導していくものなのだろうか。
永遠の秘宝へと。ライオンハートへと。
しかし問題は依頼された場所そのものにあった。
「よりにもよって霧厳山脈か……一体なんで、よりにもよってまたそこの依頼がウチに来る? あそこは国境警備軍の管轄だろ。軍に任せればいい話じゃねぇか」
霧厳山脈はエルハイムとオスゲルニアとの国境線ともなっている、非常に広大な山脈だ。峰の平均標高が高く、標高が高いところでは未だに、この異常気象で雪が降り続いている。
さらに問題は、名前の通り深い霧に覆われているということだ。多くの宝狩人が霧厳山脈の依頼に挑み、そして失敗した。失敗の確率が高いとまでは言えないが、けして軽く見ることは出来ない難易度だ。
ギルドルグが失敗した依頼は報酬が高く、金に目がくらんだ鏡介が二つ返事で受けてしまった依頼だった。今から依頼主に失敗を告げるのも嫌だというのに、失敗した地へもう一度赴けなど、普通なら断っている依頼だ。
そう、普通なら。
「さぁ? そういうことを聞く前に出て行かれたからな。だが前金と一緒に、こいつを置いていった」
鏡介は机の下から何かを取り出し、三人に見えるような位置に置いた。
それは剣だった。見る限りでは一般的な剣とあまり変わった様子はない。しかしどこか謎めいた雰囲気を感じさせる。
「この剣を置いていったんだよ。エルハイム王家の紋章、それが彫られた剣をな」
「……王家の紋章ねぇ」
ギルドルグは鏡介から剣を受け取り、改めてその剣を観察する。
なるほどたしかに、剣身の根元あたりには紋章らしきものが彫られていた。一本の剣と、一匹の獅子。二つは並ぶように配置され、忠誠と勇気を示している。この国の人間ならば誰もが知っている印だ。
つまり、こんな剣を持っている依頼人ということは、王家の関係者ということだろうか。
「王家からのご命令とあらば断るわけにはいかねぇけどよ。採ってこいじゃなくて調査してこいとはどういうことだ」
「単純に真偽を確かめたいだけだろ。秘宝の噂を聞いて、他の奴が手に入れたらことだしな。あくまで可能性を潰していくとかそんなところじゃねぇのか」
なんとなく事情は分かるが、完全には腑に落ちない。
第一そういう役目を民間の宝狩人に任せていいものなのか。王家の息がかかったちゃんとした者に任せるのが安心なのではないか。
胸に引っかかるような不安を感じながら、受け取った剣を握ってみる。
いい剣だ。
ギルドルグは心からそう思った。
本物の剣は使い手を選ぶという話を鏡介から聞いたことがある。だとしたら、握ってから心に染み渡るようなこの感覚がそうだというのか。まるで手と剣が再会を喜んでいるかのようだ。
「ギルドルグ、その剣持っていくか?」
「は?」
鏡介の申し出にギルドルグは素っ頓狂な声を出す。
冗談で言ったのかと思ったが、彼を見つめるダークウィンドの店主の目は真剣そのものだった。これは剣として役目を果たすため、鏡介に渡されたのではないと思っていたが。
「前も言ったよな? 俺には武器の声が聞こえる。……待ってるんだ。そいつはお前に使われるのを待ってるぜ」
鏡介がこんな立派な武器をタダで提供するなんてことはありえないと思っていた。
ギルドルグは考えながら、晴れて自分のものとなった剣を見つめる。
真っ直ぐに伸びた剣身は銀色に輝き、荘厳な雰囲気を纏っているように見える。握りの部分は使い込まれたように傷だらけだが、どこか浮世離れした刃の部分とは違い、以前の使用者の信頼が感じられるようだった。
昔の使い手は、間違いなく名高い剣士だったのだろう。王のため、国家のために戦って、そして何らかの事情で剣を置いたのだ。
何より、しっくりくる。理由は全く分からないが、今まで扱ってきたどの剣よりも、しっくりくる。
「いいのかよこんな貴重そうな剣を持っていって。平気で俺は使うし、お前のもとには二度と帰ってこないかもしれないぜ?」
「だから言ってるだろ、その剣がお前を望んでるんだ。第三者である俺の意思なんか関係ない。俺は剣の意思を邪魔するつもりはないし、その権利もない。その剣は今日からお前のものだ」
自分の意思ではなく、武器の意思こそ優先されるべきだ。
ダークウィンドの首領、鏡介とはそういう男で、特異な考えを持っている男だ。それゆえ、武器に関しては誰よりも信頼がおける。
そんな鏡介がこう言っているのだ。使わない理由はないだろう。
「でもどこかで見たんだよなぁその剣を。確実に見覚えはある」
「そりゃあ鏡介、職業的にお前が作ったなんてこともあるんじゃねぇか? 珍しくはないだろ」
鏡介は武器屋の経営、ギルドの首領、そしてもう一つ武器の製造をも行っていて、幅広い分野に顔が利く。時系列で言えば武器製造人から経営を始め、最後にこのギルドを創り上げたらしい。
店の中に所狭しと並ぶ剣や弓矢、さらには使い方のよく分からない武器の半分以上は彼の創作であり、この国の軍にも武器を提供するほどの有名人だ。
そして何より武器に対する執着はすさまじく、どんな客が相手であろうとも武器が認めない限り売ることは一切ないという、ギルドルグ曰く“偏執的武器博愛主義”を掲げる男であった。
「俺は俺が関わった武器は二度と忘れねぇ。それが武器に対する俺の礼儀だ。だから作った、鍛え直したなんてことはねぇ。はてどこで見たのか……」
「ギルドルグ、とりあえず私たちは霧厳山脈へ向かえばいいのかしら」
二人だけで話を続けていたせいか、完全に帳の外だった優がじれったそうに話に割り込んできた。話自体は聞いていたらしいが、確かにこの剣の過去なんてどうでもいい話だろう。
そうだとギルドルグは返事をし、気持ちを切り替える。
「それじゃあ朝飯を出してくれよ。準備をして、昼過ぎには霧厳山脈へ出発する」
「了解だ。それと優ちゃんとか言ったか? お嬢ちゃん」
いきなり鏡介は優に何かを投げつける。優は動じることなくそれを受け取った。
それは、またも剣であった。しかし今度は最近見た記憶がある剣。
昨日優が眺めていた、“月影”だった。
「これを私にどうしてほしいの?」
「使ってみてくれ。餞別として受け取ってくれよ」
またも他人にタダで剣を譲ろうとしている鏡介。その姿にやはり、ギルドルグは疑念を持つ。
単純に先ほどのように、剣が認めた相手――というわけなのだろうか。いつも通り鏡介はへらへら笑っているが、その笑顔からは、何の考えも読み取れない。
しかし、別に剣が害をなすわけではないだろう。名刀が自分のもとを離れたがっているのが悔しいとか、そんな単純な理由ではないか。
ギルドルグは無理矢理納得すると、受け取った剣を自分の足元に置いた。
「レブセレムは北部終点駅だし、レブセレムに一度寄ってもいいかもしれないわね」
「なんだ結局レブセレムに戻るのかよ? またじいさんに会っていくか?」
「昨日の今日でまた会うのはちょっとな……」
ギルドルグたちは朝食をとり、それから街に出て仕事の支度を整えた。その後三人は再び、レブセレムの街へと向かう。
ただ昨日と違って家には戻らない。預言者に会うこともない。慣れ親しんだであろうあの街の人々に、二人が会うことはしばらくない。
目的地は呪われた山々。忌まわしき、北の軍事帝国との国境線。魔物の巣窟とも噂される。
霧厳山脈である。
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