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第五話 【力試】 6
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兵士たちが織りなす輪の中心。そこで待つアルドレドが、優に声をかける。
「こんにちは。負ける気は毛頭ありませんが、いい闘いが出来るといいですね」
「貴方には何故か負ける気がしないわね。悪いけど、貴方にはないものを私は持っている」
へぇ、とピースベイクが面白そうに見つめた。
優もなかなか言うものだ。間違いなく自分より強い相手に挑発とは。
彼女の新たな一面が垣間見れるかもしれないと、ギルドルグは腰を上げ、位置をやや前に陣取る。
「挑発のつもりですか? 相手が悪かったですね。私は滅多なことでは怒らな――」
ただそこは将軍補佐官、子供の悪戯を窘めるように微笑んだ。アルドレドは微笑みながら相手を観察する。外套こそ脱いだものの、防寒の支度はしてあるようだ。リブ生地で編まれた紺色のセーターは、なんとも暖かそうである。
やや見つめて、アルドレドはセーターを歪ませる二つの物体に気が付いた。
そしてそのまま真下を向く。彼女にはついているものが、自分には確認できなかった。絶壁である。
再度前を向く。口角を上げながら、憐みの眼差しで自分を見ている敵がいた。
「覚悟ォォォォ!」
腰に携えた長剣を一瞬で抜き、そのまま優に斬りかかる。優はあらかじめ右手で握っていた月影でそれをいなして後方へと距離をとるも、アルドレドはすぐさま左足を踏み込み、追撃を開始する。
嵐のような剣が優を襲い、手に持つ倭刀で攻撃を受け流す。だが彼女は防戦一方となり、反撃の目途もたてられない。
「おいおい滅多なことでは怒らないんじゃないのかよ」
ギルドルグが隣にいる彼女の上司に問うが、彼もまたやれやれと額に手を当てていた。
「あいつはなんというかクソ真面目な馬鹿だからな……いや作戦立案や戦闘に関しては全く文句のつけようがねぇんだが」
なんというか、残念な人らしかった。
それはともかく、ギルドルグが贔屓目に見ても、優が劣勢なのは明らかだった。
互いに剣での攻防が続いているが、距離をとればアルドレドは魔法攻撃によってたちまち距離を詰めた。爆炎やら雷撃の中突っ込んでくる戦乙女は、正面から見れば恐ろしいに違いない。
「差別のつもりはないが、アルドレドは女にして将軍補佐官に上り詰めた。この国境警備軍史上初めてな。そして女だからと甘く見て闘いを挑んできた愚かな奴らには、必ず報いを与えてきた」
優の顔に疲れが見え始めたが、相対するアルドレドは息一つ切れていない。
技術面はもちろんのこと、体力の面でも、彼女は男顔負けの動きを見せている。
基礎体力、基礎技術が極限まで高められているのだ。激しい攻防を続けて尚、あの動きを維持することがどれほど困難なことか。
「アルドレド・イントゥガンルは基礎の戦闘能力が極めて高い、れっきとした警備軍のエースだ。少しばかり経験を積んだ程度の戦士ごとき、造作もない」
ただの美人だとは最初から思っていなかったが、まさかここまでの戦士とは。
ギルドルグ自身ですら、正面から戦えば彼女と戦って勝つ見込みは薄いだろうと、自虐にも近い発想が浮かぶ。
相手の得物を釘付けにしつつ、別の部位を次に狙う。距離が離れれば魔法で距離を詰める。その繰り返し。単純だが、効果的である。命のやり取りをしている状況でないが故に使われていないが、隙を見せた瞬間に魔法が放たれれば、その時点で決着である。
「お前の連れもなかなかいい動きをしてるな。ただあくまでも一般人の域を出ない。あの剣は鏡介からもらったもんだろ? あいつがあの剣を渡すってことは相当の使い手だろうが、なんにせよ相手が悪かったな。あいつが女に負けるとは思えない」
ここでようやく、優が魔法らしきものを使って反撃する。胸に左手を当て、そのまま前に突き出すと、掌底から黒い針のようなものが飛び出した。アルドレドは不意を突かれたのか目を見開くも、なんとか攻撃を回避した。
今度は彼女自身がバックステップで距離をとった。その足元に先ほど放たれた針が突き刺さると、それに彼女は目をとられる。
地面に半分ほど突き刺さっていたのは、加工されたような黒曜石であった。
「……ん? あの女」
ピースベイクは訝しげな視線を優に向けた。
「随分と勿体ぶって魔法を使ったが、あいつ魔法石をどこに忍ばせてあるんだ? 指輪も見当たらないし、懐に隠してるわけでもなさそうだが」
アルドレドは両の人差し指、中指に指輪を付けている。だが優には指輪を付けている様子はない。
違和感に気付いたか、アルドレドも目の前の敵に訝しげな視線を向ける。
本来戦闘において、魔法石を持っていない状況というのは滅多にないと言っていい。あらゆる魔法が魔法石によって生み出されるのだから当然だ。
しかし、魔法が魔法石を必要としないならばどうだろうか?
例えば身の回りにある色そのものを、魔力として還元できるなら?
「おいおいちょっと待て……存在したのか!?」
二人の剣士が距離を詰めようと駆けた。
アルドレドの方は左側に体を捻って剣を引き、そのまま剣を横へ振った。優はそれを身をかがめて避け、地面へ片手をつく。
それが優の攻撃の合図となった。地面から土壁が顕現し、剣を振り切った後の無防備なアルドレドの腹部を襲った。
完全に不意を突かれた上に防御もとれず、衝撃をモロに受けたアルドレドはそのまま後ろへと倒れた。
辺りを静寂が包む。国境軍の兵士たちは状況に理解が追い付いていないようで、困惑の表情を浮かべていた。
「こんにちは。負ける気は毛頭ありませんが、いい闘いが出来るといいですね」
「貴方には何故か負ける気がしないわね。悪いけど、貴方にはないものを私は持っている」
へぇ、とピースベイクが面白そうに見つめた。
優もなかなか言うものだ。間違いなく自分より強い相手に挑発とは。
彼女の新たな一面が垣間見れるかもしれないと、ギルドルグは腰を上げ、位置をやや前に陣取る。
「挑発のつもりですか? 相手が悪かったですね。私は滅多なことでは怒らな――」
ただそこは将軍補佐官、子供の悪戯を窘めるように微笑んだ。アルドレドは微笑みながら相手を観察する。外套こそ脱いだものの、防寒の支度はしてあるようだ。リブ生地で編まれた紺色のセーターは、なんとも暖かそうである。
やや見つめて、アルドレドはセーターを歪ませる二つの物体に気が付いた。
そしてそのまま真下を向く。彼女にはついているものが、自分には確認できなかった。絶壁である。
再度前を向く。口角を上げながら、憐みの眼差しで自分を見ている敵がいた。
「覚悟ォォォォ!」
腰に携えた長剣を一瞬で抜き、そのまま優に斬りかかる。優はあらかじめ右手で握っていた月影でそれをいなして後方へと距離をとるも、アルドレドはすぐさま左足を踏み込み、追撃を開始する。
嵐のような剣が優を襲い、手に持つ倭刀で攻撃を受け流す。だが彼女は防戦一方となり、反撃の目途もたてられない。
「おいおい滅多なことでは怒らないんじゃないのかよ」
ギルドルグが隣にいる彼女の上司に問うが、彼もまたやれやれと額に手を当てていた。
「あいつはなんというかクソ真面目な馬鹿だからな……いや作戦立案や戦闘に関しては全く文句のつけようがねぇんだが」
なんというか、残念な人らしかった。
それはともかく、ギルドルグが贔屓目に見ても、優が劣勢なのは明らかだった。
互いに剣での攻防が続いているが、距離をとればアルドレドは魔法攻撃によってたちまち距離を詰めた。爆炎やら雷撃の中突っ込んでくる戦乙女は、正面から見れば恐ろしいに違いない。
「差別のつもりはないが、アルドレドは女にして将軍補佐官に上り詰めた。この国境警備軍史上初めてな。そして女だからと甘く見て闘いを挑んできた愚かな奴らには、必ず報いを与えてきた」
優の顔に疲れが見え始めたが、相対するアルドレドは息一つ切れていない。
技術面はもちろんのこと、体力の面でも、彼女は男顔負けの動きを見せている。
基礎体力、基礎技術が極限まで高められているのだ。激しい攻防を続けて尚、あの動きを維持することがどれほど困難なことか。
「アルドレド・イントゥガンルは基礎の戦闘能力が極めて高い、れっきとした警備軍のエースだ。少しばかり経験を積んだ程度の戦士ごとき、造作もない」
ただの美人だとは最初から思っていなかったが、まさかここまでの戦士とは。
ギルドルグ自身ですら、正面から戦えば彼女と戦って勝つ見込みは薄いだろうと、自虐にも近い発想が浮かぶ。
相手の得物を釘付けにしつつ、別の部位を次に狙う。距離が離れれば魔法で距離を詰める。その繰り返し。単純だが、効果的である。命のやり取りをしている状況でないが故に使われていないが、隙を見せた瞬間に魔法が放たれれば、その時点で決着である。
「お前の連れもなかなかいい動きをしてるな。ただあくまでも一般人の域を出ない。あの剣は鏡介からもらったもんだろ? あいつがあの剣を渡すってことは相当の使い手だろうが、なんにせよ相手が悪かったな。あいつが女に負けるとは思えない」
ここでようやく、優が魔法らしきものを使って反撃する。胸に左手を当て、そのまま前に突き出すと、掌底から黒い針のようなものが飛び出した。アルドレドは不意を突かれたのか目を見開くも、なんとか攻撃を回避した。
今度は彼女自身がバックステップで距離をとった。その足元に先ほど放たれた針が突き刺さると、それに彼女は目をとられる。
地面に半分ほど突き刺さっていたのは、加工されたような黒曜石であった。
「……ん? あの女」
ピースベイクは訝しげな視線を優に向けた。
「随分と勿体ぶって魔法を使ったが、あいつ魔法石をどこに忍ばせてあるんだ? 指輪も見当たらないし、懐に隠してるわけでもなさそうだが」
アルドレドは両の人差し指、中指に指輪を付けている。だが優には指輪を付けている様子はない。
違和感に気付いたか、アルドレドも目の前の敵に訝しげな視線を向ける。
本来戦闘において、魔法石を持っていない状況というのは滅多にないと言っていい。あらゆる魔法が魔法石によって生み出されるのだから当然だ。
しかし、魔法が魔法石を必要としないならばどうだろうか?
例えば身の回りにある色そのものを、魔力として還元できるなら?
「おいおいちょっと待て……存在したのか!?」
二人の剣士が距離を詰めようと駆けた。
アルドレドの方は左側に体を捻って剣を引き、そのまま剣を横へ振った。優はそれを身をかがめて避け、地面へ片手をつく。
それが優の攻撃の合図となった。地面から土壁が顕現し、剣を振り切った後の無防備なアルドレドの腹部を襲った。
完全に不意を突かれた上に防御もとれず、衝撃をモロに受けたアルドレドはそのまま後ろへと倒れた。
辺りを静寂が包む。国境軍の兵士たちは状況に理解が追い付いていないようで、困惑の表情を浮かべていた。
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