45 / 52
第八話 【饗宴】 2
しおりを挟む
入り口は崩壊に巻き込まれたようで姿が見えない。一番入り口に近い柱には彼ら四人がおり、二本ほど先でアルドレドとライドがたった今悪鬼を打倒した。ピースベイクとダズファイルの姿が奥の玉座の方に視認でき、近い内に剣を交えるであろうことが見て取れた。
雪と瓦礫はほとんど中央を境として、広間を二分するように流れ込んでおり、右側に残された三本の柱の根元は雪と瓦礫に埋もれ、先端は虚空へと伸びるだけである。
「ディムさん、その剣は」
「あん? そういえばお前らこの剣見るのは初めてだったか」
ゼルフィユとの決闘では拳のみで勝って見せたので、剣を振るう姿自体見るのは初めてだが。
そして剣に目を向けたが、その異質さにギルドルグは首を傾げた。一瞥するだけで、どんな人間でもその剣の異様さに気付く。事実彼ら三人も、彼の剣に疑問を覚えた。
瓦礫の方から、三体の悪鬼がこちらに向かっているのが視認できた。ゼルフィユは足を怪我し、優は傍でとりあえずの応急処置を行っている。となればギルドルグも戦いに身を投じるべきだが、前に出たディムに手で制される。
「いくぞ“アリゲイター”。エルハイムの勝利をその顎で掴め」
彼の振るう剣は、普通のものとは一線を画している。材料として、鰐の牙が使用されているのだ。一般的な剣は刺し、切り裂くために形を成す。しかし彼の剣はその形状と材料から、刺して切り裂くことは難しい。
ディムは緩慢とも言うべき動きで大上段へと剣を振るい上げた。それに止まらず左脚をやや前に出し重心を後ろにすると、そのまま腕を軽く曲げて右側に体を捻り、切先を正面に向けるような独特な構えをとる。しかし悪鬼たちが彼の前方から三体ほど、彼の隙を狙って既にやって来ている。
ギルドルグはそれを視界に捉え、彼の援護をしようと一歩踏み出した。しかし振り向いたディムと視線が合うと、たちまちにして足が止まる。
ここまで暴力的な信頼が生まれたのは初めてだった。心の底から信頼させるのではなく、そうせざるをえないほどの絶対的な何かを、ギルドルグはディムの瞳に見た。
悪鬼たちには意思が、知識が、自我があるかも分からない。だがあるのだとしたら、彼らは確かに見ただろう。自らを食らおうとする、王者の顎を。
「鰐王」
ディムは何を思ってこの牙剣とでもいうべき剣を使用するのか。
答えは、敵を叩き潰すためであった。砕けぬ強固な剣でもって、彼自身の力でもって、目の前の敵を粉砕するためだった。如何なるものでも貪り食らう鰐の牙を、彼は対人戦においても余すことなく利用する。
暴力的なまでの勢いで剣は横に薙がれ、走ってきていた悪鬼たちは三体とも吹き飛ばされたと同時に霧に散る。そのままディムは再び振り向くことなく他の仲間の援護へと向かった。
鰐の突進のようなすさまじい一撃だった。まさしく鰐の王を冠するに相応しい技だ。
やがて優はゼルフィユの傷を氷で固めるという荒々しい応急処置を終え、二人が立ち上がった。
「ギル」
「あぁ……いくぞ」
彼らは再び戦場へと身を投じる。
そしてギルドルグが悪鬼の一体と剣を交えたのと、玉座へ臨む階段の前でピースベイクとダズファイルが対面したのは、ほとんど同時だった。
雪と瓦礫はほとんど中央を境として、広間を二分するように流れ込んでおり、右側に残された三本の柱の根元は雪と瓦礫に埋もれ、先端は虚空へと伸びるだけである。
「ディムさん、その剣は」
「あん? そういえばお前らこの剣見るのは初めてだったか」
ゼルフィユとの決闘では拳のみで勝って見せたので、剣を振るう姿自体見るのは初めてだが。
そして剣に目を向けたが、その異質さにギルドルグは首を傾げた。一瞥するだけで、どんな人間でもその剣の異様さに気付く。事実彼ら三人も、彼の剣に疑問を覚えた。
瓦礫の方から、三体の悪鬼がこちらに向かっているのが視認できた。ゼルフィユは足を怪我し、優は傍でとりあえずの応急処置を行っている。となればギルドルグも戦いに身を投じるべきだが、前に出たディムに手で制される。
「いくぞ“アリゲイター”。エルハイムの勝利をその顎で掴め」
彼の振るう剣は、普通のものとは一線を画している。材料として、鰐の牙が使用されているのだ。一般的な剣は刺し、切り裂くために形を成す。しかし彼の剣はその形状と材料から、刺して切り裂くことは難しい。
ディムは緩慢とも言うべき動きで大上段へと剣を振るい上げた。それに止まらず左脚をやや前に出し重心を後ろにすると、そのまま腕を軽く曲げて右側に体を捻り、切先を正面に向けるような独特な構えをとる。しかし悪鬼たちが彼の前方から三体ほど、彼の隙を狙って既にやって来ている。
ギルドルグはそれを視界に捉え、彼の援護をしようと一歩踏み出した。しかし振り向いたディムと視線が合うと、たちまちにして足が止まる。
ここまで暴力的な信頼が生まれたのは初めてだった。心の底から信頼させるのではなく、そうせざるをえないほどの絶対的な何かを、ギルドルグはディムの瞳に見た。
悪鬼たちには意思が、知識が、自我があるかも分からない。だがあるのだとしたら、彼らは確かに見ただろう。自らを食らおうとする、王者の顎を。
「鰐王」
ディムは何を思ってこの牙剣とでもいうべき剣を使用するのか。
答えは、敵を叩き潰すためであった。砕けぬ強固な剣でもって、彼自身の力でもって、目の前の敵を粉砕するためだった。如何なるものでも貪り食らう鰐の牙を、彼は対人戦においても余すことなく利用する。
暴力的なまでの勢いで剣は横に薙がれ、走ってきていた悪鬼たちは三体とも吹き飛ばされたと同時に霧に散る。そのままディムは再び振り向くことなく他の仲間の援護へと向かった。
鰐の突進のようなすさまじい一撃だった。まさしく鰐の王を冠するに相応しい技だ。
やがて優はゼルフィユの傷を氷で固めるという荒々しい応急処置を終え、二人が立ち上がった。
「ギル」
「あぁ……いくぞ」
彼らは再び戦場へと身を投じる。
そしてギルドルグが悪鬼の一体と剣を交えたのと、玉座へ臨む階段の前でピースベイクとダズファイルが対面したのは、ほとんど同時だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる