令嬢は、婚約破棄をご所望ですか?

シャオリン

文字の大きさ
4 / 35

4.惚れてまうやろ

しおりを挟む
 絡まれた貴族の攻撃から守ってくれたのは、アンバーの瞳を持つ凛々しい人物であった。

 女性である。恐らくここの女学校の生徒だ。

 ややふっくらとした体格であるが、難癖をつけてきた貴族と異なり、こちらは筋肉だろう。
 鍛え盛り上がった筋肉がドレスを膨らませている。姫を助けに現れる絵本の騎士のようだ。

「無知は恥ではないわ。知らない事を知らないままでおく事こそ、恥と思うべきだわ。」

 振り返るとダンスをしていた金髪の生徒が居た。

「先程の話を耳にしてしまったのですが、貴族と平民が対等に接することに反対であると。
 あなたはログナス男爵家の跡目として正式表明しておりますので、それはログナス家の意志と言うことですわね。
 でしたらロスチャイルド家との取り引きもお辞めになるべきですわ。ソフィア?」

「公爵令嬢であるアシュレー様がお聞きになった言葉であれば、父もそれに同意すると思います。」

 すぐ近くにいたピアノを弾いていた黒髪の少女、ソフィア様が答えた。

 太った生徒が言い返す。

「好きにしたら良いじゃない!たかだか平民に何ができるのよ!」

「ログナス様とは、税として領民より納められた農業作物の約9割を購入させて頂いております。」

「たった9割じゃない!平民のくせに偉そうに!」

 …9割ってほぼ全てだけど。この令嬢頭大丈夫?
 
 取り引き停止したらお金が得られなくて、国への税も払えなくなる。そんなことしたら貴族はお家断絶のはずだが。
 そんな税の仕組みなんてこの国のなら誰だって知っている。

「また融資は現在までに5000万リーフほどですが、こちらも即時停止可能です。」

「たかだか5000万リーフが何よ!!!」

 そのときアシュレー様がふふっと笑った。

「そうね、5000万リーフくらいだもの。」

 美しく優雅な笑みを浮かべる。
 内心狼狽していたログナス嬢も、つられて笑みを浮かべた。

「ログナス領全土を国に買い上げてもらい、屋敷と服装飾品も全て売却。それでもかなり足りないかと思うので、身売りして返済してゆくのが宜しいかと思いますわ。」

 さらっと酷いこと言った!

 やっとログナス嬢もロスチャイルド家に手を引かれると大変だと気がついたようだ。
「え…あっ…あ……」と言葉が出ないほど狼狽えている。過呼吸で倒れないか心配だ。

「大丈夫ですわ。今すぐに、と言うわけではないのですから。」

「あ!…ありがとうございます!!!」

 ログナス嬢は齧り付くようにアシュレー様にお礼を言い走るようにホールから去って行った。後に控えていた取り巻きのような令嬢達も、蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。

 …今すぐにではない、といっただけで真っ暗な未来の否定しなかったが、良いのか?



「助けていただき大変有難うございました。カレン教授の元にいるクーと申します。」

 アシュレー様、ソフィア様、そして女騎士の様な生徒様に感謝を伝えた。

わたくしはアシュレー・ド・リオンヌですわ。リオンヌ公爵家の長女ですの。どうぞアシュレーとお呼びくださいね。
 あなたの事はカレン教授より、大変有望な方だと聞き及んでおります。」

 緩く波打つバターブロンドがシャンデリアの明かりを反射しキラキラ輝く。
 すみれ色の瞳を見て、既視感が起こる。

 この人に以前あったことがある?
 それともよく似た人を知っているのか。

「こちらの方はソフィア・ロスチャイルド様。ロスチャイルド家の次女でいらっしゃいます。
 諸外国事情に通じ、語学堪能。さらに楽器の演奏にも秀でた才女でいらっしゃいますのよ。」

「ソフィアとお呼び下さい。ロスチャイルド家も貴族ではないので、どうぞ親しくして下さい。」

 黒髪のせいかやや幼く見えるが、アシュレー様と同じ18歳らしい。グレーの瞳がいたずらっ子のようにきらめく。

「そして、こちらの方はキュレット・ド・ザントライユ様。陸軍大尉であるオーギュスト・ド・ベル様の家で過ごされてますので、武術に長けていらっしゃいますの。騎士様のようでとても素敵ですよね。」

「またアシュレー様はそのように庇って下さって…先程は女人にょにんとしてはしたない姿をお見てして申し訳ありません。」

 キュレット様が頭を下げる。

「そんなことありません!キュレット様に守って頂かなかったら怪我をしていました。貴族に口答えした私が悪かったのですがとても助かりました!」

「そうですわ。先程のログナス家などは貴族至上主義の方々なのです。度々平民の方を虐め、遺憾ながら同じ貴族として大変恥ずかしく思います。」

「でも貴族至上主義の筆頭であるメディンヌ家のジュリエット様がこの場におられず幸いでしたね。」

「そうですわね。このところジュリエット様をあまりお見かけしませんが…」

 いつの間にか講義の時間は終わり、生徒達は各自自由に過ごしているようだ。 


「ところで、クー様はカレン教授より科学を学んでいると聞きましたが、本当ですか?」

 ソフィア様が不思議そうに尋ねてきた。この国の女性は科学を始め学問とは無縁なので、それを知ろうとする私を変に思っているのだろうか。

「海を渡ったところにエンリッシュという国があります。そちらでは女性も大学に通っているらしいですのです。なのに何故、科学を志す方がこの様な女学校にいらっしゃるのですか?」


………なに?

「女性も…大学に通える?」

「そのように聞いております。」


生まれてくる国、間違えたー!!!!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この国、フランツ王国の貨幣は

20円 = 1リーフ = 100ソル

5000万リーフは約1億円です。

肉体労働者の一日の賃金は1リーフ程ですが、貴族令嬢一日の衣装代は500リーフ、王族だと6000リーフかかる世界です。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...