令嬢は、婚約破棄をご所望ですか?

シャオリン

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22.そんな君が大好き(補正あり)

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 ポリニャック家は三世代前の王に政治の才を認められ登用された。その才能を遺憾なく発揮し、当代では宰相にまで登りつめた。

 絶対貴族制という爵位で権力が決まる世にありながらも、ポリニャック家は伯爵位ではありえないほどの影響力を持っている。
 フランツ王国ナンバー2と言っても過言ではない。

 そこの長男として生まれたのがジャック・ド・ポリニャック。
 彼もまた溢れるほどの才能を持って生まれてきたらしい。

 6歳にして、フランツ語を完璧に会得し教師を論破したとか。
 8歳にして、武術の師匠を完膚なきまで叩き潰したとか。
 10歳にして、政治,経済を修め宰相の手伝いを始めたとか、数々の武勇伝をソフィア様がゴリゴリ話していた。

 そしてその武勇伝のヒーローであるジャック・ド・ポリニャックに、今、ソフィア様との関係を問われている。

「で、ソフィアに何の用だったの?
 俺の婚約者だと知ってのことなんだよね。」
 
 もはや口調は最初の丁寧さの欠片もない。
 チラッと目線が向けられる度に殺気で身が削られるように痛い。
 調査報告のため通された部屋は気品溢れる造りになっているが、拷問の様な空気の中で冷気に満ちあふれているようだ。
 
 これを嫉妬と言わずなんと言う。

 ソフィア様、あなた愛されてるよ!!!

 こんな子供にしか見えない男装の私に焼きもちを妬くほど愛されている。
 だとしたら婚約破棄のことを言うと激高されるに違いない。明日を生きて迎えられる気がしない。

「で、どうなんだ。ソフィアとは?」

「いえ、えーと…」

「クーではありませんよ、ジャック様。」

 ウィルが助け舟を出してくれた。

「ソフィア様と会っているのはクーの双子の妹です。
 名前は…なんと言ったっけ?」

「名前…マリです。そう、妹のマリなんです。
 女学校で親しくさせてもらって、他国の文化やピアノを教えてもらっているそうです。」

「妹と……良いでしょう。
 もしソフィアを哀しませるような事をすれば、貴方に幸は無いことを覚えておいてください。」

 納得していないようだが退室は許された。
 そりゃそうだ。双子の妹がいるとか、そんな都合のいい話を簡単に信じる人はいないだろう。
 実は女でした、と言っても嘘くさい。困ったな。

 ソフィア様と会っていることがバレてるんだ、双子の妹なんて調べればすぐに嘘だとわかる。女学校もクーの名前で通ってるんだし。
 ソフィア様と会っているのは男性だという誤解だけでも解けたらいい。

 しかし急に名前を聞かれたから、つい元の名前を使ってしまった。
 マリ・ボクスカとして生きていた11年は、やっぱり私に染み付いている。
 クーとして生きると決めたんだ、伯父になんか捕まったりするもんか。


 アシュレー様達の望みは『円満な婚約破棄』。それも相手からの破棄を引き出すこと。

 だけどジャック・ド・ポリニャックの反応からは、婚約破棄を考えそうにもない。ソフィア様だって、ポリニャックに満更でも無さそうなのに。
 痴話喧嘩に巻き込まれてる?それとも噛ませ犬?

 第三者の目線で事情を観察するのが必要。
 そしてその機会はすぐに来た。
 ロスチャイルド家ソフィア様からの呼び出しである。


 王家を凌ぐほどの資産を持つロスチャイルド家。
 先の戦争における投資により一代で財を成したという。

 先見の明と情報力を持つ当代が建てた豪華絢爛なこの屋敷、ツバを吐きたくなるがグッと我慢だ。

 柵や門が金でできている。強度が必要な所に金みたく軟らかい金属使うなよ!
 ソフィア様に聞いたところ、鉄の上に薄く金を貼るめっきという造りらしい。
 でもめっきによる職人の健康被害が深刻で、めっきをするより金で全部作ったほうが安かったかもとのこと。
 至るところに金があって眩い。職人の犠牲と有り余る財産の象徴だ。

 投資という不労所得には税金がかからない。だからこんな見せびらかすように金を使えるんだ。
 ペッペッ!!

 こんな大富豪に生まれたのに何故かソフィア様の感覚は庶民的だ。

「エンリッシュ国では『家庭』というものを大事にするの。食事も家族一緒に団欒を楽しむわ。

 だからこの国みたいに外食産業は進んでいないから料理を覚えていったほうが良いわ。簡単物のレシピをメモにまとめたからあげるね。

 市場で値切るのは2回に一度くらいにしとかないと店の人からの印象が悪くなるわ。」

 前回はエンリッシュ国の知っておくべき人物として、王族、政界の重要人物から人気のコメディアンまで教えてくれた。
 面白いから集めているの、と新聞の風刺画の切り抜き集も見せてくれた。

 今後エンリッシュ国で生活するなら大変ありがたい情報ばかり。
 けど大富豪の令嬢から庶民の話題を聞くと不思議な感じがする。

「そういえば先程、ジャック・ド・ポリニャック様にお会いしました。」

「本当?!どうだった?
 あなたに好意を持った感じだった?」

「シャルル殿下への報告を代理で受けてもらっただけなので…そんな素振りは一切ありませんでした。」

「おかしいわね…
 この流れなら、出会った時にヒロインに傾倒するはずなんだけど…何処かで補正が入るはず……」

 ソフィア様はブツブツと何やら呟き始めた。でもすぐに渋い顔で見ていた私を思い出してくれた。

「あ、ごめんね。巷の恋愛小説通りに話が進まないな~と思ってね。」

 恋愛小説………この婚約破棄計画を持ち出したときにも同じ様な話をしていたのを思い出した。

「その小説ではね、悪役令嬢の婚約者とヒロインが出会って、真実の愛に目覚めるというものなの。

 ヒロインが婚約者と結ばれるために裏工作して悪役令嬢に冤罪を被せて婚約破棄するんだけど…最後には悪事がバレてヒロインは島流しになるのよ!!

 すごい、ドラマチックな展開よね!!」

 ヒロインが残念な最後を迎える話らしい。どちらかというと悪役令嬢の方が主人公みたいだ。

 ん?
 この話を当てはめると、

 ソフィア様=悪役令嬢
 私    =ヒロイン

「私、島流しになるんですか。だからエンリッシュ国に………」

「え?
 …………あ!ち、違うわよ!!!
 小説と現実は違うこと理解してるし、婚約破棄に私も一枚噛んでるんだからクーが断罪されることはないつて!!!!」

 ジトッと睨みつけた視線であたふたするソフィア様。

「でも、いいんですか?」

「なにが?」

「ジャック様が他の人に盗られても。」

「盗られるって………別にあいつ、私のことなんか好きじゃ無いし。」

 少し赤くなったほっぺを膨らませ、プイっと横を向く。
 乙女か。下町の純情乙女でこんな子いたな。

「ジャック様は、ソフィア様に好意を持たれているようでしたよ。
 それに、ジャック様とソフィア様は美男美女で大変お似合いかと。」

「ええ~~~!!!
 そんなこと無いよ~~~」

 顔がニマニマしている。態度と言動があからさまに違うと面倒くさいな。
 ソフィア様もジャック・ド・ポリニャックに好意を持っているとしか思えない素振り。

「もう一度聞きます。いいんですか?婚約破棄しても。」

 ニマニマ顔から真顔に、その後泣きそうな顔になる。その顔は、婚約破棄依頼を引き受けた時と同じだった。
 凛とした美しい容姿がひどく淡くみえる。

「いいの、しなきゃいけないの、婚約破棄。」

 絞り出すように、そう答えた。
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