23 / 35
23.ヒロインであり悪役令嬢であるという二重性
しおりを挟む
ソフィア様の婚約破棄依頼は、本人の意向によるものでは無いようだ。
「どういう事なんですか?。」
目の前の美丈夫に尋ねる。ヘーゼル色の瞳を細めるジャック・ド・ポリニャック。
危惧していた通り女学校に通っているのはクーだということがバレて呼び出された。
去勢でもされるかと思っていたが今日のポリニャックは好意的で、違う意味で背筋が凍る思いだ。
ソフィア様が婚約破棄を望んでいることも、それを私に依頼したことも検討がついていると言われた。
その上で、ソフィア様の事情を教えるというのだ。
「そもそも、この婚約の話を持ってきたのはロスチャイルド家からだ。
貴族の爵位は金を出せば買えないこともないが、貴族は商売をしてはいけない。
ロスチャイルドは事業にも投資しているから、それが商売とみなされ金を積んでも貴族になれない。
だから婚姻で貴族との繋がりを作ろうとした。それで目をつけられたのがポリニャック家と言うわけだ。」
今回も当たり前のように同行してくれているウィルが隣で頷いている。
貴族の噂で流れている情報と一緒なのだろう。
ありがちな政略結婚。でも、幸いにしてソフィア様達はお互いに好意を持てているようだった。
それなのに婚約破棄を望むと言うことは…
「婚約破棄はロスチャイルド家が望んでいる…ロスチャイルド家が貴族との繋がりを忌むようになったから?」
「ロスチャイルド家が婚約破棄を望んでいる、と言うことは正解だ。
ソフィアを使った婚姻による縁故を、フランツ王国ではなく近年発展の目覚ましいエンリッシュ国の物と結びたいと考えているようだ。
エンリッシュの貴族に婚約の打診をしている証拠もある。」
国外へ出る前に止めたと、ロスチャイルド家の紋章の印がされた手紙を見せる。
「…ソフィア様ってロスチャイルド家の次女でしたよね。長女はもう結婚しているんですか?」
「ソフィアの姉はもう、亡くなっている。
だからソフィアはロスチャイルド家に迎え入れられた。」
隣でウィルが居心地悪そうに姿勢を正す。社交界では有名だが黙殺されている話題のようだ。
「ソフィアは9歳までエンリッシュ国の孤児院に預けられていた。
姉が流行り病で亡くなり、婚姻を結べる道具としての用途を見出されてロスチャイルド家に引き取られる事になった。」
「預けられていたってことは、ソフィア様はロスチャイルド家の………愛人の子供…みたいな弱い立場なんでしょうか。」
「いや、当主と本妻の子だ。子供を育てるには金がかかるからといって、長男、次男と長女以外は全て孤児院に送っている。
預けるだけ預け、寄付金は殆どしなかったから庶民より低い生活水準だったようだ。預けるというより捨て置いていたという方が正しいくらいだ。」
「金がかかる…ってロスチャイルド家って大富豪ですよね?」
「金持ちは無駄な所には金をかけない、と常に豪語しているがな。」
モゾモゾしながら、ウィルも話し始めた。
「ロスチャイルド現当主に会ったことがある…そんな事を本気で言いそうな雰囲気だった。
5歳以下の子供の生存率は極めて低いから、自分達で金を出して育てるなんて無駄だ、と自慢げに話していた。この国で孤児院に預けたら寄付金を煩く求められるから隣国がオススメだとも。
社交の場で発言してたから、それを父も耳にして憤慨していたのを記憶している。」
孤児院で生活していたのなら、ソフィア様が庶民的な感覚を持ち合わせているのにも頷ける。エンリッシュ国で幼少期を過ごしているから世俗にも詳し買ったのか。
乳幼児の生存率は五割以下。
それを無駄というかどうか、子供の身からでは正確な判断は下せないが、非道であることは間違いないんだろう。
「しかし幸いというべきか、そんな毒親に育てられなかったために朗らかで、慈しみ深い性格を歪ませることなく成長できた。
突然の環境変化にも耐え、礼儀作法、教養の習得にも精を出し、ピアノの技術は天才と呼ばれるほどだ。
ソフィアは幸せになるべきだ。
俺は、その笑顔をけして曇らせたりはしない。」
ジャック・ド・ポリニャックは語る。
人はこれをノロケという。
しかし、どこかで聞いたことのある話だ。
市井育ちの娘が明るく思いやりのある性格で、宰相の息子に気に入られる……
………!
ソフィア様の読んでいた恋愛小説じゃないか!!!
悪役令嬢が出てくる婚約破棄物だ。
悪役令嬢 = ソフィア様
ヒロイン = ソフィア様
なんということだ……
一人二役。もう、勝手にやっててくれないかな。
「それでなんでまた、僕に事情を説明しようと思ったんですか?」
「外堀りから埋めていくためだ。」
外堀り?聞き慣れない言葉。
「東の方にある国では、城の周りに溝を掘って水を張り敵の侵入を防いでいる。
それを外堀という。城を落とすためには堀を埋めて侵入しやすくする必要がある。
女性の攻略も同様に外側から攻めていけば、失敗することはない。」
真顔でなに恥ずかしい事言ってるんだこの人は。
ウィル、会得したような顔をしてないで笑ってやれよ。
「ソフィアの幸せなど考えない親だ。
ソフィアが育てられた孤児院を潰す、と脅され婚約破棄を促されている。
もうすぐこちらの準備も終わる。
ロスチャイルドやポリニャックから縁を切られても生活できるよう支度をする。
俺が側に立てる様になるまでの間、ソフィアが不安にならないよう側で励ましてもらいたい。」
ソフィア様の幸せを考えるならこの提案に乗るのが良いように思える。
でも、そうするとソフィア様の依頼を反故することになる。
先払いで既に言語講習してもらっているのに不味いなぁ。
幸せを決めるべきソフィア様が判断の主導権を握っていないから結論が出ない。
そして更に困りごとが一つ。
街の雑踏を歩く私の横に、一人の美少女。
じゃない、美少年。
「すごい人混みだね。窒息しそうだよ。」
にこやかに笑いながら圧死しかけている、シャルル殿下が何故か市井を歩いている。
「どういう事なんですか?。」
目の前の美丈夫に尋ねる。ヘーゼル色の瞳を細めるジャック・ド・ポリニャック。
危惧していた通り女学校に通っているのはクーだということがバレて呼び出された。
去勢でもされるかと思っていたが今日のポリニャックは好意的で、違う意味で背筋が凍る思いだ。
ソフィア様が婚約破棄を望んでいることも、それを私に依頼したことも検討がついていると言われた。
その上で、ソフィア様の事情を教えるというのだ。
「そもそも、この婚約の話を持ってきたのはロスチャイルド家からだ。
貴族の爵位は金を出せば買えないこともないが、貴族は商売をしてはいけない。
ロスチャイルドは事業にも投資しているから、それが商売とみなされ金を積んでも貴族になれない。
だから婚姻で貴族との繋がりを作ろうとした。それで目をつけられたのがポリニャック家と言うわけだ。」
今回も当たり前のように同行してくれているウィルが隣で頷いている。
貴族の噂で流れている情報と一緒なのだろう。
ありがちな政略結婚。でも、幸いにしてソフィア様達はお互いに好意を持てているようだった。
それなのに婚約破棄を望むと言うことは…
「婚約破棄はロスチャイルド家が望んでいる…ロスチャイルド家が貴族との繋がりを忌むようになったから?」
「ロスチャイルド家が婚約破棄を望んでいる、と言うことは正解だ。
ソフィアを使った婚姻による縁故を、フランツ王国ではなく近年発展の目覚ましいエンリッシュ国の物と結びたいと考えているようだ。
エンリッシュの貴族に婚約の打診をしている証拠もある。」
国外へ出る前に止めたと、ロスチャイルド家の紋章の印がされた手紙を見せる。
「…ソフィア様ってロスチャイルド家の次女でしたよね。長女はもう結婚しているんですか?」
「ソフィアの姉はもう、亡くなっている。
だからソフィアはロスチャイルド家に迎え入れられた。」
隣でウィルが居心地悪そうに姿勢を正す。社交界では有名だが黙殺されている話題のようだ。
「ソフィアは9歳までエンリッシュ国の孤児院に預けられていた。
姉が流行り病で亡くなり、婚姻を結べる道具としての用途を見出されてロスチャイルド家に引き取られる事になった。」
「預けられていたってことは、ソフィア様はロスチャイルド家の………愛人の子供…みたいな弱い立場なんでしょうか。」
「いや、当主と本妻の子だ。子供を育てるには金がかかるからといって、長男、次男と長女以外は全て孤児院に送っている。
預けるだけ預け、寄付金は殆どしなかったから庶民より低い生活水準だったようだ。預けるというより捨て置いていたという方が正しいくらいだ。」
「金がかかる…ってロスチャイルド家って大富豪ですよね?」
「金持ちは無駄な所には金をかけない、と常に豪語しているがな。」
モゾモゾしながら、ウィルも話し始めた。
「ロスチャイルド現当主に会ったことがある…そんな事を本気で言いそうな雰囲気だった。
5歳以下の子供の生存率は極めて低いから、自分達で金を出して育てるなんて無駄だ、と自慢げに話していた。この国で孤児院に預けたら寄付金を煩く求められるから隣国がオススメだとも。
社交の場で発言してたから、それを父も耳にして憤慨していたのを記憶している。」
孤児院で生活していたのなら、ソフィア様が庶民的な感覚を持ち合わせているのにも頷ける。エンリッシュ国で幼少期を過ごしているから世俗にも詳し買ったのか。
乳幼児の生存率は五割以下。
それを無駄というかどうか、子供の身からでは正確な判断は下せないが、非道であることは間違いないんだろう。
「しかし幸いというべきか、そんな毒親に育てられなかったために朗らかで、慈しみ深い性格を歪ませることなく成長できた。
突然の環境変化にも耐え、礼儀作法、教養の習得にも精を出し、ピアノの技術は天才と呼ばれるほどだ。
ソフィアは幸せになるべきだ。
俺は、その笑顔をけして曇らせたりはしない。」
ジャック・ド・ポリニャックは語る。
人はこれをノロケという。
しかし、どこかで聞いたことのある話だ。
市井育ちの娘が明るく思いやりのある性格で、宰相の息子に気に入られる……
………!
ソフィア様の読んでいた恋愛小説じゃないか!!!
悪役令嬢が出てくる婚約破棄物だ。
悪役令嬢 = ソフィア様
ヒロイン = ソフィア様
なんということだ……
一人二役。もう、勝手にやっててくれないかな。
「それでなんでまた、僕に事情を説明しようと思ったんですか?」
「外堀りから埋めていくためだ。」
外堀り?聞き慣れない言葉。
「東の方にある国では、城の周りに溝を掘って水を張り敵の侵入を防いでいる。
それを外堀という。城を落とすためには堀を埋めて侵入しやすくする必要がある。
女性の攻略も同様に外側から攻めていけば、失敗することはない。」
真顔でなに恥ずかしい事言ってるんだこの人は。
ウィル、会得したような顔をしてないで笑ってやれよ。
「ソフィアの幸せなど考えない親だ。
ソフィアが育てられた孤児院を潰す、と脅され婚約破棄を促されている。
もうすぐこちらの準備も終わる。
ロスチャイルドやポリニャックから縁を切られても生活できるよう支度をする。
俺が側に立てる様になるまでの間、ソフィアが不安にならないよう側で励ましてもらいたい。」
ソフィア様の幸せを考えるならこの提案に乗るのが良いように思える。
でも、そうするとソフィア様の依頼を反故することになる。
先払いで既に言語講習してもらっているのに不味いなぁ。
幸せを決めるべきソフィア様が判断の主導権を握っていないから結論が出ない。
そして更に困りごとが一つ。
街の雑踏を歩く私の横に、一人の美少女。
じゃない、美少年。
「すごい人混みだね。窒息しそうだよ。」
にこやかに笑いながら圧死しかけている、シャルル殿下が何故か市井を歩いている。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる