令嬢は、婚約破棄をご所望ですか?

シャオリン

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23.ヒロインであり悪役令嬢であるという二重性

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 ソフィア様の婚約破棄依頼は、本人の意向によるものでは無いようだ。

「どういう事なんですか?。」

 目の前の美丈夫に尋ねる。ヘーゼル色の瞳を細めるジャック・ド・ポリニャック。

 危惧していた通り女学校に通っているのはクーだということがバレて呼び出された。
 去勢でもされるかと思っていたが今日のポリニャックは好意的で、違う意味で背筋が凍る思いだ。

 ソフィア様が婚約破棄を望んでいることも、それを私に依頼したことも検討がついていると言われた。
 その上で、ソフィア様の事情を教えるというのだ。

「そもそも、この婚約の話を持ってきたのはロスチャイルド家からだ。

 貴族の爵位は金を出せば買えないこともないが、貴族は商売をしてはいけない。
 ロスチャイルドは事業にも投資しているから、それが商売とみなされ金を積んでも貴族になれない。

 だから婚姻で貴族との繋がりを作ろうとした。それで目をつけられたのがポリニャック家と言うわけだ。」

 今回も当たり前のように同行してくれているウィルが隣で頷いている。
 貴族の噂で流れている情報と一緒なのだろう。

 ありがちな政略結婚。でも、幸いにしてソフィア様達はお互いに好意を持てているようだった。
 それなのに婚約破棄を望むと言うことは…

「婚約破棄はロスチャイルド家が望んでいる…ロスチャイルド家が貴族との繋がりを忌むようになったから?」

「ロスチャイルド家が婚約破棄を望んでいる、と言うことは正解だ。
 ソフィアを使った婚姻による縁故を、フランツ王国ではなく近年発展の目覚ましいエンリッシュ国の物と結びたいと考えているようだ。
 エンリッシュの貴族に婚約の打診をしている証拠もある。」

 国外へ出る前に止めたと、ロスチャイルド家の紋章の印がされた手紙を見せる。

「…ソフィア様ってロスチャイルド家の次女でしたよね。長女はもう結婚しているんですか?」

「ソフィアの姉はもう、亡くなっている。
 だからソフィアはロスチャイルド家に迎え入れられた。」

 隣でウィルが居心地悪そうに姿勢を正す。社交界では有名だが黙殺されている話題のようだ。

「ソフィアは9歳までエンリッシュ国の孤児院に預けられていた。
 姉が流行り病で亡くなり、婚姻を結べる道具としての用途を見出されてロスチャイルド家に引き取られる事になった。」

「預けられていたってことは、ソフィア様はロスチャイルド家の………愛人の子供…みたいな弱い立場なんでしょうか。」

「いや、当主と本妻の子だ。子供を育てるには金がかかるからといって、長男、次男と長女以外は全て孤児院に送っている。
 預けるだけ預け、寄付金は殆どしなかったから庶民より低い生活水準だったようだ。預けるというより捨て置いていたという方が正しいくらいだ。」

「金がかかる…ってロスチャイルド家って大富豪ですよね?」

「金持ちは無駄な所には金をかけない、と常に豪語しているがな。」

 モゾモゾしながら、ウィルも話し始めた。

「ロスチャイルド現当主に会ったことがある…そんな事を本気で言いそうな雰囲気だった。

 5歳以下の子供の生存率は極めて低いから、自分達で金を出して育てるなんて無駄だ、と自慢げに話していた。この国で孤児院に預けたら寄付金を煩く求められるから隣国がオススメだとも。
 社交の場で発言してたから、それを父も耳にして憤慨していたのを記憶している。」

 孤児院で生活していたのなら、ソフィア様が庶民的な感覚を持ち合わせているのにも頷ける。エンリッシュ国で幼少期を過ごしているから世俗にも詳し買ったのか。

 乳幼児の生存率は五割以下。
 それを無駄というかどうか、子供の身からでは正確な判断は下せないが、非道であることは間違いないんだろう。

「しかし幸いというべきか、そんな毒親に育てられなかったために朗らかで、慈しみ深い性格を歪ませることなく成長できた。
 突然の環境変化にも耐え、礼儀作法、教養の習得にも精を出し、ピアノの技術は天才と呼ばれるほどだ。

 ソフィアは幸せになるべきだ。
 俺は、その笑顔をけして曇らせたりはしない。」

 ジャック・ド・ポリニャックは語る。
 人はこれをノロケという。

 しかし、どこかで聞いたことのある話だ。
 市井育ちの娘が明るく思いやりのある性格で、宰相の息子に気に入られる……

 ………!
 ソフィア様の読んでいた恋愛小説じゃないか!!!
 悪役令嬢が出てくる婚約破棄物だ。

 悪役令嬢 = ソフィア様
 ヒロイン = ソフィア様

 なんということだ……
 一人二役。もう、勝手にやっててくれないかな。

「それでなんでまた、僕に事情を説明しようと思ったんですか?」

「外堀りから埋めていくためだ。」

 外堀り?聞き慣れない言葉。

「東の方にある国では、城の周りに溝を掘って水を張り敵の侵入を防いでいる。
 それを外堀という。城を落とすためには堀を埋めて侵入しやすくする必要がある。

 女性の攻略も同様に外側から攻めていけば、失敗することはない。」

 真顔でなに恥ずかしい事言ってるんだこの人は。
 ウィル、会得したような顔をしてないで笑ってやれよ。

「ソフィアの幸せなど考えない親だ。
 ソフィアが育てられた孤児院を潰す、と脅され婚約破棄を促されている。

 もうすぐこちらの準備も終わる。
 ロスチャイルドやポリニャックから縁を切られても生活できるよう支度をする。

 俺が側に立てる様になるまでの間、ソフィアが不安にならないよう側で励ましてもらいたい。」

 ソフィア様の幸せを考えるならこの提案に乗るのが良いように思える。

 でも、そうするとソフィア様の依頼を反故することになる。
 先払いで既に言語講習してもらっているのに不味いなぁ。

 幸せを決めるべきソフィア様が判断の主導権を握っていないから結論が出ない。


 そして更に困りごとが一つ。

 街の雑踏を歩く私の横に、一人の美少女。
 じゃない、美少年。

「すごい人混みだね。窒息しそうだよ。」

 にこやかに笑いながら圧死しかけている、シャルル殿下が何故か市井を歩いている。
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