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如月 りん

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五章 過去、告白

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「僕、去年転校してきた友達がいたんです。 
 僕と彼は凄く仲が良くて、休みの日とかも一緒に遊んで、親友だと思ったんです。でも、親友だと思ってたのは僕だけだった。」
彼は俯いていた。手の甲に涙がこぼれる。「放課後、忘れ物をして学校に戻った僕は、聞いてしまったんです。彼は誰かと電話していたんです、そしたら、あいつの家金持ってるから、ゴマすっておけば、何かあっても、手貸してくれるよ、
親友?ばか、保険だよ保険って。
見たこともない怖い笑みを浮かべて言っていたんです。偶然って怖いですね。
それから彼に会うのが怖くなって」
私は、彼の後頭部に手を伸ばし、右肩に頭をつけた。泣いてるところが見えないように。
「辛かったね。苦しかったね。琥珀くん。話してくれて、ありがとう。頑張ったね」
彼から溢れる嗚咽は聞こえないふりをした。
しばらくすると、目を赤くした彼が顔をあげる。
「取り乱して、すみません。」
「いや、大丈夫だよ。・・・
琥珀くんを見てると、昔の自分を思い出す」
「え」
「私も、一時期学校に行けなかった時があったんだ。隣の家に住んでた、諒さんっていう四つ年上の先輩に助けられた。私、弟がいたんだ。生きていれば、琥珀くんと同い年だったよ。弟は5年前、病気で亡くなったの。死を受け入れられなくて、寂しくて、口喧嘩をして、謝って仲直りすることもできなかった。たくさんの感情が私を苦しめた。
息をするたびに、胸が痛かった。」
私は途中で泣いていたらしく、服にシミができていた。彼が、ハンカチを貸してくれて、涙を拭きながら続ける。
「次第に無気力になって、学校に行く気がなくなっちゃって。そんな時、
諒さんが言ってくれた。綾音も俺も霊感とかないから見ることも、感じることもできない。でも逆はできると思うんだ。五感で感じたものをあいつに、届けようよ。見たこと、聞いたこと、なんでもいい。楽しいこと、嬉しいこと全部!
って曇りひとつない眼で言われたんだ。その言葉で私は前に進むことができた。学校に
行くこともできた。諒さんには感謝してる」
「諒さんって今、何をしているんですか?」
「今は、小学校の新米教師として働いてるよ。
・・・話してたら遅くなっちゃったね。
私そろそろ帰るね。ハンカチ洗って返すね」
「別に気にしないんですけど・・・送って行きますよ」
断ろうとしたけど、すごい真剣な顔向けられたから断れなかった。
「じゃあ、お願いしようかな?」
凛花さんに、挨拶して彼と外に出る。
彼女は驚きはしたものの、温かな笑顔で
気をつけてと言ってくれた。
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