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第4話 20××年 5月3日
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第4話 20××年 5月3日
報告書 20××年 5月3日
『実験体5号』が断罪刀『皐月』〈さつき〉を用いて『怪異』と交戦し、瀕死の重傷を負う。
その後、増援に駆け付けた『実験体3号』(適合率低下による廃棄予定)が断罪刀『弥生』〈やよい〉を用いて『怪異』を撃破。
瀕死の重傷を負った『実験体5号』は『実験体3号』の実父で『実験体部隊責任者』の『杉本ヒロキ』が回収した。
*
20××年 5月3日
突然、私が寝ていた病室のベットのカーテンが開かれる。
「サツキちゃ~ん、具合はどうだい?」
「なんだジジイか...コレで具合がいいように見える?」
そう、私は先日の『怪異』との戦闘で瀕死の重傷を負ってしまった。
「でも上からはまだ廃棄命令は出てないぞ。あとジジイじゃなくて杉本な」
「呼び捨てでいいわけ?」
「いいよ。というかよかったな、廃棄命令出なくて」
「うん...まあね。でも結局、上から廃棄命令が出なかったのは私のケガというよりは『皐月』との適合率が落ちてなかったってことだろ?」
「んまぁ、そういうことだね」
「それより、昨日のアレ、大丈夫だったのか?」
「ん?ああ、高村友助のこと?」
「ああ、本当ならあの場で催眠暗示で私たちに関する記憶を消すべきだった」
「でも本当にそうしてたらさ、きっとさ、俺さ、『娘』にぶっ殺されて、今ここにいないぜ、たぶん」
「その『娘』のほうは本当に『今のまま』でいいの?」
「ああ、適合率低下で廃棄命令のことね。そりゃあ、自分の実の娘だからさ、本当はさ、なんとかしないといけないんだけどさ、でも一応、上に従うのも仕事だからさ」
「自分の娘の命より、仕事を選ぶの?」
「いじわる言うなよ。あ、そういえばさ、ちょっと前にさ、それっぽいことアカリにも言われた!」
「最低の父親ね」
「ああ、これじゃあアカリに離婚してくれって言われても仕方がないよな」
「ごめん、ちょっと言い過ぎたかも...」
「いや、いいんだ。それよりサツキちゃんが元気そうでよかったよ」
「うん、わざわざごめん、す...杉本」
杉本が私の頭をなでる。
「ちょっと、勝手に触らないでくれる?」
「いいだろ別に、っていうかお前、顔赤いぞ」
「う、うるいさい!とっととどっか行け!」
杉本が足早に病室から出ていく。
*
「これ...お弁当です」
「え、もしかして手作り?」
ヤヨイちゃんが頬を真っ赤に染めた状態で俺の視線から目を背けるとコクリと頷く。
「だって、今日からアルバイトの勤務時間が増えたって聞いたので...」
そう、アカリさんが家出してしまった影響で俺はバイト先の担当者に土下座して勤務時間を四時間から八時間に増やしてもらったのだ。
ちなみに土下座は担当者に言われたからしただけである。
「助かるよ、ありがとうな!」
「はい!」
ヤヨイちゃんが満面の笑みを浮かべる。
俺はヤヨイちゃんの手作り弁当をバッグに入れると自宅を出て、バイト先のスーパーに向かった。
更衣室ではまた鈴木君が着替えていた。
「おはよう!」
「お、おはようございます...高村さん、今日はなんか元気っすね」
「おう!今までは家事の都合で四時間しか働けなかったが、今日からはフルタイムだからな!」
「でも、四時間からフルタイムになったら家事とかどうするんですか?午前中は娘さん、学校ですよね?」
「ま、なんとかなるさ!あははははははははッ!」
「奥さんに逃げられたり、担当者に土下座強要されてた割には随分とポジティブですね」
「ああ、なんたって今日は娘が手作り弁当を作ってくれたんだぜ!」
「めずらしいですね、高村さんの娘さん」
「そうか?」
「そうですよ、女子高生ってふつう、父親に対して辛辣じゃないですか。正直ちょっと怖いです」
「怖い?」
「ええ、だって、奥さんが家出してからでしょう、血のつながっていない娘さんが高村さんに手作り弁当作ってくれたのは」
確かに、鈴木君の言う通り手作り弁当以外にも心当たりはいくつかある。
「なんだよ~鈴木く~ん!もしかしてうらやましいの?俺のこと?」
「あ~はいはい!そうですね~!つーか早く制服に着替えないと、また柿原さんに色々言われますよ」
「おっと、そうだった、そうだった」
俺は制服に着替えながらずっと考えていた。
今までずっと見て見ぬふりをしてきたある問題について。
俺に対して異常なまでに献身的なヤヨイちゃんについて。
俺は自問自答しながらも、結局、問題を先送りにすることにした。
今が楽しければ、それでいいと思ったから。
次回予告 第5話 20××年 5月3日 その2
報告書 20××年 5月3日
『実験体5号』が断罪刀『皐月』〈さつき〉を用いて『怪異』と交戦し、瀕死の重傷を負う。
その後、増援に駆け付けた『実験体3号』(適合率低下による廃棄予定)が断罪刀『弥生』〈やよい〉を用いて『怪異』を撃破。
瀕死の重傷を負った『実験体5号』は『実験体3号』の実父で『実験体部隊責任者』の『杉本ヒロキ』が回収した。
*
20××年 5月3日
突然、私が寝ていた病室のベットのカーテンが開かれる。
「サツキちゃ~ん、具合はどうだい?」
「なんだジジイか...コレで具合がいいように見える?」
そう、私は先日の『怪異』との戦闘で瀕死の重傷を負ってしまった。
「でも上からはまだ廃棄命令は出てないぞ。あとジジイじゃなくて杉本な」
「呼び捨てでいいわけ?」
「いいよ。というかよかったな、廃棄命令出なくて」
「うん...まあね。でも結局、上から廃棄命令が出なかったのは私のケガというよりは『皐月』との適合率が落ちてなかったってことだろ?」
「んまぁ、そういうことだね」
「それより、昨日のアレ、大丈夫だったのか?」
「ん?ああ、高村友助のこと?」
「ああ、本当ならあの場で催眠暗示で私たちに関する記憶を消すべきだった」
「でも本当にそうしてたらさ、きっとさ、俺さ、『娘』にぶっ殺されて、今ここにいないぜ、たぶん」
「その『娘』のほうは本当に『今のまま』でいいの?」
「ああ、適合率低下で廃棄命令のことね。そりゃあ、自分の実の娘だからさ、本当はさ、なんとかしないといけないんだけどさ、でも一応、上に従うのも仕事だからさ」
「自分の娘の命より、仕事を選ぶの?」
「いじわる言うなよ。あ、そういえばさ、ちょっと前にさ、それっぽいことアカリにも言われた!」
「最低の父親ね」
「ああ、これじゃあアカリに離婚してくれって言われても仕方がないよな」
「ごめん、ちょっと言い過ぎたかも...」
「いや、いいんだ。それよりサツキちゃんが元気そうでよかったよ」
「うん、わざわざごめん、す...杉本」
杉本が私の頭をなでる。
「ちょっと、勝手に触らないでくれる?」
「いいだろ別に、っていうかお前、顔赤いぞ」
「う、うるいさい!とっととどっか行け!」
杉本が足早に病室から出ていく。
*
「これ...お弁当です」
「え、もしかして手作り?」
ヤヨイちゃんが頬を真っ赤に染めた状態で俺の視線から目を背けるとコクリと頷く。
「だって、今日からアルバイトの勤務時間が増えたって聞いたので...」
そう、アカリさんが家出してしまった影響で俺はバイト先の担当者に土下座して勤務時間を四時間から八時間に増やしてもらったのだ。
ちなみに土下座は担当者に言われたからしただけである。
「助かるよ、ありがとうな!」
「はい!」
ヤヨイちゃんが満面の笑みを浮かべる。
俺はヤヨイちゃんの手作り弁当をバッグに入れると自宅を出て、バイト先のスーパーに向かった。
更衣室ではまた鈴木君が着替えていた。
「おはよう!」
「お、おはようございます...高村さん、今日はなんか元気っすね」
「おう!今までは家事の都合で四時間しか働けなかったが、今日からはフルタイムだからな!」
「でも、四時間からフルタイムになったら家事とかどうするんですか?午前中は娘さん、学校ですよね?」
「ま、なんとかなるさ!あははははははははッ!」
「奥さんに逃げられたり、担当者に土下座強要されてた割には随分とポジティブですね」
「ああ、なんたって今日は娘が手作り弁当を作ってくれたんだぜ!」
「めずらしいですね、高村さんの娘さん」
「そうか?」
「そうですよ、女子高生ってふつう、父親に対して辛辣じゃないですか。正直ちょっと怖いです」
「怖い?」
「ええ、だって、奥さんが家出してからでしょう、血のつながっていない娘さんが高村さんに手作り弁当作ってくれたのは」
確かに、鈴木君の言う通り手作り弁当以外にも心当たりはいくつかある。
「なんだよ~鈴木く~ん!もしかしてうらやましいの?俺のこと?」
「あ~はいはい!そうですね~!つーか早く制服に着替えないと、また柿原さんに色々言われますよ」
「おっと、そうだった、そうだった」
俺は制服に着替えながらずっと考えていた。
今までずっと見て見ぬふりをしてきたある問題について。
俺に対して異常なまでに献身的なヤヨイちゃんについて。
俺は自問自答しながらも、結局、問題を先送りにすることにした。
今が楽しければ、それでいいと思ったから。
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