寒暁

繚乱

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 玉鬘(たまかずら)

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 一益からの許可を得た二人は、はじけるように声を返す。

 一益は意気込む二人に頷くと

「頃合いか・・・」

 と、つぶやきおもむろに立ち上がる・・・

「やれやれ、新年を祝う宴の膳も冷めてしまったのう・・・じゃが、今年は出陣のための宴の膳となりそうだ・・・一忠!」

「はっ!」

 一益は嫡男の一忠を呼び寄せる。

「出陣前のたむけとして、ひとさし、皆に舞を贈ろうと思う・・・相伴いたせ」

「承りました・・・父上、玉鬘たまかずらで宜しゅうございましたか?」

「うむ。つづみと、シテを頼む」

「承知致しました・・・」

「慶次郎! 笛は持参しておるか?」

「はっ⁉ 持っておりますが・・・」

「それは重畳。そちの奏でる笛の音をわしは好んでおる。そなたも相伴いたせ!」

「いきなりに、ですなぁ・・・まあ、そこまで叔父御に言われてしまえば否とは申せませぬ。 フフフ、承りました」

 一忠と慶次郎は、順に一益を挟んで両脇に腰をおろす・・・

 一益は、足元にある膳を移動させると元の位置に戻り姿勢をただし正座すると目をつむり気息を整える・・・

 頃や良しと、一益は目を開け締紐に差してあった扇子を引き抜くと、すっと立ち上がる

 一忠と慶次郎はそれを見て、互いに目配せすると慶次郎がそっと笛を口元に当て息を吹き込む・・・

 
   ひゅう~~~ ひゅっ、ひゅううう~~~ ぴぃっっ!!

   ポンッ ポン  ポポンッ ポポポポッ  ポポン~~~~~

 一忠の鼓の音を確認した一益は、右手で扇子を持ち左手でゆっくりと広げるとそのまま手を伸ばしうたい始める・・・

「是は諸国一見の僧にて候・・・我この程は南都に候ひて・・・霊佛霊社残りなく拝み廻りて候・・・」

 謡いながら扇子をひらめかせ、右に左に静々とすり足で歩をすすめながら舞う一益の姿をじっと一同は見つめる・・・

(・・・見事な舞じゃ・・・先の上州厩橋うまやばしにての舞も見事であったが、叔父御はどこでこんな技を覚えたのであろうか・・・)

 慶次郎もそんな感想を抱きながら、笛を奏でつつ一益の舞を凝視し続ける・・・


 鼓と笛の音が奏でられる中、一益は謡い・・・舞う・・ まばたきもせず舞う一益の姿を追い続ける一同の中には、これが見納めになるやもしれぬぞと覚悟を決めた者も居たであろう・・・


 やがて永遠に続くであろうかと錯覚するような静謐な時間の中、一益の舞に終焉の時を告げる鼓の音が一忠の手から発せられる・・・


   ポンッ!!  ポポン ・・ ポン ・・・・


「心は真如の玉鬘・・・ 心は真如の玉鬘・・・ 長き夢路は覚めにけり・・・」


   ぴっ ゆ~~ ぴゆ~~~  っぴぃ!!!

 
 慶次郎の笛の音が舞の尾張を告げると、一益はそこで扇子をゆっくりと閉じ、自然体でその場に立ち扇子を締紐に差しこむのであった・・・。

 一瞬の間の後、一同からの歓声と拍手を浴びた一益は少し照れ臭そうでありながらも満足感を浮かべた笑顔を一同に見せ、一忠と慶次郎にねぎらいの言葉をかける。

「一忠、慶次郎、ご苦労であった・・・そち達のいい演奏のためか我が舞も我ながらいい出来であったと思う」

「見事な舞にござりました、父上」

「ああ、それがしも感服いたしましたぞ、叔父御!!」

「うむ、そうか・・・まあ、ここは素直に礼を申そうか・・・。よし、では一忠も慶次郎もそなた達の膳の前に戻れ」

 一益はそう言うと自分の膳を取りに戻り、ドカッっと胡坐あぐらを組み座りなおすと黙って杯に酒を注ぎだす・・・

 それを見た一同も暗黙の了解なのか無言で杯に酒を注ぐ・・・

「皆の者、杯を飲み干すがよい」

 一益はグイっと飲み干すと家臣団一同を見渡す・・・

 そして皆が飲み干すのを認めると、ふてぶてしい表情に変わり一同に告げる。

「・・・そなた達に申し渡す・・・」

 一益が次の言葉まで間合いをとるために、嫌が応でも大広間が緊張感に高まる。


「・・・我らは、【進むも、退くも、滝川】ぞ、 秀吉めに、滝川家の戦の仕方を存分にみせつけてやれ、よいな・・・では、命じる。 東海道を・・・」

 一益はそこで立ち上がると、杯を床に叩きつける!!

 そして底冷えするような低い声で、一同に告げる・・・


「・・・蹂躙じゅうりんせよ・・・」


 と・・・






                    完



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