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七話 ナーガと闘おう

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 シャアアアアアアアアアアーーッ!

 蛇の森に到着して一番最初に聞いた音だった。

 「お師匠さまっ! 蛇がいっぱいいますよー(≧∇≦)」

 ハクアが見ればわかることをはしゃぎながら、教えてくれる。
 でも、

 「いっぱいなんてもんじゃなくね?」

 数千万......いや、数億に届く程の夥しい蛇が、森を埋め尽くしている。
 蛇と蛇の体が、擦れあってシュルシュルと気色の悪い音が響いている。

 その光景に絶句していると、軍装束に着替えたイリス女王が蛇について説明してくれた。

 「あれが、邪神のしもべ達です」
 「......邪神って、まさか。《邪の神》じゃなくて《蛇の神》なの!?」
 「諸説あります」

 どっちだよ!!

 「俺……蛇って生き物苦手なんだよなぁ......見た目が気持ち悪いから」
 「ふふっ。何を言っていますか。ムドウの方が気色悪いですよ?」
 「......そうかですか。では女王陛下。このムドウめが蛇達の中へと誘いましょう」

 女王をあの蛇達の中にぶん投げても同じ事を言えるか、試したくなった。

 「っえ? ちょっと! 来ないでください! ロリコン!!」
 「ロリコン関係ないだろ! 絶対。犯(や)ってやる!」

 怒りの炎が燃え上がり、イリス女王を持ち上げて投げようとしたところで、
 ハクアが足の胴着を引っ張った。

 「お師匠様! そんな人妻のおばさんより、お師匠の初めてのお相手は若々しい私を!」
 「何の話だよ......」
 
 いや、セリフだけ見ればかなり危ないことを口走っていた。
 ダリウスは......兵士達の士気をあげているから気づいていないが......
 やめておこう。

 イリス女王を降ろして、ハクアを抱き上げる。(ハクアが乗りたがった)
 突入の準備ができるまでをハクアの事を甘やかす事にする。

 「お師匠様は準備をしなくても良いんですか?」
 「俺は鎧も武器も使わない無手の武道家だから、戦う準備なんて必要ないんだよ」
 「わぁ~っ。流石はお師匠様ですっ!」
 「準備の要らない無手流が最強って事だね」

 純真無垢な幼女を洗脳しつつ、曇りのない尊敬の視線を受けて気持ちが良い。
 そんな快感に浸っていると、ハクアがきゅっと首を抱きしめて、顔を近づけた。......またか。

 「では、お師匠様の準備は、死闘の前にえいきを養うことですよね? そのお相手は私が慎んで勤めさせていただきます」
 「......色々な言葉を知ってるね?」
 「三年間、お師匠様の事だけを考えて生きてきましたので......」

 そのまま顔を近づけてくるハクア......
 
 「ロリコン」「ロリコン」「ロリコン」「ロリコン」「ロリコン」「ロリコン」「ロリコン」「ロリコン」「もげろ」

 そして、回りの騎士達が口々につぶやく......

 俺......邪神の前に、味方から殺られるかもしれない。

 戦いと既婚の女王に身を捧げた騎士達の色恋への憎悪は激しい。
 お互いがお互いを見張りあい、一歩でも踏み外せば採る。
 そんな鉄の掟があったり無かったり......
 
 ......この前まで俺もあっち側の人間だったなぁ。

 「ハクア。俺を慰めるなら慰めていいけど、そのあと百人の騎士達も慰めることになるよ?」
 「それは嫌ですぅー! 私はお師匠様だけに尽くしたいんですーー!!」
 
 そういって騎士達に視線を向けるハクアだが、誰一人こちらを向いている人は居なかった。
 明らかに殺気を感じたのに、誰もそんなもの放って居なかった事実に首を傾げる。

 ......ハクア。コイツらは魔王軍幹部との戦いを制した歴戦の覇者なんだ。
 殺気をコントロールすることぐらい寝ながらだって出来るんだよ?
 
 そんなことをハクアに言っても仕方ないので黙って置くことにした。
 
 「ムドウ。話があるんだ。ちょっと良いか?」
 「ダリウス。......ハクア。騎士達と遊んでて」
 
 ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ。

 「......と言うのは駄目で......ダリウス。ハクアも良いかな?」
 「......そうした方が良さそうだね」

 シーン!!

 きょとん。と、しているハクアを持ち上げて、ダリウスに着いていく。
 すると、イリス女王のいるテントに通された。

 「ムドウ。魔神戦の作戦を立てました。当然ですが、ムドウには一番困難な事をしてもらいます」

 そういって、イリスとダリウスが話した作戦は。
 無茶と無謀を混ぜ合わせたような作戦だった。駄目っ絶対!!

 でも、

 「まあ。イリス女王の無茶ぶりは今に始まった事じゃありませんから」
 「......」
 「アリスを助けに行けって言われたときより気分は楽かな。あの時は女王の命令なのに何故か処刑されかけたし」
 「......」
 「ハクアを頼みますよ?」
 「終わったら報酬を用意していますからきちんと受け取りに来て下さい。約束ですよ?」

 それ! 死亡フラグ!!

 


 そして、作戦決行時刻。

 百人の騎士達が、夥しい蛇との交戦を開始した。
 雷と炎が飛び交う一瞬も気を抜けない乱戦。
 女王も、ハクアも(勝手に参戦)、ダリウスも、騎士達も、命をとして戦っている正反対の場所に俺はいた。

 ......いや~っ。皆が戦っているお陰でこっちは蛇一匹いないなぁ

 女王の立てた作戦は単純明快。
 表で騎士達が派手に暴れて引き付けている間に、裏から森に侵入し俺が一人で暗殺する。
 というもの。阿保か!

 と、思いつつ。
 女王の参戦どうりすんなり森には入れてしまった。

 「女王って。無茶だけど。こういう作戦は的確なんだよなぁ......」

 でも、邪神をどう暗殺するかは考えてくれなかった。酷い。
 それに......

 「大物が一体、引き付けられてないじゃねぇ~か!」
 「シャアアアアアアアアアアーーッ!!」

 現れたのはナーガ(男)

 蛇の足と人間の胴体をもつ、限りなく魔獣に近い獣人。
 大きさはニメトル。
 でも、ナーガの場合は伸びる!

 問答無用で毒蛇の腕を伸ばすナーガの攻撃を、当て身で捌いてから、
 嫌な汗を流す。

 ......コイツ。恐ろしく強い!

 今の一撃でナーガの戦闘力を九百以上と断定。
 もし、千以上なら......俺より強いかも。てへへ......

 「幹部......って、ところなんだろうけど......。しもべでコレなら邪神は!? ......ムドウさん。ちょっと自身無くなって来たかも」
 「シャアアアアアアアアアアーー!! コロス......コロス......コロス」

 しゃべれんのかよ!

 ナーガには、六つの攻撃手段がある。
 手足の四つ。尻尾。頭。

 ......それを全て潰していくか

 先ずは両腕。
 一番器用でめんどくさい腕を潰す。

 ハァ~~~~~っ。

 いつもより長く右拳に息を拭きかけてから、ナーガの伸ばしてきた蛇腕を避けずに殴りつける!

 ゴリッ!

 「アッーーーーーーーーーーーーーー!!」

 折れた。
 右腕がぁああ!!
 折れた!!

 思った以上に強い事に驚愕しつつ。
 ナーガの戦闘力を千百以上と格上げ。

 このレベルになると、無手じゃどうしようもない。
 小手を持ってくる暇すら与えてくれなかった、イリス女王を恨みつつ。

 奥の手を使う。

 「くそっ! 《ファースト・モード》」

 俺を世界最強とたらしめたのが、このモード。
 
 魔法が使えない人間だけが使える《気》。
 それを纏うことで、戦闘力を爆発的にあげる。
 
 ......一時的で、使ったら相当疲労しちゃうけど。
 邪神と戦う前に使っちゃ駄目だけど......
 使わなきゃ邪神のしもべに殺される。

 気を纏った事で折れた腕も既に完治。
 今の俺の戦闘力は二千以上!

 ハァ~~っ。

 自我没頭! さらに身体のリミッターを外し、通常なら出せない力を発揮できるようにした。

 コレで!!

 「シャアアアアアアアアアアーー!!」
 「ハァ~~~~~~~~~~~~っ!!」

 ゴキリ。

 「アッーーーーーーーーーーーーーー!!」
 
 折れた!!
 またっ!
 折れた!!
 腕がぁああああ亜っ!

 「ふっざけんな! 戦闘力二千以上だと!? お前が邪神なんじゃねぇ~の!?」
 「ジャシンサマニ......オマエ……ミツグ」

 違うらしい。
 
 喋りながらも高速で攻撃を交わし続けるが、戦闘力二千では歯が立たない。
 
 ......仕方ない。

 「次だ! 色々すっ飛ばして! 《ファイナル・モード》」

 使えば寿命さえ減ってしまう最後の手段。
 しかし、戦闘力一万!

 魔王すら殺したこの一撃を!!

 「シャアアアアアアアアアアーー!!」
 「《爆砕拳》」

 ドガァアアアアアアアアアアン!

 ナーガが爆散した。
 
 ......良かった。コレで倒せなかったらもう手はないからね。

 やり過ぎた......けれど。
 ナーガと遊んでいるわけにはいかない。

 最低限の力で勝とうとしてこれ以上消耗するより、最強の一撃で仕留めた方が効率的だった......
 はず。

 今の一撃で数キロルに渡り、密林がハゲてしまったが、世界滅亡の危機だから小さいことを言ってられない。

 「とにかく......倒したぁぁ」

 ファイナル・モードをさっさと解除しようとして......やめる。
 
 ......消し飛ばした森の奥に邪神が居た。

 その姿は......わからなかった。
 しかし、馬鹿でかい蛇の群れの塊がそこにあった。

 甲高い声が響く。

 『我のしもべ達を殺したのは人間。貴様か?』
 「違います!」
 『嘘をつけぇえい!! 我がしもべ達が貴様がやったと言っておる!!』

 しもべ......しゃべれんのかよ!

 
 

 


  
  
 

 
 
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