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「っ痛いってば!」
「醜い子が何を言っているの? 黙りなさい!」
あの光景を見た時から、私は素直になれないまま。
「……母上?」
何を、しているんだろう。そんな軽い気持ちであの部屋を覗いて、殴られてる妹と、殴る母上。私は固まったまま、何も動けなかった。
「っう、うぅー……」
泣き出す妹を見てドアノブに力を込めても、私は怖くて何もできない。そのまま妹は殴られ続け、私はずっとドアの隙間からそれを見つめるだけだった。
それ以来、私は──何もかもが、怖くなった。
あんなことをされていた翌日も、彼女はけろっとした顔で私と話す。私に何も言うこともなく、そしてそれは母上も同じだった。
いつか私もあんなことをされるんじゃないか、姉上もされるんじゃないのか────。
そんな思考が脳内を蝕んで、恐怖色に染め上げていく。
アーリゼア姉様も母上もニーアも、いつか私を殴るの? それぐらいなら、全てを偽ってしまえばいい。
私の全てを、粉々にして、溶かして、またくっつけて砕いて。ぜんぜん別の形をしたピースで、私を作り上げてしまえばいい。
そうして、シレーグナは出来上がった。母上にも姉上にも、気づかれることもなく。
「っ、嫌い、大っ嫌い、さい、ていだ、私──」
こんな私なんか死んでしまえばいいのに。こんな私なんか消えて無くなっちゃえばいいのに。こんな私なんか──こんな私なんか、誰も知らなければいいのに。
「もう、嫌、嫌だっ……」
「…………」
全てを拒絶したくて。
聞こえてくる音、目に見えるモノ、感じること。私を欺こうとする、全ての嘘を。
「……シレーグナ」
「っ、お願い、やめて」
「シレーグナ」
「お願いだから、私を──」
私を好くことを、やめて。
「……それは、本心か?」
「っ、ふ、うぅぅーっ……!」
「皆、嫌いか?」
俺のことも、嫌いか?
「っ、う、わあああぁぁーっ!」
私なんか最低、嫌い、もう何もかも全てが嘘なの?
あの日から、ずっとずっと思っていた。
「っ、うそ、つかれたっ……」
「……うん」
「皆……私に、隠して、私も隠した」
「うん」
「もう、無理だよ……」
「何が?」
「もう今更、ほんとのあたしなんか……っ、受け入れられるわけない」
強気で、外に行くことが好きで、アーリゼアにべったりで、ニーアリアンに強く当たる。
そんなシレーグナを消して、この醜いあたしを、見せてしまったら。
「皆に、嫌われたくなかった……!」
「……うん」
「あの日見てたことニーアに言ったら、なんで助けてくれなかったんだって言われそうで、怖くて、姉上に最低だって言われたくなくて、だから言えなかった、でも皆私に何も言わない、ニーアは私がいたこと分かってたのにっ、なんでっ……」
「うん」
「っ、なんで、なんで皆っ、私に最低だって言ってくれなかったの!? なんで皆、好きとかっ……!」
ふわ、と口が塞がれる。
「っ、んっ……」
「……もう、大丈夫だ」
私というのは都合のいい生き物のようで、その日のことだけはよく覚えていない。ただ、泣いたこと、温かかったこと、ずっと目を閉じていたこと、それだけ。だから、私は知らなかった。
ドアの向こうに、ニーアリアンがいたこと。
「っ……、私、どうすればよかったのっ……?」
「醜い子が何を言っているの? 黙りなさい!」
あの光景を見た時から、私は素直になれないまま。
「……母上?」
何を、しているんだろう。そんな軽い気持ちであの部屋を覗いて、殴られてる妹と、殴る母上。私は固まったまま、何も動けなかった。
「っう、うぅー……」
泣き出す妹を見てドアノブに力を込めても、私は怖くて何もできない。そのまま妹は殴られ続け、私はずっとドアの隙間からそれを見つめるだけだった。
それ以来、私は──何もかもが、怖くなった。
あんなことをされていた翌日も、彼女はけろっとした顔で私と話す。私に何も言うこともなく、そしてそれは母上も同じだった。
いつか私もあんなことをされるんじゃないか、姉上もされるんじゃないのか────。
そんな思考が脳内を蝕んで、恐怖色に染め上げていく。
アーリゼア姉様も母上もニーアも、いつか私を殴るの? それぐらいなら、全てを偽ってしまえばいい。
私の全てを、粉々にして、溶かして、またくっつけて砕いて。ぜんぜん別の形をしたピースで、私を作り上げてしまえばいい。
そうして、シレーグナは出来上がった。母上にも姉上にも、気づかれることもなく。
「っ、嫌い、大っ嫌い、さい、ていだ、私──」
こんな私なんか死んでしまえばいいのに。こんな私なんか消えて無くなっちゃえばいいのに。こんな私なんか──こんな私なんか、誰も知らなければいいのに。
「もう、嫌、嫌だっ……」
「…………」
全てを拒絶したくて。
聞こえてくる音、目に見えるモノ、感じること。私を欺こうとする、全ての嘘を。
「……シレーグナ」
「っ、お願い、やめて」
「シレーグナ」
「お願いだから、私を──」
私を好くことを、やめて。
「……それは、本心か?」
「っ、ふ、うぅぅーっ……!」
「皆、嫌いか?」
俺のことも、嫌いか?
「っ、う、わあああぁぁーっ!」
私なんか最低、嫌い、もう何もかも全てが嘘なの?
あの日から、ずっとずっと思っていた。
「っ、うそ、つかれたっ……」
「……うん」
「皆……私に、隠して、私も隠した」
「うん」
「もう、無理だよ……」
「何が?」
「もう今更、ほんとのあたしなんか……っ、受け入れられるわけない」
強気で、外に行くことが好きで、アーリゼアにべったりで、ニーアリアンに強く当たる。
そんなシレーグナを消して、この醜いあたしを、見せてしまったら。
「皆に、嫌われたくなかった……!」
「……うん」
「あの日見てたことニーアに言ったら、なんで助けてくれなかったんだって言われそうで、怖くて、姉上に最低だって言われたくなくて、だから言えなかった、でも皆私に何も言わない、ニーアは私がいたこと分かってたのにっ、なんでっ……」
「うん」
「っ、なんで、なんで皆っ、私に最低だって言ってくれなかったの!? なんで皆、好きとかっ……!」
ふわ、と口が塞がれる。
「っ、んっ……」
「……もう、大丈夫だ」
私というのは都合のいい生き物のようで、その日のことだけはよく覚えていない。ただ、泣いたこと、温かかったこと、ずっと目を閉じていたこと、それだけ。だから、私は知らなかった。
ドアの向こうに、ニーアリアンがいたこと。
「っ……、私、どうすればよかったのっ……?」
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