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俯き加減 シレーグナside
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クラネスがシレーグナを宮へ連れて帰ってから、ちょうど一ヶ月後のこと。
「──ん……」
シレーグナが目覚めた日のことは、後々国の記念日となり盛大な宴が開かれるようにもなる。それほど一時期は時の人となったのだ。
「……ここ、は──っ!」
あぁ、戻ってしまったのか。あの、絶望の所に。力の入らない体をやっとの思いで起こす。
そこにちょうどいいタイミングで──来ないでほしいと、心の中では願っていたけど──クラネスが、来てしまった。
「ぁ──」
見るなり駆け寄って来たけれど、避ける力は私にはない。マヤに教わった体術も──使えるわけがない。
「っ起きたのか! 体調は!?」
「えっ……と……とりあえず、眠くはない、かな」
「なら良かった……!! グラッサージア一族に信用されたのか」
「え? どういうこと?」
信用された、ってなんだろう。これまでは信用されていなかったのかな? そんな疑問に、目の前のクラネスは軽快に言葉を返した。
「あぁ、本当に信用された時に、一ヶ月に一度しか起き上がれなくなることはなくなるらしい。つまり、もうシレーグナはずっと眠ったりなんかしない、ってことだ」
「そ、なんだ……」
若干声が残念そうになってしまったことに、彼は気づいてしまったかな。
自分でも間違ってると分かってはいるけど、目覚めたくなかったのは事実だ。
「……寝ていたかったか?」
罪悪感の滲んでいる声で問われたら、私はイエスと言えない。
「いや、そういうわけじゃないよ……」
「──ごめん。勝手にこっちに連れて帰って悪いとは思ってるけど、説明しなきゃいけないことがあるんだ」
「……なに?」
婚約を解消したい。サナと結婚するから、シレーグナは他の誰かと結婚してくれ。
そんな風な感じだろうなと思っていたのだが、それは反対で────。
「コヌルが言ったことは全部嘘だ。義姉上も兄上もニーアもエルも俺も、シレーグナを嫌ってなんかいない」
「……は?」
「シレーグナは妾腹の子なんかじゃないし、俺はサナとも結婚しない。確かにまぁ見合いは勧められたけど、彼女にはちゃんと夫がいる。あの後貴族のノルク家に嫁いだんだ、それでコヌルは今は一級牢屋にいるし──」
「ちょ、ちょっと待って! ……ゆっくりでいいから、詳しく説明してくれる?」
全部嘘、嫌ってない、夫がいる、訳がわからない。早口すぎて若干聞き取れない箇所もあった。
「……あのパーティーのとき、コヌルがシレーグナに言ったことは全部嘘なんだ」
その言葉が確実な情報として耳に届いた時、私の何かが壊れた。
「…………」
「……おい、シレーグナ?」
「全部、嘘……? じゃあ、私は……」
馬鹿みたい、笑えてくる。笑えるはずなのに、私はなんで泣いているんだろう。
「っく、ふっ、あはははっ……!」
全部全部、嘘。何もかも、まやかしに過ぎなかった。それだけで脱力して────。
「ふふっ、あははっ! はははは──」
むい、と頬をつねられた。
「ふふっ、痛いよ……」
「なんか、ずっと笑って笑い続けて死にそうだったからさ。何か可笑しかった?」
「ん、ううん、馬鹿みたいで」
「……馬鹿?」
「そう、馬鹿」
真っ向から受け止めようとして、受け止められなくて、凹んで。何もかも疑わずに。
「……あんなところに逃げて、馬鹿みた──」
「馬鹿は、シレーグナじゃないだろ」
「……え?」
「馬鹿は、俺の方だ」
悲しげに微笑まれ、思わず笑いが止まる。どうして、クラネスは何も────。
「シレーグナに、何も、言わなかった」
「……私に?」
「そう。もしそれを言ってたら」
絶対、俺は後悔しなかった。
「……何を、言わなかったの? 私、何か──」
「っシレーグナが悪いんじゃない!」
「え、でも……」
また、訳がわからない。
「っ、好きだ」
「……え?」
「会った時から、好きだった」
なんかもう、訳がわからない。でも、嬉しいの、かな?
「そ、そんな……嘘つかなくて、いいよ」
所詮政略。愛は生まれない。生まれるはずがない。こんな私を好く者なんかいるはずがない。いつも心の中で、そんな言葉は鈍く煌めいていて。
「嘘なんかじゃない。俺は」
シレーグナのこと、好きだ。
「っ、やめて、やめてよっ……!」
「……え?」
「好きなんて、そんなはずない、だって私は」
私は、私は。
「私なんか、大嫌いっ…!!」
あの日からずっと、私は最低だったのに。
そんな最低な私を知ったら、どうせクラネスだって。
「みんな、嘘ついて、隠してく、っなら、もうっ……」
「シレーグナ!」
「──ん……」
シレーグナが目覚めた日のことは、後々国の記念日となり盛大な宴が開かれるようにもなる。それほど一時期は時の人となったのだ。
「……ここ、は──っ!」
あぁ、戻ってしまったのか。あの、絶望の所に。力の入らない体をやっとの思いで起こす。
そこにちょうどいいタイミングで──来ないでほしいと、心の中では願っていたけど──クラネスが、来てしまった。
「ぁ──」
見るなり駆け寄って来たけれど、避ける力は私にはない。マヤに教わった体術も──使えるわけがない。
「っ起きたのか! 体調は!?」
「えっ……と……とりあえず、眠くはない、かな」
「なら良かった……!! グラッサージア一族に信用されたのか」
「え? どういうこと?」
信用された、ってなんだろう。これまでは信用されていなかったのかな? そんな疑問に、目の前のクラネスは軽快に言葉を返した。
「あぁ、本当に信用された時に、一ヶ月に一度しか起き上がれなくなることはなくなるらしい。つまり、もうシレーグナはずっと眠ったりなんかしない、ってことだ」
「そ、なんだ……」
若干声が残念そうになってしまったことに、彼は気づいてしまったかな。
自分でも間違ってると分かってはいるけど、目覚めたくなかったのは事実だ。
「……寝ていたかったか?」
罪悪感の滲んでいる声で問われたら、私はイエスと言えない。
「いや、そういうわけじゃないよ……」
「──ごめん。勝手にこっちに連れて帰って悪いとは思ってるけど、説明しなきゃいけないことがあるんだ」
「……なに?」
婚約を解消したい。サナと結婚するから、シレーグナは他の誰かと結婚してくれ。
そんな風な感じだろうなと思っていたのだが、それは反対で────。
「コヌルが言ったことは全部嘘だ。義姉上も兄上もニーアもエルも俺も、シレーグナを嫌ってなんかいない」
「……は?」
「シレーグナは妾腹の子なんかじゃないし、俺はサナとも結婚しない。確かにまぁ見合いは勧められたけど、彼女にはちゃんと夫がいる。あの後貴族のノルク家に嫁いだんだ、それでコヌルは今は一級牢屋にいるし──」
「ちょ、ちょっと待って! ……ゆっくりでいいから、詳しく説明してくれる?」
全部嘘、嫌ってない、夫がいる、訳がわからない。早口すぎて若干聞き取れない箇所もあった。
「……あのパーティーのとき、コヌルがシレーグナに言ったことは全部嘘なんだ」
その言葉が確実な情報として耳に届いた時、私の何かが壊れた。
「…………」
「……おい、シレーグナ?」
「全部、嘘……? じゃあ、私は……」
馬鹿みたい、笑えてくる。笑えるはずなのに、私はなんで泣いているんだろう。
「っく、ふっ、あはははっ……!」
全部全部、嘘。何もかも、まやかしに過ぎなかった。それだけで脱力して────。
「ふふっ、あははっ! はははは──」
むい、と頬をつねられた。
「ふふっ、痛いよ……」
「なんか、ずっと笑って笑い続けて死にそうだったからさ。何か可笑しかった?」
「ん、ううん、馬鹿みたいで」
「……馬鹿?」
「そう、馬鹿」
真っ向から受け止めようとして、受け止められなくて、凹んで。何もかも疑わずに。
「……あんなところに逃げて、馬鹿みた──」
「馬鹿は、シレーグナじゃないだろ」
「……え?」
「馬鹿は、俺の方だ」
悲しげに微笑まれ、思わず笑いが止まる。どうして、クラネスは何も────。
「シレーグナに、何も、言わなかった」
「……私に?」
「そう。もしそれを言ってたら」
絶対、俺は後悔しなかった。
「……何を、言わなかったの? 私、何か──」
「っシレーグナが悪いんじゃない!」
「え、でも……」
また、訳がわからない。
「っ、好きだ」
「……え?」
「会った時から、好きだった」
なんかもう、訳がわからない。でも、嬉しいの、かな?
「そ、そんな……嘘つかなくて、いいよ」
所詮政略。愛は生まれない。生まれるはずがない。こんな私を好く者なんかいるはずがない。いつも心の中で、そんな言葉は鈍く煌めいていて。
「嘘なんかじゃない。俺は」
シレーグナのこと、好きだ。
「っ、やめて、やめてよっ……!」
「……え?」
「好きなんて、そんなはずない、だって私は」
私は、私は。
「私なんか、大嫌いっ…!!」
あの日からずっと、私は最低だったのに。
そんな最低な私を知ったら、どうせクラネスだって。
「みんな、嘘ついて、隠してく、っなら、もうっ……」
「シレーグナ!」
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