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もう二度と、 クラネスside
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「……意外と、弱かったな」
コヌルの配下にあった兵をやっと薙ぎ倒し──まぁ、量が多かっただけで実力的には全く問題はなかったが──剣先に淡くついた赤色を拭った。
「えぇ、そうですね……父は兵には金をかけていましたが、鍛錬はあまり」
「そのようだな。始末は?」
「……まぁ、王家に任せま──」
「っルカっ!!」
任せましょうと言おうとしたサナを遮った女。シレーグナより何歳か年上ぐらいに見える。さっきの『ルカ』という女を探しているのだろう。
「どうした?」
そう俺が言うと、猫目の女はその強気な目で俺をキッと睨む。俺は何もしてな──いやまぁ、したはしたが。
「あんた、クラネス様?」
「あ? あぁ、そうだが」
敬語だか何だか分からないが、随分ざっくばらんな話し方をする。こういう話し方は嫌いじゃない。
「ルカに会った?」
「あぁ、会った」
「……マヤ、気付いてないぞ。気付いてるなら連れて行ってるはずだ」
「……ここから出て行って。あんたの探してる女は知ってる」
「っどこにいるんだ!?」
「……あんたを拒絶できる場所。二度と会わない場所」
「っ……会ったのか?」
「あぁ、会ったさ。けどあんたの知ってるシレーグナじゃないよ。諦めな」
「そんなことで諦めるならこんな所にいない。それにコヌルはここにシレーグナを捨てたんだ」
「ふっ、あんたが捨てたんじゃないのかい?」
「そんな訳ないだろう」
捨てたなんて、そんな訳がない。口にする事はなかったが──好きだったのだから。
「どっちにしろ、ルカはあんたに関係──」
「っクラネス様っ! シレーグナ様ですっ!!」
「──どういうことだ? お前が隠していたのか?」
サナが小屋のバルコニーから顔を出し、発見を報告する。しかしその小屋は見るからにこの女の住処だ。
その質問に答える前に、女は跳躍した。木を連続して蹴りつけ、バルコニーに着地する。憎々しげな表情をしてサナの後頭部を短剣の柄で強く打つと、鈍い音と共にサナが倒れた。
「……いつだって傷ついてたんだよ、この子は。私も未だ信用できないくらいにね」
「──は?」
「あぁそうさ、ルカはあんたが望んでるシレーグナとやらだよ。でもあんたは本当に──この子を知っていたのかい?」
悲痛な表情をして問いかける女。
「この子を私と旦那が拾った……いや見つけた時、馬車の椅子の下にあったものは眠り香。三日間眠らされながら森に連れてかれて、降ろされてやっと助かったと思って、少しずつ慣れ始めたところであんたの兵だ」
「…………」
徐々に徐々に、クラネスの表情が変わっていく。
「あんたにも姉にも妹にも嫌われてる、しかも自分は王妃の子じゃない。……そんなこと言われて、誰かをすぐ信じられる訳ないだろう」
「っ、俺も義姉上もニーアも嫌ってなんか──」
「それも知ってるよ。でも、それをこの子が信じるかどうかはあの子次第だ」
一息に話し、マヤは昏倒したサナの額を撫でた。
「……絶対、裏切らないと言ったら?」
「言葉ほどあの子が信用しないものはないと思うけどね。それに……」
「それに、なんだよ」
「……あんたが知ってるシレーグナは、本当のシレーグナなのかね」
「っ……」
「……連れて帰りたければ、連れて帰ればいい。それでどうなったって、私は知ったこっちゃない。その子がまた壊れたって、またこっちに帰すだけだ」
完全に俺も信用されていないな、と思う。けどそれだけで帰るぐらいなら死んでやる。
「……そっちに行く。連れて帰ってもいいか」
クラネスは、救世主か、死神か。それを決めるのは、シレーグナ自身だ。
コヌルの配下にあった兵をやっと薙ぎ倒し──まぁ、量が多かっただけで実力的には全く問題はなかったが──剣先に淡くついた赤色を拭った。
「えぇ、そうですね……父は兵には金をかけていましたが、鍛錬はあまり」
「そのようだな。始末は?」
「……まぁ、王家に任せま──」
「っルカっ!!」
任せましょうと言おうとしたサナを遮った女。シレーグナより何歳か年上ぐらいに見える。さっきの『ルカ』という女を探しているのだろう。
「どうした?」
そう俺が言うと、猫目の女はその強気な目で俺をキッと睨む。俺は何もしてな──いやまぁ、したはしたが。
「あんた、クラネス様?」
「あ? あぁ、そうだが」
敬語だか何だか分からないが、随分ざっくばらんな話し方をする。こういう話し方は嫌いじゃない。
「ルカに会った?」
「あぁ、会った」
「……マヤ、気付いてないぞ。気付いてるなら連れて行ってるはずだ」
「……ここから出て行って。あんたの探してる女は知ってる」
「っどこにいるんだ!?」
「……あんたを拒絶できる場所。二度と会わない場所」
「っ……会ったのか?」
「あぁ、会ったさ。けどあんたの知ってるシレーグナじゃないよ。諦めな」
「そんなことで諦めるならこんな所にいない。それにコヌルはここにシレーグナを捨てたんだ」
「ふっ、あんたが捨てたんじゃないのかい?」
「そんな訳ないだろう」
捨てたなんて、そんな訳がない。口にする事はなかったが──好きだったのだから。
「どっちにしろ、ルカはあんたに関係──」
「っクラネス様っ! シレーグナ様ですっ!!」
「──どういうことだ? お前が隠していたのか?」
サナが小屋のバルコニーから顔を出し、発見を報告する。しかしその小屋は見るからにこの女の住処だ。
その質問に答える前に、女は跳躍した。木を連続して蹴りつけ、バルコニーに着地する。憎々しげな表情をしてサナの後頭部を短剣の柄で強く打つと、鈍い音と共にサナが倒れた。
「……いつだって傷ついてたんだよ、この子は。私も未だ信用できないくらいにね」
「──は?」
「あぁそうさ、ルカはあんたが望んでるシレーグナとやらだよ。でもあんたは本当に──この子を知っていたのかい?」
悲痛な表情をして問いかける女。
「この子を私と旦那が拾った……いや見つけた時、馬車の椅子の下にあったものは眠り香。三日間眠らされながら森に連れてかれて、降ろされてやっと助かったと思って、少しずつ慣れ始めたところであんたの兵だ」
「…………」
徐々に徐々に、クラネスの表情が変わっていく。
「あんたにも姉にも妹にも嫌われてる、しかも自分は王妃の子じゃない。……そんなこと言われて、誰かをすぐ信じられる訳ないだろう」
「っ、俺も義姉上もニーアも嫌ってなんか──」
「それも知ってるよ。でも、それをこの子が信じるかどうかはあの子次第だ」
一息に話し、マヤは昏倒したサナの額を撫でた。
「……絶対、裏切らないと言ったら?」
「言葉ほどあの子が信用しないものはないと思うけどね。それに……」
「それに、なんだよ」
「……あんたが知ってるシレーグナは、本当のシレーグナなのかね」
「っ……」
「……連れて帰りたければ、連れて帰ればいい。それでどうなったって、私は知ったこっちゃない。その子がまた壊れたって、またこっちに帰すだけだ」
完全に俺も信用されていないな、と思う。けどそれだけで帰るぐらいなら死んでやる。
「……そっちに行く。連れて帰ってもいいか」
クラネスは、救世主か、死神か。それを決めるのは、シレーグナ自身だ。
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