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戻った日常
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「…………」
沈黙。静寂。
その言葉でしか表せないこの空間に、八人の人間が集まっている。普段はあまり使うことのない大広間だが、それぞれが思い思いの場所にいた。
ニーアリアンは手すりに座っており、その隣には当然のごとくエルナリアがいる。少し眠いためか寄りかかってうつらうつらしそうになっているが──彼女の目の前にいるシレーグナのためか、ぎりぎりの所で耐えている。
「…………」
非常に居心地悪そうにしている──シレーグナ。彼女はニーアリアンのそばにいるが、俯いてばかり。肩までの短くなった金髪が、下を向くとゆらりと揺れる。彼女が時々噛みそうになる唇は罪悪感からだろうか。
しかしそれはクラネスによって止められている。軽くシレーグナと背を合わせる程度の角度で立っているが、手は後ろで繋がれており、シレーグナが唇を噛もうとするとギュッと手を握られている。
「…………」
黙って、小さな本を読んでいるアーリゼア。最近はトルアの恋愛文学を読んでいるようで、サニーラに時たま意味を聞いているようだ。
そして隣にいる彼──サニーラ──は顔を赤くしながら意味を教える。そしてアーリゼアは彼の表情に気付かない。
「……こほっ」
小さく咳をしたサナ。晴れてノルク家──ルクレオの実家──の新妻となった彼女は、マヤに昏倒させられた後に無事に目覚め、今ではマヤに教えを請いたいとまで願っていた。
「……さて、待たせてしまったか?」
「おはようございます、父上」
「ああ、おはようアリア。また本か?」
「……いけませんか?」
「いや、それはトルアの書で恋愛文学だろう? ……サニーラも大変だな」
「……えぇ、わずかながら拷問です」
「え……私、なんかした? トルアの辞書が重いから、いちいち侍女に運ばせるのもなって思ったんだけど──嫌だったらいいよ?」
紅い目の上の整った眉を下げ、遠慮がちに問うアーリゼア。長い金髪はまとめられているが、その耳にはこれまた紅いイヤリングが輝いている──恐らくは、サニーラがプレゼントしたのだろう。
「まぁ、その誤解は──ふ、あぁー、失礼しました──お二人で解いてください。おはようございます父上」
「おはよう、ニーア。随分と眠たげだな」
あくびをし、涙目になりながら朝の挨拶をするニーアリアン。彼女の耳には──否、耳ではない──白く細い首には、銀色の帯。彼女もまた、配偶者のくれた何かを身につけているようだ。
「ん、少し夜更かしを……読み始めたカヌラ神記長編が、ことのほか面白く」
「昨日一冊読み終えてたな」
「うん──でも、あれまだ五十四冊もあるの……ふ、くぁ」
「おお、神記に手を出したか。あれは段々と簡単になってくる。精進せよ」
「ありがたきお言葉。して父上、彼は?」
今日は、コヌルの最終尋問日だ。
既に死刑との宣告はなされたが、リセク国の法により決まっていることだ。しかし当然の如く──誰もに、やる気はない。
「衛兵が連れてくる手はずだ。楽にしておれ」
周知の事実だが──このカトレル王は豪放磊落な性格である。風格も功績もあるものの、普段は緩めの性格だ。つまり彼がやる気にならないと、この尋問は正当な物にはならない──非常に、おかしな事だ。
「……サナ」
凛としたニーアリアンの声。彼女の手にはいつの間にか分厚い書がある。
「お呼びでしょうか、ニーアリアン様」
「……気張る必要はないわ。あなたにロネルの名はない」
「──あ、りがとうございます……っ」
サナの肩は震え続ける。そしてそれは、彼女の父がこの広間を出て行くまで──もしかしたら、彼女が死ぬまで、震えは止まらないのかもしれない。
沈黙。静寂。
その言葉でしか表せないこの空間に、八人の人間が集まっている。普段はあまり使うことのない大広間だが、それぞれが思い思いの場所にいた。
ニーアリアンは手すりに座っており、その隣には当然のごとくエルナリアがいる。少し眠いためか寄りかかってうつらうつらしそうになっているが──彼女の目の前にいるシレーグナのためか、ぎりぎりの所で耐えている。
「…………」
非常に居心地悪そうにしている──シレーグナ。彼女はニーアリアンのそばにいるが、俯いてばかり。肩までの短くなった金髪が、下を向くとゆらりと揺れる。彼女が時々噛みそうになる唇は罪悪感からだろうか。
しかしそれはクラネスによって止められている。軽くシレーグナと背を合わせる程度の角度で立っているが、手は後ろで繋がれており、シレーグナが唇を噛もうとするとギュッと手を握られている。
「…………」
黙って、小さな本を読んでいるアーリゼア。最近はトルアの恋愛文学を読んでいるようで、サニーラに時たま意味を聞いているようだ。
そして隣にいる彼──サニーラ──は顔を赤くしながら意味を教える。そしてアーリゼアは彼の表情に気付かない。
「……こほっ」
小さく咳をしたサナ。晴れてノルク家──ルクレオの実家──の新妻となった彼女は、マヤに昏倒させられた後に無事に目覚め、今ではマヤに教えを請いたいとまで願っていた。
「……さて、待たせてしまったか?」
「おはようございます、父上」
「ああ、おはようアリア。また本か?」
「……いけませんか?」
「いや、それはトルアの書で恋愛文学だろう? ……サニーラも大変だな」
「……えぇ、わずかながら拷問です」
「え……私、なんかした? トルアの辞書が重いから、いちいち侍女に運ばせるのもなって思ったんだけど──嫌だったらいいよ?」
紅い目の上の整った眉を下げ、遠慮がちに問うアーリゼア。長い金髪はまとめられているが、その耳にはこれまた紅いイヤリングが輝いている──恐らくは、サニーラがプレゼントしたのだろう。
「まぁ、その誤解は──ふ、あぁー、失礼しました──お二人で解いてください。おはようございます父上」
「おはよう、ニーア。随分と眠たげだな」
あくびをし、涙目になりながら朝の挨拶をするニーアリアン。彼女の耳には──否、耳ではない──白く細い首には、銀色の帯。彼女もまた、配偶者のくれた何かを身につけているようだ。
「ん、少し夜更かしを……読み始めたカヌラ神記長編が、ことのほか面白く」
「昨日一冊読み終えてたな」
「うん──でも、あれまだ五十四冊もあるの……ふ、くぁ」
「おお、神記に手を出したか。あれは段々と簡単になってくる。精進せよ」
「ありがたきお言葉。して父上、彼は?」
今日は、コヌルの最終尋問日だ。
既に死刑との宣告はなされたが、リセク国の法により決まっていることだ。しかし当然の如く──誰もに、やる気はない。
「衛兵が連れてくる手はずだ。楽にしておれ」
周知の事実だが──このカトレル王は豪放磊落な性格である。風格も功績もあるものの、普段は緩めの性格だ。つまり彼がやる気にならないと、この尋問は正当な物にはならない──非常に、おかしな事だ。
「……サナ」
凛としたニーアリアンの声。彼女の手にはいつの間にか分厚い書がある。
「お呼びでしょうか、ニーアリアン様」
「……気張る必要はないわ。あなたにロネルの名はない」
「──あ、りがとうございます……っ」
サナの肩は震え続ける。そしてそれは、彼女の父がこの広間を出て行くまで──もしかしたら、彼女が死ぬまで、震えは止まらないのかもしれない。
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