15 / 21
偽名、偽体 シレーグナside
しおりを挟む
「え、ロアール、ルチルア……ッ?」
息を呑み、ニーアリアンは目を潜めた。
何日ぶりに、私はこの妹に会ったのだろう。
「……レナ?」
私を愛称で呼ぶ、この男に。
私はどれだけ、寂しい思いをさせていたんだろう。いや──寂しいと、思っていてくれたのかは、まだ分からないかも知れないけれど。
「ん、何?」
「いや……偽名だって、知ってたか?」
「ううん、知らなかった」
けど、おかしいとは思っていた。
リセク……もとい、カヌラとトルアの民達の家には、共通して住所はない。中には戸籍のないまま暮らしている者もいると聞いたことはある。
しかし、二人はわざわざ森の奥深くで暮らしていた──相当な物好きかと最初は思った。
「しかもロアールとルチルアって……建国神話に出てくる、あの二人か?」
私とて、本を読まなかったわけではない。
建国神話程度なら幼少期に読破したし、それなりに本も読んでいた──と、思うけど。
「うん、多分……あの二人なら、分かる気がする」
「なんであんな森に……あの森って、太古の生物がどうとかって言ってなかったか?」
「あぁ、コナとかはそうだよ。グラッサージアはすごく古い一族。でも他にもたくさん……」
グラッサージアの一族は、カヌラ国が建国された時からその地に棲みついていたらしい。
「あぁそうそうシレーグナ、忘れてたよ。コナのことなんだけど」
「え、何?」
「少し遠かったんだけど、もう何匹かグラッサージアがいてね。保護して今は一緒にいるよ」
「あ……良かった。まだ続く?」
「コナは雌だろ? 三匹連れてきて、その内一匹が雌。で、あとの二匹は雄だった」
「それなら大丈夫かな。また羽拾いに行くよ」
「あぁ──さて、その話は終わりだね」
レナの願いは聞いたよ、じゃあ横のあんたは?
そう言って、私の隣にいるクラネスを指差す。
「え……俺の、願い?」
「マヤ、こいつは俺でもいいか」
「んぁ? あぁ、いいわよ。で?」
「俺、は──まぁ、特には、ないかな」
「んー……じゃあ、考えとけ。次」
「あ、俺はアーリゼアといられれば十分です」
「早いな。次」
「あ、えっと……んー、シレーグナと同じで!」
「そうか。次」
アーリゼアとサニーラの回答は手早く終わったが──横では、クラネスが黙り込んで考えている。
「あー……ニーアに素直になってほしい」
「うぇっ!?」
「そうか。次」
「えちょっ……」
「次だ。ニーアリアン・ムーナリア・リセク」
なぜか機械的にそう告げるトクラを、ニーアリアンは不思議に思った。素っ気ない人だが、内面に何かを秘めているような──そんな気がしたから。
「あー……何も、いらないです」
「……は?」
「……前に、ある書を読んで。その丸写しですけど、『幸せも不幸も喜びも涙も、生きているならば人には平等に訪れる。自分を不幸だと思っている人間は、それに気付かないだけだ』って」
「…………」
「……だから、私は何もいらないです。自分で幸せを見つければ、不幸になんか絶対ならない」
「……そうか。次」
「私もルクも、特にはありません」
「そうか。マヤ」
「ん、分かったよ。じゃあ目を瞑ってくれるかい?」
「…………」
八人が目を瞑った途端、マヤとトクラは光を発し始めた。白銀の淡い光だが、ここにあるもの全てを包み込んでしまうような強い光。それを一杯に浴びた二人は────。
「……んー、やっぱりこの服の方がいいね」
「まぁ、合ってるからな。目を開けていいぞ」
「……っ!?」
一番に目を開けたシレーグナ。彼女が見たものは、これまでとは別人のように──そう、まるで石ころが宝石に変わったような──なった、二人だ。
「え、マヤ……?」
「悪かったね、シレーグナ。私の名前はマヤじゃないんだ。本当の名前はルチルア。トクラはロアールと言う」
「……願いは叶えた。じゃあな」
「ずっとあの森にいる。心配しないでね」
「え、ちょっ──」
ニーアリアンが二回目の戸惑いの言葉を口にしかけた時には、既に二人は消えていた──魔法のように。
「……神様、だったんだ」
「……ふふっ、あはははっ!」
アーリゼアの、驚ききってしまったような言葉を遮るようにして笑ったシレーグナ。
「っははっ、神様? 姉上、そんな高尚なものではありませんよ?」
「え……? どういうこと?」
「ロアールもルチルアも、元は二人の人間だったんですから」
口元を隠しながら、ころころと歌うように。
そんな風なシレーグナを見るのは、誰もが初めてだった。だって、彼女はいつも偽っていたから──。
「……そうね──改めて、お帰りなさい、シレーグナ」
「ただいま戻りました、姉上。ありがとうございます」
息を呑み、ニーアリアンは目を潜めた。
何日ぶりに、私はこの妹に会ったのだろう。
「……レナ?」
私を愛称で呼ぶ、この男に。
私はどれだけ、寂しい思いをさせていたんだろう。いや──寂しいと、思っていてくれたのかは、まだ分からないかも知れないけれど。
「ん、何?」
「いや……偽名だって、知ってたか?」
「ううん、知らなかった」
けど、おかしいとは思っていた。
リセク……もとい、カヌラとトルアの民達の家には、共通して住所はない。中には戸籍のないまま暮らしている者もいると聞いたことはある。
しかし、二人はわざわざ森の奥深くで暮らしていた──相当な物好きかと最初は思った。
「しかもロアールとルチルアって……建国神話に出てくる、あの二人か?」
私とて、本を読まなかったわけではない。
建国神話程度なら幼少期に読破したし、それなりに本も読んでいた──と、思うけど。
「うん、多分……あの二人なら、分かる気がする」
「なんであんな森に……あの森って、太古の生物がどうとかって言ってなかったか?」
「あぁ、コナとかはそうだよ。グラッサージアはすごく古い一族。でも他にもたくさん……」
グラッサージアの一族は、カヌラ国が建国された時からその地に棲みついていたらしい。
「あぁそうそうシレーグナ、忘れてたよ。コナのことなんだけど」
「え、何?」
「少し遠かったんだけど、もう何匹かグラッサージアがいてね。保護して今は一緒にいるよ」
「あ……良かった。まだ続く?」
「コナは雌だろ? 三匹連れてきて、その内一匹が雌。で、あとの二匹は雄だった」
「それなら大丈夫かな。また羽拾いに行くよ」
「あぁ──さて、その話は終わりだね」
レナの願いは聞いたよ、じゃあ横のあんたは?
そう言って、私の隣にいるクラネスを指差す。
「え……俺の、願い?」
「マヤ、こいつは俺でもいいか」
「んぁ? あぁ、いいわよ。で?」
「俺、は──まぁ、特には、ないかな」
「んー……じゃあ、考えとけ。次」
「あ、俺はアーリゼアといられれば十分です」
「早いな。次」
「あ、えっと……んー、シレーグナと同じで!」
「そうか。次」
アーリゼアとサニーラの回答は手早く終わったが──横では、クラネスが黙り込んで考えている。
「あー……ニーアに素直になってほしい」
「うぇっ!?」
「そうか。次」
「えちょっ……」
「次だ。ニーアリアン・ムーナリア・リセク」
なぜか機械的にそう告げるトクラを、ニーアリアンは不思議に思った。素っ気ない人だが、内面に何かを秘めているような──そんな気がしたから。
「あー……何も、いらないです」
「……は?」
「……前に、ある書を読んで。その丸写しですけど、『幸せも不幸も喜びも涙も、生きているならば人には平等に訪れる。自分を不幸だと思っている人間は、それに気付かないだけだ』って」
「…………」
「……だから、私は何もいらないです。自分で幸せを見つければ、不幸になんか絶対ならない」
「……そうか。次」
「私もルクも、特にはありません」
「そうか。マヤ」
「ん、分かったよ。じゃあ目を瞑ってくれるかい?」
「…………」
八人が目を瞑った途端、マヤとトクラは光を発し始めた。白銀の淡い光だが、ここにあるもの全てを包み込んでしまうような強い光。それを一杯に浴びた二人は────。
「……んー、やっぱりこの服の方がいいね」
「まぁ、合ってるからな。目を開けていいぞ」
「……っ!?」
一番に目を開けたシレーグナ。彼女が見たものは、これまでとは別人のように──そう、まるで石ころが宝石に変わったような──なった、二人だ。
「え、マヤ……?」
「悪かったね、シレーグナ。私の名前はマヤじゃないんだ。本当の名前はルチルア。トクラはロアールと言う」
「……願いは叶えた。じゃあな」
「ずっとあの森にいる。心配しないでね」
「え、ちょっ──」
ニーアリアンが二回目の戸惑いの言葉を口にしかけた時には、既に二人は消えていた──魔法のように。
「……神様、だったんだ」
「……ふふっ、あはははっ!」
アーリゼアの、驚ききってしまったような言葉を遮るようにして笑ったシレーグナ。
「っははっ、神様? 姉上、そんな高尚なものではありませんよ?」
「え……? どういうこと?」
「ロアールもルチルアも、元は二人の人間だったんですから」
口元を隠しながら、ころころと歌うように。
そんな風なシレーグナを見るのは、誰もが初めてだった。だって、彼女はいつも偽っていたから──。
「……そうね──改めて、お帰りなさい、シレーグナ」
「ただいま戻りました、姉上。ありがとうございます」
0
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。
クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。
3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。
ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。
「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる