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薬 シレーグナside
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「久しぶりじゃないか、元気だったかい?」
「うん、久しぶり。元気だったよ」
フィランソ森林、奥深くの家──小屋だろうか。シレーグナとクラネスが訪れていた。
「あ、トクラさん。お久しぶりです」
「あー、サニラだっけ?」
「……俺はクラネスです。兄はサニーラ」
「覚えてないな」
「まぁいいですけど……」
「ったくトクラ、名前ぐらい覚えてならなきゃ駄目じゃないか」
「もう数世紀前に言ってくれたらな」
皮肉で切り返すトクラ。
「──あれ? レナは?」
「グラッサージアの羽拾いだろう。四匹もいるから、俺とマヤじゃ追いつかなくてな」
「はー。俺も行ってきま──」
「やめておけ。一ヶ月眠りたいなら別だが」
「うっ……枝拾ってきます」
「ああ、行ってらっしゃ──」
「ックラネス様!!」
突然馬に乗って現れた、身軽な服装をした兵士。その表情は凍りついたように緊張している。
「あぁ、クレじゃないか!」
「っ兄君から、文が……っ!」
「兄上から? 何かあったのか?」
「んー、いっぱい……一回薬作っちゃう?」
「そうした方がいいな。よし、大鍋──」
「レナ! レナッ!!」
「あ……クラネス。どうかした?」
「っ体調は!?」
「えっ……なんともないけど」
額に手を当てながら、シレーグナに尋ねたクラネス。
「よかった……実は──」
「疫病っ? どんぐらいいるんだい?」
「とりあえず千人以上は……」
「特効薬は?」
ポケットからこぼれそうになった羽をつかみながらマヤが言う。特効薬があるならとっくに治ってるだろう、と。
「はー……万病に効く薬があればなー」
「あるじゃないか」
「……え?」
「この羽、全部使って薬作っても足りないかい?」
「っ……! いいの、マヤ?」
「あたしは使わないからね。存分に使いな」
「ありがとう! 大鍋借りるね!」
そう、グラッサージアの羽は、水にくぐらせると淡い桃色のとろりとした飲み薬になり──正に、万病に効く。しかしとても希少なため市場には出回らない。商人の間ではごく稀に高値で取り引きされている。
「……よし……作ろう」
「全部入れるよ? 置いてあったやつも入れるから」
「うん、ありがとう。多いぶんには構わないよね」
「ああ、大丈夫じゃないか」
そのうちに、出来上がった薬をどう運ぼうかという話し合いが始まった。結局、コナとコナのつがいリン──シレーグナが名付けた──に協力してもらい、シレーグナとクラネスは二匹に乗って宮に帰ることになった。
「じゃあ、また!」
「あぁ、必ず助けてやるんだよ!」
軽い破裂音のような羽音に遮られ、声はろくに聞こえない。けれど、ひとときの時間を楽しんだ四人はとても満足していた。
「うん、久しぶり。元気だったよ」
フィランソ森林、奥深くの家──小屋だろうか。シレーグナとクラネスが訪れていた。
「あ、トクラさん。お久しぶりです」
「あー、サニラだっけ?」
「……俺はクラネスです。兄はサニーラ」
「覚えてないな」
「まぁいいですけど……」
「ったくトクラ、名前ぐらい覚えてならなきゃ駄目じゃないか」
「もう数世紀前に言ってくれたらな」
皮肉で切り返すトクラ。
「──あれ? レナは?」
「グラッサージアの羽拾いだろう。四匹もいるから、俺とマヤじゃ追いつかなくてな」
「はー。俺も行ってきま──」
「やめておけ。一ヶ月眠りたいなら別だが」
「うっ……枝拾ってきます」
「ああ、行ってらっしゃ──」
「ックラネス様!!」
突然馬に乗って現れた、身軽な服装をした兵士。その表情は凍りついたように緊張している。
「あぁ、クレじゃないか!」
「っ兄君から、文が……っ!」
「兄上から? 何かあったのか?」
「んー、いっぱい……一回薬作っちゃう?」
「そうした方がいいな。よし、大鍋──」
「レナ! レナッ!!」
「あ……クラネス。どうかした?」
「っ体調は!?」
「えっ……なんともないけど」
額に手を当てながら、シレーグナに尋ねたクラネス。
「よかった……実は──」
「疫病っ? どんぐらいいるんだい?」
「とりあえず千人以上は……」
「特効薬は?」
ポケットからこぼれそうになった羽をつかみながらマヤが言う。特効薬があるならとっくに治ってるだろう、と。
「はー……万病に効く薬があればなー」
「あるじゃないか」
「……え?」
「この羽、全部使って薬作っても足りないかい?」
「っ……! いいの、マヤ?」
「あたしは使わないからね。存分に使いな」
「ありがとう! 大鍋借りるね!」
そう、グラッサージアの羽は、水にくぐらせると淡い桃色のとろりとした飲み薬になり──正に、万病に効く。しかしとても希少なため市場には出回らない。商人の間ではごく稀に高値で取り引きされている。
「……よし……作ろう」
「全部入れるよ? 置いてあったやつも入れるから」
「うん、ありがとう。多いぶんには構わないよね」
「ああ、大丈夫じゃないか」
そのうちに、出来上がった薬をどう運ぼうかという話し合いが始まった。結局、コナとコナのつがいリン──シレーグナが名付けた──に協力してもらい、シレーグナとクラネスは二匹に乗って宮に帰ることになった。
「じゃあ、また!」
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