3LOVE=6x x= (上)

天海 時雨

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虚無感 クラネスside

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 感情を、はっきり表さなかったこと。
 それが、今の俺の『後悔』だ。

 あのパーティーの夜、彼女がいなくなって、目を離していたことを後悔して。何で見つけられないんだろうと、自分を責めもした。
 しかし俺は、元から彼女に、何の感情も表さなかった。
 彼女に嫌いだと言っても、彼女は何も言わないだろう。でもを言えば──何かは変わっていたのか?

「……クラネス、入るぞ」

 ノックをされ、部屋に入るのは義父──いや、そうなるのかも分からなくなってしまった──カトレル王。ニーアリアン──義妹とよく似た漆黒の髪。

「あぁ、カトレル様……」
「……随分とやつれたように見えるのは、私の気のせいだと思いたいな」
「……このまま痩せ細ってしまったら、どうなるでしょうね」
「冗談でも、そんなことを言わないでくれ。──今日ここに来たのはな、そなたに重大な話があるからだ」
「私に、話? 何のお話でしょうか」
「……実は、な──」

 そこからの話は、断片的にしか覚えていない。しかし何かに打ち震えるような感覚、そして驚愕、そして微かな──喜びのような感情があった。

「……そう言えば、またコヌルがサナとの婚約を蒸し返して来たぞ。お前からも一度ハッキリと言ってやれ」
「……えぇ、今日言わせていただくつもりでした」
「おぉ、なら良かった。──実の所、あの男は嫌いでな」
「何故です?」
「……図々しく、かと言って美しいわけでもない。あれで美丈夫びじょうふであれば少しは変わっていたのだろうがな。娘も平凡だ──あれでは地位目当ての男しか寄らない」

 やはり降格させるか、と王は言う。

「……一層の事、シレーグナを発見した後処刑してしまってはどうだろう」
「見つかる確証はないですが、それには賛成です」

 シレーグナがいなくなったと知った後、あの女──サナだかサヤ。そいつが異常に近づいてくるようになった。体調不良を理由に宮に残っている上、俺の部屋を訪ねてくる。

「……地位目当ての男が寄る女は、地位を欲しがるものなのですね」
「くくっ、まぁいい。のことは任せろ」

 誰かに聞かれているかもしれないと考え、普通なら明確な発言はしないものだろう。しかし竹を割ったようなこの人の性格が、俺は好きだ。

「えぇ、ありがとうございます」
「それではな、クラネス。もうやつれるなよ」
「善処します」

 好きと、はっきり言わなかった。
 それが、今の俺の『後悔』だ。
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