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四月

ベネフィセント・ルシーダ学園へようこそ! その1

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 眠気まなこで、少し早めの登校。
 道路脇の桜が綺麗だったから、思わずスマフォを構え、そのまま画面をタップする。カシャリ。定番の音がし、見たもの通りに撮れた写真に、俺は自己満足で小さくガッツポーズ。

 昨日見たばかりの派手な校舎。裏手から聞こえる威勢のいい声は、朝練中の生徒のものだろうか。
 結局、昨日は校舎内を見て回れなかったことだし、朝早く来たことだ。少しくらい見て回るかと、俺は鞄を担ぎ直して歩き出した。



「でやぁああ!」

 鬼気迫るその掛け声に、俺は思わず足を止める。そうして向かい竹林を抜けた先、そこには武道場があった。入り口が開け放たれていたので、そこからこっそり覗いてみれば。

「……太刀根?」

 竹刀を両手で持ち、相手の頭に向けて振り降ろした男子生徒。防具をつけていてわかりづらいが、防具の部分に“太刀根”と書かれているから、まぁまず間違いないだろう。
 あまり大きな声を出した覚えはないが、太刀根には聞こえていたらしく、俺のほうを見ると、

「護!」

と嬉しそうな声色で名前を呼んだ。てか、前見ろ前。今なんか練習してるんじゃないのか!?

「おい馬鹿、前見ろって!」
「え、前?」
「隙あり!」

 パーン! という乾いた音が響いて、審判をしていたっぽい人が「一本、技あり!」と赤旗を上げた。
 頭を竹刀で叩かれた太刀根は「あ……」と竹刀を構えたままの状態で固まっている。剣道はよくわからんが、これって太刀根は負けた……んだよ、な?

「あああ! しまったぁあああ! 護がいるだけで嬉しくてつい余所見を」
「いやアホだろ……」
「護、今のナシ! 今から格好いいとこ見せるから、今の忘れてくれ!」
「いや別にいい……」

 男のキメてる姿を見たくもなければ、それでわーきゃー言う女子でもないのだ。そういうことは強豪校との試合でやってくれ。
 冷めている俺とは反対に、太刀根は「な? な?」とお願いをするように両手を合わせている。竹刀を挟むとは、なかなか器用な奴だと改めて思った。

「イキんでるとこ悪いが、太刀根、今日の朝練はこれで終わりだ。折角、会いたかった友達が登校してるんだ。片付けはやっておいてやるから、先に上がれ」

 審判をしていたのはどうやら先輩だったらしい。太刀根は「あ、会いたかっ……」とか「いやでも先輩!」とか、言いたいことがこんがらがっているようで、何も上手く言葉に出来ていない。
 ラチがあかないと思い、俺は「いいじゃん」と早く用意しろとばかりに入口を顎で示した。

「あああ、先輩、ほんっとにさーせん! あざっす! 護、ちょっと部室で待っててくれよ!」
「なんで部室」

 俺が止めるより早く、太刀根は隅にある小部屋へと入っていった。
 正直入りたくない。入りたくないのだが。

「お友達くん、行かないのかい? 太刀根の友達なら別に構わないんだよ?」
「あー……、っす」

 いやそこは構おうや! 部外者立ち入り禁止だろうが! 一応先輩にそう言われては、大人しく隅の小部屋に行く他ないんだよなぁ。

 部室の中は汗の臭いがするかと思いきや。案外、いや結構いい感じの香りがして、俺は少しだけ剣道部のイメージを変えた。武道場だからなのか、ロッカーも木製で、鍵は木の板をはめるようになっている。こういうの、割符っていうんだっけ?
 奥から水音と鼻歌が聞こえるに、シャワールームがあるらしい。武道場なのに。湯浴みじゃ駄目だったのか。

「あ! 護、いるー?」
「おー、いるよ」
「わりぃんだけど、そこのタオル取ってくんねー?」
「タオル?」

 あぁ、これか。俺は椅子に置いてあったバスタオルを手に取って、カーテンのかかるシャワールームまで歩き――
 俺は忘れていた。そう、これはゲームなのだ。大抵ギャルゲーもエロゲもそうだが、こういうシャワーイベントと言えば。

「うわっと!」

 なんというアンラッキー。たまたまそこで足を滑らせた俺は、カーテンを突き破り、全裸姿の太刀根の胸板へダイブした! そのまま太刀根を押し倒した俺は、うまい具合に馬乗り状態へ。

「うわぁ!?」
「あ、わりっ。大丈夫か!?」

 俺はシャワーでびしょ濡れになりながらも、下敷きになった太刀根を心配してみれば、奴は頬を染めて、

「や、やめろよ……。まだ朝だぞ?」
「なんでやねん! 不可抗力だ!」

と後ろへ飛び跳ねた。リアルで後ろに跳ねるなんて初めてだわ! 太刀根の股間を隠すように落ちたタオルはびしょ濡れで、どう絞っても使い物にはならないだろう。

「あーっ……と。ごめん、太刀根。タオル、使えないかも」
「い、いい。それより護は大丈夫か? 鏡華ちゃんとこ行って、服借りて来いよ」

 なんで保健医が替えの服を持ってるんだとか、お前はなんで倒れたままなんだとか、まぁ色々ツッコみたいとこはあるが、早く着替えたいのも事実。
 俺は太刀根への返事をして、部室を出た。先輩、特に女子先輩がたの視線が熱かったのはこの際無視をした。
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