【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕

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六月

掴み取れ! 勝利をこの手に! その5

 美脚競走。本来それは、三人一組になり、一本の棒を足の間に挟んで、それを落とさないようにゴールを目指す種目だ。
 でも知ってた。このゲームに出てくる様々なことが、俺の常識とはかけ離れていることくらい。

「なんだこの棒は……」

 直径十センチくらい、長さは二メートルほどだろうか。なぜかその棒は、これでもかというくらいヌルヌルしていた。何を塗っているのか知らないが、テカるくらい塗りたくってんじゃねぇよ……。

「護先輩、頑張りましょう!」
「お、おう、そうだな」

 好みの顔で笑ってくる下獄には、邪な気持ちなんて一切ないのがわかる。だからこそ、俺はこの種目を心の底から呪った。

「で? これをどうすんの?」
「先輩かウチ、どちらかがぶら下がってですね、もう一人が棒を肩から担いでゴールを目指すんですよ!」

 想像する。ん、待てよ、それって……。

「それさぁ、“美脚”っていうか“飛脚”だよな?」
「いえ、美脚です! ぶら下がるほうは足も器用に使わないと落ちちゃいますから!」

 頭の中に、丸焼きにされる豚が再生された。なんだろう。色々突っ込みたいが、言ったら負けな気がする。

「俺担ぐほうにするわ」
「わかりました! こっちはお任せください!」

 意気込む下獄。俺は棒を肩に乗せ下獄がぶら下がるのを待った。やけにヌルヌルするが、気にしたら駄目だ。

「じゃ、先輩、よろしくお願いします!」
「おー、お!?」

 右肩に突然襲いかかった重み。なんだ、なんだこれは。幽霊にでも取り憑かれたのか?

「ぐ、ぐぐぐ……」

 痛い。腰が痛い。なんで? なんでなんでなんで? 疑問符ばかりが頭の中をよぎる中、後ろから下獄の「大丈夫ですか……?」と言う不安げな声が聞こえて、俺はハッとした。

「な、なぁ下獄。お前、体重何キロ?」
「え? えぇとえぇと、確か百キロだったかと」
「ひゃく!?」

 理解した。こいつは、下獄は、見た目が変わっただけで、その中身は何ひとつとして変わってなんかいない。例え見た目が、俺好みの、パッチリ二重の低身長になっていたとしても。声も少し高めの萌え声になっていたとしても!
 何ひとつ! 中身は変わっていないんだ!

「はぁい、みんなぁ。用意はいいかしらぁ? 位置についてぇ、よぉーい」
「ちょ、ちょっと待って、先生。持てない……!」
「スタート♪」

 パァン! とスタートの合図が鳴るが、如何せん重すぎて上がりやしない。かといって引きずることも出来ない(そもそも引きずるのはルール違反だ)。

「ううう、おおおおお……!」

 なんとかして上げようとするも、あかん、これ腰が逝ってまう! いや肩が先か!?

「護! 何やってんだよ! 上がってねぇぞ!」

 わかっとるわ、そんなこと! 持ってみやがれ!

「全く、太刀根攻。貴様はだから駄目なのだ。力量も測れず、ただただ相手に押し付けてばかり。いつか大切なものまで失うぞ?」
「おわっ、なんで会長あんたが二年の席にいるんだよ! てかここの席は護の場所だろ!?」
「可笑しなことを言う。だから座っているのだろう?」

 なんなのあいつら。
 だが二人に何か言おうにも、てか種目を終えようにも、兎にも角にも持ち上がらん。くぐもった声を出し続ける俺の背中に、下獄が「先輩……」と呟くのが聞こえた。

「安、心しろ、下獄。重くなんか、ねぇからよ……!」

 もう意地だ。俺の、男としての。けれども他の色に離されていく現実は変えられず。やっぱり俺じゃ駄目なのかと、膝をつきかけた時だ。

「先輩」
「へ?」

 下獄は身軽な動きで地面に降りると、痛みで腰の立たなくなっている俺をお姫様抱っこし、そのままゴールへ向かって走り出したのだ。

「お、おい、下獄!」
「大丈夫です、護先輩。ウチが先輩を必ず送り届けますから!」
「いや待って! せめて運び方考えてくれ!」
「任せてください!」
「全然任せられないって! やめろ! やめてくれぇええ!」

 女子からの声援が聞こえる。でもなんか、応援というより、別の何かに対しての声援な気がする。
 死んだ魚のような目になった俺は、見事下獄の腕の中でゴールテープを切った。なんだろう、この虚しさは。一番のはずなのに。

「はぁい、御竿ちゃん、下獄ちゃん。ゴールおめでとぉ♪」
「あ、はい……」

 逞しく仁王立ちする下獄の中で、俺はなるべく目立たないように、背中を丸めて小さくなっていた。

「でも残念だけど、失格よ♪ 棒を忘れてきちゃ駄目じゃない」
「棒?」

 言われてスタート地点を振り返れば。
 太陽光に照らされテカテカと光る棒が、悲しげに転がっていた――
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