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七月
夏だ! 海だ! 無人島だ!? その18
爺さんが「ごゆっくり」と言い残して出ていってから、俺は爺さんの言っていたことを考えていた。
物語は、変えられる。そんなことを考えベッドに横になっていたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
しかし俺は後悔する。爺さんが出ていった後、鍵をかけ忘れたことに。
「んっ……、はっ、おっきぃ……」
虚ろな意識の中、耳に響いてくる声と、なんとも形容し難い水音がやけに耳障りで、俺は苛つきながらそっと目を開けた。
「ほらほら、終センパイ。しっかりお口を開けないと火傷するっすよ」
「やっ、熱い! 太刀根攻、ボクにこんなことしてっ、いいと、思ってるの……!?」
「いつも会長にはしてやられてるからな。お返しだっつの」
会話がとても不愉快だ。案の定、はっきりしてきた視界の中に、太刀根とセンパイの姿が見えて、俺は横になったままで大きくため息をついた。
それにしても、なんかいい匂いがすんな。この匂いは、すき焼き……?
「ちょっと太刀根くん、終先輩。そんなにお肉ばっかり取らないでくれるかな。御竿くんの分を考えたらどうだい?」
「ボクは悪くない! 太刀根攻に言ってよ!」
「俺は尊敬するセンパイに肉を取ってやってるだけだっつの!」
騒がしい二人(猫汰も入れて三人)は、グツグツと煮える鍋を囲んで、これまた美味そうな肉やら野菜やらを食べている。つか、人の部屋ですき焼きすんなよとか、なんで夏にすき焼きなんだよとか、言い出したらキリがない。
「せ、先輩がた、護先輩が起きちゃいますよ」
下獄が言うのが聞こえるが、如何せん寝たままを貫く俺からはその姿が見えない。身体を起こせばいいのだろうが、この中で起き上がる勇気なんてどこにもない。
「観手ちゃん、お野菜いっぱい食べましょ♪ 採れたてでとっても美味しいわよ!」
「白菜美味しいですね~。お肉も最高級ですし」
蕩けそうな声で肉を絶賛する観手。え、そんなに美味いなら俺も食べたい。いや駄目だ、巻き込まれるわけにはいかん。俺は開いていた目をそっと閉じた。
「待たせたな、愚民。肉の追加を持ってきてやったぞ? A5ランクの最高級肉と、それから採れたての魚を刺し身にしてきた」
「刺し身にしたのは俺様だけどな」
どうやらこれで勢揃いしてしまったわけだ。尚のこと起きるわけには……。
「ん? 護くんはまだ寝ているのか。ならば彼の分はこのオレが取っておこう」
「会長に任せるわけねぇだろ! それは俺がやる!」
起こすという選択肢はないのか? うっすらと目を開けて見てみれば、二人でお椀の奪い合い、いや太刀根が会長の持つお椀を奪おうとしていた。
「じゃ、ウチはご飯を盛りますね」
「ちょっと! ねぇ、ボクのが先でしょ!?」
「護先輩のが先です!」
「はぁ!? ボクが先輩で、年上なの! わかる!?」
「好きな先輩と嫌いな他人、どっちを優先するか、普通わかりますよね?」
「今ボクのこと嫌いって言った……!? 年下のくせに生意気!」
俺からすれば、どちらも同じレベルの言い合いでしかない。
「はぁ……。お前らさ、少しは静かに出来ない?」
仕方なく身体を起こして、頭をボリボリと掻きながら立ち上がる。下獄の「護先輩!」と嬉しそうな声と笑顔に、センパイが「生意気!」と悪態をついた。
「やぁ、おはよう。起きたようで何よりだよ」
猫汰がお椀と箸を持って、俺に笑いかけてきた。
「生卵、好きだったよね。タレは甘口で作っておいたよ」
「あ、あぁ……」
俺は猫汰に自分の好みを教えた覚えはない。その事実に多少恐怖しながらも、とりあえず俺は水の張ってある洗面器で顔を洗ってから、差し出されたお椀を受け取った。なんで中世よろしく洗面器があるのかはわからん。
「起きてしまったか、護くん」
「え、えぇ。つかなんで俺の部屋ですき焼き?」
「本当は皆さんでバーベキューしようって言っていたのですが、護先輩が寝ていたので、急遽お部屋ですき焼きになったんです!」
じゃ、なんで起こさなかったんだよ。起こせよ。
「壱の気遣いに感謝しなよね。別にボクはコレが食べたかったわけじゃないんだから」
「終」
「なぁに? 壱」
「少し口が悪いようだな」
「ぎゃっ」
首に手刀を食らい、センパイはあえなく撃沈した。簡単に人を気絶させる会長、やっぱ怖い。
「あまり深く考えず食べるといい。夏というのは、皆で集まって肉を食べる行事をするのだろう? 野菜も必要だと聞いたからな。遠慮はするな」
合っているようで合っていないのだが、それはそれとして、肉も野菜も刺し身も美味かった。終始肉を食べるすき焼きパーティは、いや波乱万丈の無人島生活は、こうして幕を閉じた。
だが忘れてはならない。夏休みは、まだ八月があるということを。
物語は、変えられる。そんなことを考えベッドに横になっていたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
しかし俺は後悔する。爺さんが出ていった後、鍵をかけ忘れたことに。
「んっ……、はっ、おっきぃ……」
虚ろな意識の中、耳に響いてくる声と、なんとも形容し難い水音がやけに耳障りで、俺は苛つきながらそっと目を開けた。
「ほらほら、終センパイ。しっかりお口を開けないと火傷するっすよ」
「やっ、熱い! 太刀根攻、ボクにこんなことしてっ、いいと、思ってるの……!?」
「いつも会長にはしてやられてるからな。お返しだっつの」
会話がとても不愉快だ。案の定、はっきりしてきた視界の中に、太刀根とセンパイの姿が見えて、俺は横になったままで大きくため息をついた。
それにしても、なんかいい匂いがすんな。この匂いは、すき焼き……?
「ちょっと太刀根くん、終先輩。そんなにお肉ばっかり取らないでくれるかな。御竿くんの分を考えたらどうだい?」
「ボクは悪くない! 太刀根攻に言ってよ!」
「俺は尊敬するセンパイに肉を取ってやってるだけだっつの!」
騒がしい二人(猫汰も入れて三人)は、グツグツと煮える鍋を囲んで、これまた美味そうな肉やら野菜やらを食べている。つか、人の部屋ですき焼きすんなよとか、なんで夏にすき焼きなんだよとか、言い出したらキリがない。
「せ、先輩がた、護先輩が起きちゃいますよ」
下獄が言うのが聞こえるが、如何せん寝たままを貫く俺からはその姿が見えない。身体を起こせばいいのだろうが、この中で起き上がる勇気なんてどこにもない。
「観手ちゃん、お野菜いっぱい食べましょ♪ 採れたてでとっても美味しいわよ!」
「白菜美味しいですね~。お肉も最高級ですし」
蕩けそうな声で肉を絶賛する観手。え、そんなに美味いなら俺も食べたい。いや駄目だ、巻き込まれるわけにはいかん。俺は開いていた目をそっと閉じた。
「待たせたな、愚民。肉の追加を持ってきてやったぞ? A5ランクの最高級肉と、それから採れたての魚を刺し身にしてきた」
「刺し身にしたのは俺様だけどな」
どうやらこれで勢揃いしてしまったわけだ。尚のこと起きるわけには……。
「ん? 護くんはまだ寝ているのか。ならば彼の分はこのオレが取っておこう」
「会長に任せるわけねぇだろ! それは俺がやる!」
起こすという選択肢はないのか? うっすらと目を開けて見てみれば、二人でお椀の奪い合い、いや太刀根が会長の持つお椀を奪おうとしていた。
「じゃ、ウチはご飯を盛りますね」
「ちょっと! ねぇ、ボクのが先でしょ!?」
「護先輩のが先です!」
「はぁ!? ボクが先輩で、年上なの! わかる!?」
「好きな先輩と嫌いな他人、どっちを優先するか、普通わかりますよね?」
「今ボクのこと嫌いって言った……!? 年下のくせに生意気!」
俺からすれば、どちらも同じレベルの言い合いでしかない。
「はぁ……。お前らさ、少しは静かに出来ない?」
仕方なく身体を起こして、頭をボリボリと掻きながら立ち上がる。下獄の「護先輩!」と嬉しそうな声と笑顔に、センパイが「生意気!」と悪態をついた。
「やぁ、おはよう。起きたようで何よりだよ」
猫汰がお椀と箸を持って、俺に笑いかけてきた。
「生卵、好きだったよね。タレは甘口で作っておいたよ」
「あ、あぁ……」
俺は猫汰に自分の好みを教えた覚えはない。その事実に多少恐怖しながらも、とりあえず俺は水の張ってある洗面器で顔を洗ってから、差し出されたお椀を受け取った。なんで中世よろしく洗面器があるのかはわからん。
「起きてしまったか、護くん」
「え、えぇ。つかなんで俺の部屋ですき焼き?」
「本当は皆さんでバーベキューしようって言っていたのですが、護先輩が寝ていたので、急遽お部屋ですき焼きになったんです!」
じゃ、なんで起こさなかったんだよ。起こせよ。
「壱の気遣いに感謝しなよね。別にボクはコレが食べたかったわけじゃないんだから」
「終」
「なぁに? 壱」
「少し口が悪いようだな」
「ぎゃっ」
首に手刀を食らい、センパイはあえなく撃沈した。簡単に人を気絶させる会長、やっぱ怖い。
「あまり深く考えず食べるといい。夏というのは、皆で集まって肉を食べる行事をするのだろう? 野菜も必要だと聞いたからな。遠慮はするな」
合っているようで合っていないのだが、それはそれとして、肉も野菜も刺し身も美味かった。終始肉を食べるすき焼きパーティは、いや波乱万丈の無人島生活は、こうして幕を閉じた。
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