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八月
恐怖体験、コミックマーケット! その9
「はーっはっはっは! 待て、そこのゴミクズどもよ!」
「ちょ、ちょっと会長、チリトリコッタちゃんはそんなこと言わないっすよ……」
敵役の演者に対し、会長は、自身が演じるキャラが断じて言わない台詞を吐き捨てた。それを慌てて小声で止めるが、会長の高笑いを見るに、全く聞こえていないようだ。
会長の衣装は、黄緑を主にした和装のキャラクター、チリトリコッタのものだ。舞子さんが履く高い下駄を難なく履きこなし、それで身軽に動いて回る。帯に差したチーズケーキの簪が、会長に合わせて可憐に揺れた。
「僕と御竿くん、いやモップリンとの愛瀬を邪魔するなんて。本当に邪魔だな、燃やすか」
「だから猫汰、ホウキナコちゃんもそんなん言わないってば……」
手にした火炎放射器(小道具)を弄りながら、猫汰、いやホウキナコがため息をついた。白を主張したような衣装は、清廉潔白な彼女をとてもよく表している。それなのに腹を出して、ショートパンツを履いているというアンバランスさも。
「キラキュアがんがれー!」
客席から聞こえた小さな声援が、そうだ小さいお友達も来ているのだと改めて実感させる。だから期待を裏切らないように、夢を壊さないようにしたいのに。なのに。
「我が屹立家の前では、貴様らなどただのモブ! 相手にすらならんわ!」
そう言って会長は、意気揚々とチリトリコッタの武器であるチリトリを掲げた。それに肩をがっくりと落としながら、俺は更衣室でのやり取りを思い返していた。
なぜか太刀根の名前を叫びながら入ってきた会長は、最初に観手、次に猫汰、最後に俺を見て「素晴らしい」と顎に手をやり感嘆の声を漏らした。
「いや、見んなよ変態。つか会長、なんで……」
「あぁすまない。つい護くんの姿が嗜虐的過ぎてな、魅入ってしまった。このオレを煽り立てるとは、流石護くんだ」
演技がかった仕草で両手を広げ、それから額を押さえて「参ったな」と息をつく。いや、こっちのが参ってますわ。
猫汰がオレを庇うようにずいと前に出て、会長からの視線を遮ってくれた。そこに下心があるのかもしれないが、今の俺には有り難い。
「用件をどうぞ。用がないなら速やかにお帰りください」
言葉の節々が刺々しい。だけど会長は全く気にしていないのか「うむ」と用意された机に荷物を置きながら、
「何、太刀根攻から“決闘がしたいから指定した場所に来い”とあってな。来る気はそもそもとしてなかったのだが、真実はここにありを買い求めるついでに、というわけだ」
と部屋の隅にあるハンガーラックから衣装を手に取った。和装を主にした、チリトリコッタというキャラの衣装だ。
観手が「それなんですけど~」とポケットからスマフォを取り出す。画面をタップし、出てきた文字を視線が追いかけていくのがわかる。
「なんか太刀根さん、課題をやるからってドタキャンの連絡が来たんですよ~。私との約束が先だったのに。太刀根さんが今更課題なんて珍しいですよね。ね? 御竿さん」
「そ、そう、だな……」
朝、太刀根に課題を頼んだことを思い出す。
待てよ? つまり、俺が課題を頼まなければ? ここには太刀根がいて会長がいて……、いやそもそも、俺が家から出ることもなかったはずでは?
くそっ、一体どこでルートを間違えたんだ。
泣きそうになるのを必死で堪えながら、俺は会長が手にした衣装を指差した。指先が微かに震えた。
「それで、会長もショーに出るんすか……?」
声も震えた。
「うむ。太刀根攻ならばこの衣装を用いて遊んでやるつもりだったが、護くん、キミならば話は別だ。一緒に悪を消そうではないか!」
「いや。あの。キラキュアそういう話じゃないんで」
「ちょっと待ちなよ。観手さん、衣装はまだあるかい? 僕もショーに出るよ。御竿くんの周囲の汚物を全て取り除くのは僕の役目だからね」
「だから一息で言うのやめろって」
あぁもう、収集がつかなくなってきた! 極めつけは観手の、
「では猫汰さんにはホウキナコをお願いしましょう」
と言った後ろで、モブらしき奴が「え、自分役なしっすか……」と肩を落としていたのが、気の毒だった。
「ちょ、ちょっと会長、チリトリコッタちゃんはそんなこと言わないっすよ……」
敵役の演者に対し、会長は、自身が演じるキャラが断じて言わない台詞を吐き捨てた。それを慌てて小声で止めるが、会長の高笑いを見るに、全く聞こえていないようだ。
会長の衣装は、黄緑を主にした和装のキャラクター、チリトリコッタのものだ。舞子さんが履く高い下駄を難なく履きこなし、それで身軽に動いて回る。帯に差したチーズケーキの簪が、会長に合わせて可憐に揺れた。
「僕と御竿くん、いやモップリンとの愛瀬を邪魔するなんて。本当に邪魔だな、燃やすか」
「だから猫汰、ホウキナコちゃんもそんなん言わないってば……」
手にした火炎放射器(小道具)を弄りながら、猫汰、いやホウキナコがため息をついた。白を主張したような衣装は、清廉潔白な彼女をとてもよく表している。それなのに腹を出して、ショートパンツを履いているというアンバランスさも。
「キラキュアがんがれー!」
客席から聞こえた小さな声援が、そうだ小さいお友達も来ているのだと改めて実感させる。だから期待を裏切らないように、夢を壊さないようにしたいのに。なのに。
「我が屹立家の前では、貴様らなどただのモブ! 相手にすらならんわ!」
そう言って会長は、意気揚々とチリトリコッタの武器であるチリトリを掲げた。それに肩をがっくりと落としながら、俺は更衣室でのやり取りを思い返していた。
なぜか太刀根の名前を叫びながら入ってきた会長は、最初に観手、次に猫汰、最後に俺を見て「素晴らしい」と顎に手をやり感嘆の声を漏らした。
「いや、見んなよ変態。つか会長、なんで……」
「あぁすまない。つい護くんの姿が嗜虐的過ぎてな、魅入ってしまった。このオレを煽り立てるとは、流石護くんだ」
演技がかった仕草で両手を広げ、それから額を押さえて「参ったな」と息をつく。いや、こっちのが参ってますわ。
猫汰がオレを庇うようにずいと前に出て、会長からの視線を遮ってくれた。そこに下心があるのかもしれないが、今の俺には有り難い。
「用件をどうぞ。用がないなら速やかにお帰りください」
言葉の節々が刺々しい。だけど会長は全く気にしていないのか「うむ」と用意された机に荷物を置きながら、
「何、太刀根攻から“決闘がしたいから指定した場所に来い”とあってな。来る気はそもそもとしてなかったのだが、真実はここにありを買い求めるついでに、というわけだ」
と部屋の隅にあるハンガーラックから衣装を手に取った。和装を主にした、チリトリコッタというキャラの衣装だ。
観手が「それなんですけど~」とポケットからスマフォを取り出す。画面をタップし、出てきた文字を視線が追いかけていくのがわかる。
「なんか太刀根さん、課題をやるからってドタキャンの連絡が来たんですよ~。私との約束が先だったのに。太刀根さんが今更課題なんて珍しいですよね。ね? 御竿さん」
「そ、そう、だな……」
朝、太刀根に課題を頼んだことを思い出す。
待てよ? つまり、俺が課題を頼まなければ? ここには太刀根がいて会長がいて……、いやそもそも、俺が家から出ることもなかったはずでは?
くそっ、一体どこでルートを間違えたんだ。
泣きそうになるのを必死で堪えながら、俺は会長が手にした衣装を指差した。指先が微かに震えた。
「それで、会長もショーに出るんすか……?」
声も震えた。
「うむ。太刀根攻ならばこの衣装を用いて遊んでやるつもりだったが、護くん、キミならば話は別だ。一緒に悪を消そうではないか!」
「いや。あの。キラキュアそういう話じゃないんで」
「ちょっと待ちなよ。観手さん、衣装はまだあるかい? 僕もショーに出るよ。御竿くんの周囲の汚物を全て取り除くのは僕の役目だからね」
「だから一息で言うのやめろって」
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