71 / 190
九月
大改造! 屹立パワーで大☆学祭! その1
しおりを挟む
気づけば夏休みは終わっていた。久しぶりの制服に袖を通してから、これまた久しぶりの鞄を背中に担ぐ。宿題は太刀根がやってくれたし、忘れ物も特にないはずだ。
「護、お弁当は?」
「あ」
母さんから弁当箱の入った袋を渡される。俺は苦笑いしながら「ありがと、いってきます」と家を出た。
徒歩通の俺を、チャリ通の生徒たちが何人か追い抜いていく。たまになぜか走っている生徒もいたが、なんか朝練にでも遅刻したんだろう。
そう考えながらのんびりと歩いていると、
「御竿さ~ん!」
「……」
聞こえないフリだ。いや、むしろ走るか。
早足になった俺の後ろから「御竿さんてば~」と聞こえるが、絶対に立ち止まらないし、振り返らないからな。
「えい」
「ぐはっ」
背負っていた鞄を引っ張られ、俺は一瞬息が詰まった。
「やっと止まってくれました~。ね、御竿さん」
「ゲホッゲホッ。お前がっ、引っ張ったから、だろ!」
なんとか息を整えながら抗議すれば、引っ張った張本人、観手は「そうでしたね~」とわざとらしく小首を傾げてみせた。観手の手を強引に解いてから立ち止まってやる。もう腹は括った。
「で。何」
「わぁ、言い方が冷たいですね。私の塩梅次第で、ルート変わっちゃうかもしれないんですよ?」
「すみませんでした観手様女神様クソ野郎」
「最後に何か聞こえましたが、まぁいいです。そ、れ、で」
観手は足取り軽く俺の前へと回ると、ずいと俺の顔を覗き込んできた。その近さに、つい視線を反らした。
「夏休み、楽しかったですね!」
「いや全然。つか、夏休みといえば、花火とか祭りとか普通あるんじゃねぇの?」
「ありますよ? でも今回は無人島イベとコミケイベ来ちゃいましたからね。残念ですが、二週目のお楽しみです!」
「やらねぇよ!?」
そりゃゲームだ。二周目だってあるだろうよ。スチル制覇とか、特殊イベ網羅とか、そりゃどれだけでもやることはあるだろう。
でも俺はクリアしたら終わりたい。そんなものに興味なんてない。
「ま、それはそれとしてですね。九月といえば?」
「九月といえば……、始業式?」
俺の答えがよほどつまらなかったのだろう。観手は眉間にシワを寄せ、深い深いため息をついてから「学祭ですよ、学祭!」と呆れたように言い放った。
「いや、学祭って。まだ九月だぞ?」
「もう九月ですよ。そして御竿さん、貴方は生徒会役員です!」
「あぁ、そういえば……つか近い」
俺自身もすっかり忘れていたが、そうだ、俺は生徒会役員だった。いや、だから会長と絡むわけで。
とりあえず、未だ近いままの観手を押し返してから、俺は「それがどした」と歩き出した。早く行かないと遅刻しそうだ。
「学祭、生徒会が運営委員なんですよ」
「そんなん初めて知ったぞ」
「聞かれてませんし」
「……」
もう無視だ無視。隣に並んだ観手がなんか言っているが、なんか聞いちゃいけない単語を連呼している。
だけど、運営委員ねぇ。俺以外の生徒会役員、結局知らないままだしな。たぶんモブだし、名前すらないだろうけど。立ち絵があるかどうかすら怪しい。
「も~、御竿さん。聞いてますか~!」
「聞いてない」
「だから、学祭が終わるまでの間、放課後は生徒会室に集合ですからね!」
「へー……はぁ!?」
俺の声に負けじと、遠くから予鈴の音が鳴り響いた。
「護、お弁当は?」
「あ」
母さんから弁当箱の入った袋を渡される。俺は苦笑いしながら「ありがと、いってきます」と家を出た。
徒歩通の俺を、チャリ通の生徒たちが何人か追い抜いていく。たまになぜか走っている生徒もいたが、なんか朝練にでも遅刻したんだろう。
そう考えながらのんびりと歩いていると、
「御竿さ~ん!」
「……」
聞こえないフリだ。いや、むしろ走るか。
早足になった俺の後ろから「御竿さんてば~」と聞こえるが、絶対に立ち止まらないし、振り返らないからな。
「えい」
「ぐはっ」
背負っていた鞄を引っ張られ、俺は一瞬息が詰まった。
「やっと止まってくれました~。ね、御竿さん」
「ゲホッゲホッ。お前がっ、引っ張ったから、だろ!」
なんとか息を整えながら抗議すれば、引っ張った張本人、観手は「そうでしたね~」とわざとらしく小首を傾げてみせた。観手の手を強引に解いてから立ち止まってやる。もう腹は括った。
「で。何」
「わぁ、言い方が冷たいですね。私の塩梅次第で、ルート変わっちゃうかもしれないんですよ?」
「すみませんでした観手様女神様クソ野郎」
「最後に何か聞こえましたが、まぁいいです。そ、れ、で」
観手は足取り軽く俺の前へと回ると、ずいと俺の顔を覗き込んできた。その近さに、つい視線を反らした。
「夏休み、楽しかったですね!」
「いや全然。つか、夏休みといえば、花火とか祭りとか普通あるんじゃねぇの?」
「ありますよ? でも今回は無人島イベとコミケイベ来ちゃいましたからね。残念ですが、二週目のお楽しみです!」
「やらねぇよ!?」
そりゃゲームだ。二周目だってあるだろうよ。スチル制覇とか、特殊イベ網羅とか、そりゃどれだけでもやることはあるだろう。
でも俺はクリアしたら終わりたい。そんなものに興味なんてない。
「ま、それはそれとしてですね。九月といえば?」
「九月といえば……、始業式?」
俺の答えがよほどつまらなかったのだろう。観手は眉間にシワを寄せ、深い深いため息をついてから「学祭ですよ、学祭!」と呆れたように言い放った。
「いや、学祭って。まだ九月だぞ?」
「もう九月ですよ。そして御竿さん、貴方は生徒会役員です!」
「あぁ、そういえば……つか近い」
俺自身もすっかり忘れていたが、そうだ、俺は生徒会役員だった。いや、だから会長と絡むわけで。
とりあえず、未だ近いままの観手を押し返してから、俺は「それがどした」と歩き出した。早く行かないと遅刻しそうだ。
「学祭、生徒会が運営委員なんですよ」
「そんなん初めて知ったぞ」
「聞かれてませんし」
「……」
もう無視だ無視。隣に並んだ観手がなんか言っているが、なんか聞いちゃいけない単語を連呼している。
だけど、運営委員ねぇ。俺以外の生徒会役員、結局知らないままだしな。たぶんモブだし、名前すらないだろうけど。立ち絵があるかどうかすら怪しい。
「も~、御竿さん。聞いてますか~!」
「聞いてない」
「だから、学祭が終わるまでの間、放課後は生徒会室に集合ですからね!」
「へー……はぁ!?」
俺の声に負けじと、遠くから予鈴の音が鳴り響いた。
1
あなたにおすすめの小説
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる