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九月
ガラスの靴は誰のもの? その3
“そうして屋敷に取り残されたメンヘレラ。可哀相なメンヘレラの元へ現れたのは、一人の魔女とひとつの靴でした”
「メンヘレラ~。私が来ましたよぉ」
そう言って、観手は手に持ったリンゴ飴をくるりと回した。本人は魔法のステッキのつもりだが、魔女ならホウキか杖ではないかと俺は思う。
メンヘレラは不審者を見るような目を観手に向けてから、ふぅと小さく息を吐いた。
「不審者がなんの用? もしかしてボク目当てで」
「ある意味目当てではありますが、私は別に終さん推しではないんですよね~。それよりメンヘレラ、こちらの靴はいかがですか?」
さらっときつい言葉を言ってから、観手扮する魔女は、少し後ろにいた俺を両手で示した。そんな俺が首から下げた札には、ご丁寧に“魔法の靴”と書かれている。
「……アンタ、魔女、だっけ? 目でもおかしくなったんじゃないの。それ、御竿護じゃない」
「何を言っているんですか、メンヘレラ。この靴は、履いた者の身体能力を三倍にし、更にどんなことをしても壊れない優れものなんですよ! この靴を手に入れようと、争いが起こるくらい凄いんです!」
「おい。いつから俺は人間離れ、いや靴離れした能力を持つようになったんだ?」
靴役はいい、むしろ変な女装をさせられるより全然マシだ。だがただの靴に、一体どんな設定を盛り込むつもりなんだ。
だが否定する俺とは反対に、観手は「嘘は言ってないです」と言い切り、びしりとステッキの先を俺に突きつけてきやがった。
「実際、御竿さんを巡って争いは起きてますし、手にした彼らは通常の三倍の力を出しています。自覚なかったんですか?」
「俺に変なルビを打つな」
「メタ発言はやめてください。まぁ、なんにしろ」
魔女が再び俺に背を向けた。そして今度はメンヘレラにステッキの先を突きつける。
「さ、どうですか? 欲しくありませんか? 手にすれば、メンヘレラ、貴方は力を得ることが出来るのですよ」
「力を……ボクが……?」
あれ? これこういう話だったっけ。
「でもボクは、大勢の前に出るなんて……」
「心配には及びません。私は魔女ですよ? 少しの間、貴方に施された“呪い”を緩和するぐらい容易いですよ。今だってほら、なんともないでしょ?」
この魔女、胡散臭いところが多々あるが、メンヘレラは自身の置かれた状況を冷静に見直し、それから「本当だ」と信じられないものを見るような目を魔女に向けた。
「わかって頂けたなら光栄です。では改めて、どうしますか? 力を手にしたいですか?」
「……」
メンヘレラが意を決したように、魔女へと手を伸ばした。その指先が触れるか触れないか、その時だった。二人の間に、ガラスの破片が飛んできたのだ。
指先を切ってしまったメンヘレラが、忌々しいとばかりに破片が飛んできた方角を睨みつける。その先に立っていたのは、指の隙間全てに破片を挟み込んでいる猫汰だった。
「その靴、僕が頂く」
「あ、アンタは猫汰巧巳!」
「違う、姉様だよ」
猫汰は律儀に設定を守り、自身の呼び方を訂正させた。だが悲しいかな、二人の空気はとても冷え切っていて、正に一触即発である。
「ま、ままま待ってください! ウチだって護先輩が欲しいです! お二人には渡しません!」
やはり下獄も混ざり収集がつかなくなってきた。俺は呆れて物も言えず、口を半開きのまま眺めていると、
「よし、ゲットよ♪」
「悪いな、御竿」
「むぐっ」
俺の口を後ろから塞いできたのは鏡華ちゃんだった。空いている片手で、俺の両手を後ろに回し、身動き出来ないようにがっちり掴んでいる。
「むぐっ、むぐぐー」
「先生? いや、まさか王子の手先ですか?」
争っていた三人が動きを止め、身動きの取れない俺を、いや俺を拘束している鏡華ちゃんと牧地に鋭い視線を投げる。
「ふふっ、せーかいよ♪ 舞闘会を開けば、必ず現れると読んでいたわ。これで王子サマに喜んで頂けるわぁ♪」
「ま、待ってください! 連れていかせません!」
「御竿くん!」
猫汰と下獄が一歩目を出したところに、
「やらせないわよ♪」
と牧地が懐から出したスイッチを押した。途端に三人の足元だけ床が割れ、三人は各々何かを叫びながら奈落へと落ちていった。
「むぐ、ぐぐぐー!」
「さぁて、ゆっくりお城に向かいましょうか♪ そう、ゆっくりと、ね」
なんだ、なんだなんだ? 俺の知ってる展開じゃなくなってきたぞ。どうなるんだよ、俺!
“こうして魔法の靴は、王子の待つ、ガラスの城へと連れて行かれてしまったのでした――”
「メンヘレラ~。私が来ましたよぉ」
そう言って、観手は手に持ったリンゴ飴をくるりと回した。本人は魔法のステッキのつもりだが、魔女ならホウキか杖ではないかと俺は思う。
メンヘレラは不審者を見るような目を観手に向けてから、ふぅと小さく息を吐いた。
「不審者がなんの用? もしかしてボク目当てで」
「ある意味目当てではありますが、私は別に終さん推しではないんですよね~。それよりメンヘレラ、こちらの靴はいかがですか?」
さらっときつい言葉を言ってから、観手扮する魔女は、少し後ろにいた俺を両手で示した。そんな俺が首から下げた札には、ご丁寧に“魔法の靴”と書かれている。
「……アンタ、魔女、だっけ? 目でもおかしくなったんじゃないの。それ、御竿護じゃない」
「何を言っているんですか、メンヘレラ。この靴は、履いた者の身体能力を三倍にし、更にどんなことをしても壊れない優れものなんですよ! この靴を手に入れようと、争いが起こるくらい凄いんです!」
「おい。いつから俺は人間離れ、いや靴離れした能力を持つようになったんだ?」
靴役はいい、むしろ変な女装をさせられるより全然マシだ。だがただの靴に、一体どんな設定を盛り込むつもりなんだ。
だが否定する俺とは反対に、観手は「嘘は言ってないです」と言い切り、びしりとステッキの先を俺に突きつけてきやがった。
「実際、御竿さんを巡って争いは起きてますし、手にした彼らは通常の三倍の力を出しています。自覚なかったんですか?」
「俺に変なルビを打つな」
「メタ発言はやめてください。まぁ、なんにしろ」
魔女が再び俺に背を向けた。そして今度はメンヘレラにステッキの先を突きつける。
「さ、どうですか? 欲しくありませんか? 手にすれば、メンヘレラ、貴方は力を得ることが出来るのですよ」
「力を……ボクが……?」
あれ? これこういう話だったっけ。
「でもボクは、大勢の前に出るなんて……」
「心配には及びません。私は魔女ですよ? 少しの間、貴方に施された“呪い”を緩和するぐらい容易いですよ。今だってほら、なんともないでしょ?」
この魔女、胡散臭いところが多々あるが、メンヘレラは自身の置かれた状況を冷静に見直し、それから「本当だ」と信じられないものを見るような目を魔女に向けた。
「わかって頂けたなら光栄です。では改めて、どうしますか? 力を手にしたいですか?」
「……」
メンヘレラが意を決したように、魔女へと手を伸ばした。その指先が触れるか触れないか、その時だった。二人の間に、ガラスの破片が飛んできたのだ。
指先を切ってしまったメンヘレラが、忌々しいとばかりに破片が飛んできた方角を睨みつける。その先に立っていたのは、指の隙間全てに破片を挟み込んでいる猫汰だった。
「その靴、僕が頂く」
「あ、アンタは猫汰巧巳!」
「違う、姉様だよ」
猫汰は律儀に設定を守り、自身の呼び方を訂正させた。だが悲しいかな、二人の空気はとても冷え切っていて、正に一触即発である。
「ま、ままま待ってください! ウチだって護先輩が欲しいです! お二人には渡しません!」
やはり下獄も混ざり収集がつかなくなってきた。俺は呆れて物も言えず、口を半開きのまま眺めていると、
「よし、ゲットよ♪」
「悪いな、御竿」
「むぐっ」
俺の口を後ろから塞いできたのは鏡華ちゃんだった。空いている片手で、俺の両手を後ろに回し、身動き出来ないようにがっちり掴んでいる。
「むぐっ、むぐぐー」
「先生? いや、まさか王子の手先ですか?」
争っていた三人が動きを止め、身動きの取れない俺を、いや俺を拘束している鏡華ちゃんと牧地に鋭い視線を投げる。
「ふふっ、せーかいよ♪ 舞闘会を開けば、必ず現れると読んでいたわ。これで王子サマに喜んで頂けるわぁ♪」
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と牧地が懐から出したスイッチを押した。途端に三人の足元だけ床が割れ、三人は各々何かを叫びながら奈落へと落ちていった。
「むぐ、ぐぐぐー!」
「さぁて、ゆっくりお城に向かいましょうか♪ そう、ゆっくりと、ね」
なんだ、なんだなんだ? 俺の知ってる展開じゃなくなってきたぞ。どうなるんだよ、俺!
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