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九月
ガラスの靴は誰のもの? その5
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淡く光りながら宙を飛び回るカボチャたち。ジャック・オー・ランタンを模したそれらは、明らかに不気味で、更に言うなれば時期が一ヶ月ほど早い気もする。
だけど観客たちは気にしていないのか、むしろ「きゃー!」だの「提灯ジャック様ー!」だの騒ぎ立てている。
「おい! 変な力を使うのはやめろ! 卑怯だぞ!」
「いや卑怯ってか、なんかもう疲れた……」
このゲームで過ごすこと半年。会長の無茶苦茶ぶりにも慣れたが、これを“変な力”で済ませる太刀根もどうかと思う。
「はっはっは、ではお見せしよう。我が力、混沌の権化を!」
「な、何!?」
会場内に、会長が鳴らしたであろう指パッチンの音が響いた。太刀根がいる階段上から何かが弾け飛ぶ音がし、続いて会場内が一気に明るくなっていく。
急に明るくなったそれに目が追いついた頃、太刀根と会場中から、鼓膜が破れんばかりの悲鳴が聞こえだす。
「わああああ!? てめ、な、ななな何してくれんだ!」
慌てる太刀根を見れば、履いていたカボチャパンツは跡形もなく、必死で股間を押さえているところだった。
「太刀根……」
「ち、ちがっ、護、見るなぁ。見ないでくれぇ!」
「お前そういう役割ばっかだな……」
階段上から落ちてきたのだろう。床にはカボチャの皮が散乱している。
「あれ。皮しかない?」
そうなのだ。カボチャパンツが爆発したのなら、もう少し中身が散らかっててもいいはずだが、どこにも見当たらない。種すらない。
首を傾げていると、暗闇に乗じて移動してきたらしい会長が、椅子に座っている俺の後ろから現れた。
「食べ物を粗末にするわけなかろう」
「うわっ」
「予め中身はくり抜き、カボチャプリンにしておいた。後で配布する予定だ」
「いや、別に、食べたくないっす……」
カボチャプリンは好きだ。普通のプリンよりも。だけど気が進まず、俺はやんわりと断る。すると階段上の太刀根が涙目涙声のまま、
「な、なぁ先生! 先生たちは俺の仲間なんだろ!? そのカボチャ、なんとかしてくれよ!」
と必死に訴えてきた。しかし牧地は「ん?」とどこ吹く風である。
「だってワタシ、馬だもの♪ パカラッ」
「俺様はかかりつけ医だ。無茶を言うな」
あくまで役を貫き通すつもりらしい。
「じゃ、じゃあ護!」
「いやいや、遠慮するわ。靴だし」
「友達だろ!?」
「靴を友達と呼ぶな。淋しい奴め」
第一、カボチャが取れたとはいえ、太刀根は白タイツを履いているのだ。股間丸出しにはなっていないはずなのだが……。
「うぅ、くそ……。やっと、やっと護が手に入ると思ったのに」
「だから俺は靴だっつの」
冷えた声で返すも、役にのめり込んでいるのか、太刀根の耳には全く届いていないようだ。
「こうなりゃ、実力行使しか……!」
太刀根がヤケクソ気味に階段を降りようとして、
「ぐえっ」
腰にワイヤーがついたままなのを忘れていたらしい。自爆して、そのまま意識を手放し宙吊りになってしまった。アホだな。
「さて」
「ひっ」
ぞわりとした何かが背筋を這う。首筋を会長の指がなぞっただけのようだが、悪寒を感じるには十分だ。
「これで靴はオレのものだ。我が手に堕ちる覚悟は出来たか?」
「そもそも最初からそんな気はないのだが!」
「面白い靴だ、オレと話をするなどとは」
「確かに靴だから話せないかもしれんが、それって今さらすぎだろ! 俺は断固拒否するからな!」
助けを乞ようにも、先生たちはただの馬とかかりつけ医だ。アテにならん。
どうする、どうする……!? 靴なら、俺を最後に手にするのは主人公のはずだろ。そうだ、主人公が――
だけど観客たちは気にしていないのか、むしろ「きゃー!」だの「提灯ジャック様ー!」だの騒ぎ立てている。
「おい! 変な力を使うのはやめろ! 卑怯だぞ!」
「いや卑怯ってか、なんかもう疲れた……」
このゲームで過ごすこと半年。会長の無茶苦茶ぶりにも慣れたが、これを“変な力”で済ませる太刀根もどうかと思う。
「はっはっは、ではお見せしよう。我が力、混沌の権化を!」
「な、何!?」
会場内に、会長が鳴らしたであろう指パッチンの音が響いた。太刀根がいる階段上から何かが弾け飛ぶ音がし、続いて会場内が一気に明るくなっていく。
急に明るくなったそれに目が追いついた頃、太刀根と会場中から、鼓膜が破れんばかりの悲鳴が聞こえだす。
「わああああ!? てめ、な、ななな何してくれんだ!」
慌てる太刀根を見れば、履いていたカボチャパンツは跡形もなく、必死で股間を押さえているところだった。
「太刀根……」
「ち、ちがっ、護、見るなぁ。見ないでくれぇ!」
「お前そういう役割ばっかだな……」
階段上から落ちてきたのだろう。床にはカボチャの皮が散乱している。
「あれ。皮しかない?」
そうなのだ。カボチャパンツが爆発したのなら、もう少し中身が散らかっててもいいはずだが、どこにも見当たらない。種すらない。
首を傾げていると、暗闇に乗じて移動してきたらしい会長が、椅子に座っている俺の後ろから現れた。
「食べ物を粗末にするわけなかろう」
「うわっ」
「予め中身はくり抜き、カボチャプリンにしておいた。後で配布する予定だ」
「いや、別に、食べたくないっす……」
カボチャプリンは好きだ。普通のプリンよりも。だけど気が進まず、俺はやんわりと断る。すると階段上の太刀根が涙目涙声のまま、
「な、なぁ先生! 先生たちは俺の仲間なんだろ!? そのカボチャ、なんとかしてくれよ!」
と必死に訴えてきた。しかし牧地は「ん?」とどこ吹く風である。
「だってワタシ、馬だもの♪ パカラッ」
「俺様はかかりつけ医だ。無茶を言うな」
あくまで役を貫き通すつもりらしい。
「じゃ、じゃあ護!」
「いやいや、遠慮するわ。靴だし」
「友達だろ!?」
「靴を友達と呼ぶな。淋しい奴め」
第一、カボチャが取れたとはいえ、太刀根は白タイツを履いているのだ。股間丸出しにはなっていないはずなのだが……。
「うぅ、くそ……。やっと、やっと護が手に入ると思ったのに」
「だから俺は靴だっつの」
冷えた声で返すも、役にのめり込んでいるのか、太刀根の耳には全く届いていないようだ。
「こうなりゃ、実力行使しか……!」
太刀根がヤケクソ気味に階段を降りようとして、
「ぐえっ」
腰にワイヤーがついたままなのを忘れていたらしい。自爆して、そのまま意識を手放し宙吊りになってしまった。アホだな。
「さて」
「ひっ」
ぞわりとした何かが背筋を這う。首筋を会長の指がなぞっただけのようだが、悪寒を感じるには十分だ。
「これで靴はオレのものだ。我が手に堕ちる覚悟は出来たか?」
「そもそも最初からそんな気はないのだが!」
「面白い靴だ、オレと話をするなどとは」
「確かに靴だから話せないかもしれんが、それって今さらすぎだろ! 俺は断固拒否するからな!」
助けを乞ようにも、先生たちはただの馬とかかりつけ医だ。アテにならん。
どうする、どうする……!? 靴なら、俺を最後に手にするのは主人公のはずだろ。そうだ、主人公が――
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