108 / 190
十月
だってお前はそんなんじゃ……! その5
観手はこれからどうなるのかと、目をギラつかせて俺たちを見ている。猫汰は観手に呼ばれた(という名目)太刀根を、これでもかというほどに冷たく見ている。
では太刀根はといえば。
「巧巳もいるのか。なら早く言えよな! 俺、巧巳とまた遊べたらなと思ってたんだよ」
本心からの言葉であろう台詞を言って、太刀根は「流石護だ」と眩しいほどの笑顔を向けてきた。その眩しさに若干「うっ」と目を背けたものの、俺はすぐに、
「は、はは。そりゃ良かった、な」
と顔を引きつらせながら笑った。これ以上ややこしくしてたまるかと、俺は誰にも話を割り込ませないように話し続ける。
「ほ、ほら、とりあえず買い物に行こうぜ。まずはなんだ、あ、観手の買いたいものでも買いに行くか!?」
「私は別に何も」
「え、何? 新発売のゆるマスコット欲しいって? そうだな確か専門店あったもんな!」
俺は「三階だったか?」とギクシャクしながら歩いていく。右手右足と左手左足が同時に出た。そのくらい焦っていたんだ、多目に見てくれ。
多少不思議に思いながらも、三人はついてきてくれたようで、俺たちは三階にあるゆるマスコット、通称ゆるコット売り場へと来た。
「何この、ヤバそうな人形」
ゆるコットとは名ばかりの、見るに耐えない姿形をした人形がずらりと並ぶ棚。その中のひとつを取り、俺は正直な感想を言った。
ちなみに色々あるが、俺が持っているのは一番マシな部類で、恐らくはクマであろう人形に、豚の鼻と天使の羽根みたいなものがついている。口から見える牙には、赤い塗装が塗られていた。
「護、知らないのか? それはブラッドハウンドってんだ」
「どこに犬要素があんだ」
さっきも言ったが、クマに見えるのだ。いや、クマに見えるが一番近い。しかし犬ではない、絶対に。
隣の観手が「それはですね」と違うブラッドハウンドを手にして、その丸っこい耳をちょこんと触った。
「この子の設定ですよ。この子を拾った飼い主、あぁ飼い主は小さい女の子なんですけど、その子は犬をお話の中でしか知らないのです。モフモフしているこの子を見て、犬だと信じ切った飼い主のために、ブラッドハウンドは自身を“犬”として過ごしているんですよ」
「じゃなんでこんなに赤いの」
“犬”であるなら口元が赤い理由がないはずだ。それに答えてくれたのは猫汰だ。猫汰もまた、手には違う人形が握られている。一見すればブラッドハウンドに似ているが、口からは蛇のように長い舌を出している。
「その女の子の両親はお金持ちだったんだけどね。ある日事故で亡くなってしまう。その遺産目当てで送り込まれてくる刺客から、ブラッドハウンドは女の子を守っているんだよ」
「おも……」
「でも可愛いじゃないですか~」
観手に言われ、改めてブラッドハウンドを見る。犬とはとても似ても似つかない目と耳、そして尻尾。赤く染まった口も爪も、気味の悪いものに見えるのに。俺はその人形を持ったままレジに向かう。
「あれ? 御竿さん、買うんですか?」
「まぁ。嫌いじゃないし、持っちまったし」
安い買い物ではないが、別に後悔もしていない。
「護、ブラッドハウンド気に入ったんならさ、映画でも行かね? 今やってるだろ」
太刀根に言われ、レジ近くにあったチラシに目をやる。確かに最近始まったばかりのようで、専門店では大々的に宣伝しているようだった。
「ま、いいか」
キラ☆キュアを見たかったが、折角教えてもらったのだし。俺が了承するやいなや、猫汰が颯爽と店を出ていった。
「御竿くん。僕は先に行って三人分の席を取っておくから、ゆっくり追いかけてくるといいよ」
手にはあの人形を持ったまま。
「お、おい巧巳! 三人じゃなくて四人だろ! つか金、金、金払ってないぞ!」
慌てた様子で太刀根が店を出ようとし、急に振り返り俺にカードを渡してきた。ブラックカードってやつじゃね、これ。
「それで払っといてくれよ! 俺は巧巳を追いかけるさ!」
俺は二人を唖然としたまま見送って、それから肩を叩かれそちらを見る。観手が巨大なブラッドハウンドのぬいぐるみを抱え微笑んでいた。
「これも一緒にお願いします!」
「お前……、悪女だろ……」
そう答えながらも払う辺り、俺もいい友達ではないんだろうけど。
では太刀根はといえば。
「巧巳もいるのか。なら早く言えよな! 俺、巧巳とまた遊べたらなと思ってたんだよ」
本心からの言葉であろう台詞を言って、太刀根は「流石護だ」と眩しいほどの笑顔を向けてきた。その眩しさに若干「うっ」と目を背けたものの、俺はすぐに、
「は、はは。そりゃ良かった、な」
と顔を引きつらせながら笑った。これ以上ややこしくしてたまるかと、俺は誰にも話を割り込ませないように話し続ける。
「ほ、ほら、とりあえず買い物に行こうぜ。まずはなんだ、あ、観手の買いたいものでも買いに行くか!?」
「私は別に何も」
「え、何? 新発売のゆるマスコット欲しいって? そうだな確か専門店あったもんな!」
俺は「三階だったか?」とギクシャクしながら歩いていく。右手右足と左手左足が同時に出た。そのくらい焦っていたんだ、多目に見てくれ。
多少不思議に思いながらも、三人はついてきてくれたようで、俺たちは三階にあるゆるマスコット、通称ゆるコット売り場へと来た。
「何この、ヤバそうな人形」
ゆるコットとは名ばかりの、見るに耐えない姿形をした人形がずらりと並ぶ棚。その中のひとつを取り、俺は正直な感想を言った。
ちなみに色々あるが、俺が持っているのは一番マシな部類で、恐らくはクマであろう人形に、豚の鼻と天使の羽根みたいなものがついている。口から見える牙には、赤い塗装が塗られていた。
「護、知らないのか? それはブラッドハウンドってんだ」
「どこに犬要素があんだ」
さっきも言ったが、クマに見えるのだ。いや、クマに見えるが一番近い。しかし犬ではない、絶対に。
隣の観手が「それはですね」と違うブラッドハウンドを手にして、その丸っこい耳をちょこんと触った。
「この子の設定ですよ。この子を拾った飼い主、あぁ飼い主は小さい女の子なんですけど、その子は犬をお話の中でしか知らないのです。モフモフしているこの子を見て、犬だと信じ切った飼い主のために、ブラッドハウンドは自身を“犬”として過ごしているんですよ」
「じゃなんでこんなに赤いの」
“犬”であるなら口元が赤い理由がないはずだ。それに答えてくれたのは猫汰だ。猫汰もまた、手には違う人形が握られている。一見すればブラッドハウンドに似ているが、口からは蛇のように長い舌を出している。
「その女の子の両親はお金持ちだったんだけどね。ある日事故で亡くなってしまう。その遺産目当てで送り込まれてくる刺客から、ブラッドハウンドは女の子を守っているんだよ」
「おも……」
「でも可愛いじゃないですか~」
観手に言われ、改めてブラッドハウンドを見る。犬とはとても似ても似つかない目と耳、そして尻尾。赤く染まった口も爪も、気味の悪いものに見えるのに。俺はその人形を持ったままレジに向かう。
「あれ? 御竿さん、買うんですか?」
「まぁ。嫌いじゃないし、持っちまったし」
安い買い物ではないが、別に後悔もしていない。
「護、ブラッドハウンド気に入ったんならさ、映画でも行かね? 今やってるだろ」
太刀根に言われ、レジ近くにあったチラシに目をやる。確かに最近始まったばかりのようで、専門店では大々的に宣伝しているようだった。
「ま、いいか」
キラ☆キュアを見たかったが、折角教えてもらったのだし。俺が了承するやいなや、猫汰が颯爽と店を出ていった。
「御竿くん。僕は先に行って三人分の席を取っておくから、ゆっくり追いかけてくるといいよ」
手にはあの人形を持ったまま。
「お、おい巧巳! 三人じゃなくて四人だろ! つか金、金、金払ってないぞ!」
慌てた様子で太刀根が店を出ようとし、急に振り返り俺にカードを渡してきた。ブラックカードってやつじゃね、これ。
「それで払っといてくれよ! 俺は巧巳を追いかけるさ!」
俺は二人を唖然としたまま見送って、それから肩を叩かれそちらを見る。観手が巨大なブラッドハウンドのぬいぐるみを抱え微笑んでいた。
「これも一緒にお願いします!」
「お前……、悪女だろ……」
そう答えながらも払う辺り、俺もいい友達ではないんだろうけど。
あなたにおすすめの小説
ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~
白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。
タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。
小説家になろうでも公開しています。
https://ncode.syosetu.com/n5715cb/
カクヨムでも公開してします。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500
●現状あれこれ
・2021/02/21 完結
・2020/12/16 累計1000000ポイント達成
・2020/12/15 300話達成
・2020/10/05 お気に入り700達成
・2020/09/02 累計ポイント900000達成
・2020/04/26 累計ポイント800000達成
・2019/11/16 累計ポイント700000達成
・2019/10/12 200話達成
・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成
・2019/06/08 累計ポイント600000達成
・2019/04/20 累計ポイント550000達成
・2019/02/14 累計ポイント500000達成
・2019/02/04 ブックマーク500達成
【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~
千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。