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十二月
七匹のオオカミと一人の人間、そして牡蠣? その13
教室までの道がやけに遠い。走っても走っても着かないような、そんな感覚だ。
息も上がってきたし、足は覚束なくなってきた。流石におかしいと思い足を止めると、両隣の窓が勝手に動いていたことに気づいた。
「なんだよ、これ」
「これまた大層な仕掛けだな。マモル、面倒だ。さっさと抜けるぞ」
肩に乗る牡蠣に「あ、あぁ」と頷き返し、俺はまた足を動かそうとした時。隣の教室の扉が開いた。
「護先輩!」
ピンク髪が嬉しそうに揺れながら教室から出てくる。ここは一年生の場所だっただろうか、いや二年生の教室が並ぶ廊下のはずだ。間違いない。
俺は警戒を怠らないようにしながら「よう、下獄」と少しずつ距離を取っていく。ここまで来たら後輩だろうが年下だろうが、何か思惑があるに違いない。
「護先輩、ウチを迎えに来てくれたんですか? 嬉しいです! 球技大会を思い出しますね!」
「そ、そうだな。球技大会、懐かしいなぁ……」
適当に相づちを打ちながらじりじりと離れる、が下獄もまた同じ距離だけじりじりと詰めてくる。走って逃げてしまいたいが、さっきの調子だとそれも意味がないように思えた。
「あ、そうだ。懐かしいといえば、学園祭も楽しかったですね。護先輩と回ったお化け屋敷! 先輩が一緒だったから、ウチ怖くなかったんですよ?」
「え、お化け屋敷? あれは確か、あいつ、と……」
言いかけて言葉が喉に詰まった。
本当にあれはあいつだったか? 下獄と回ったんじゃなかったか? だってほら、俺に敬語を使う奴なんて下獄しかいないし。
「護先輩」
俺は自分でも知らずのうちに足を止めていたらしい。呼ばれて顔を上げれば、手が届く距離に下獄が立っていた。
その笑顔は少し小悪魔的で、意地悪に見えなくもないが、それがむしろ可愛いとすら思えてくるから不思議だ。
「ね、護先輩。ウチとパーティに戻りましょ? あ、それとも二人で抜け出しちゃいますか? ウチ、先輩となら全然構わないですよ」
下獄の手が頬に触れる。俺は自分の手を重ねるようにすると、目の前の下獄を見据えた。下獄の目が閉じられ、足りない身長を補うように背伸びをしてきた。俺もまた目を閉じかけ。
「マモル!」
「むぎゅっ」
口と口の間に挟まるように、牡蠣が割り込んできやがった。生臭い海鮮の臭いやら、微かにしょっぱい海の味やらが広がって、俺は下獄を突き飛ばしてから「うげっ、ぺっ、ぺっ」と口を拭った。
「何すんだ、馬鹿野郎!」
「だってマモルに最初に食べてもらうのはワイっちだろ! こんなぽっと出の、規定路線しか走れないような奴には、マモルは渡さないぞ!」
「だから俺は食わねぇって言ってるだろ!」
床にぽとっと落ちた牡蠣を拾い上げてから、俺は「おぇ」と舌を出してみせた。まだ生臭さが残っている気がする。後でサイダーかなんか飲んで口の中をすっきりさせたい。
俺は突き飛ばした下獄に「あー、ごめん」と頭を下げた。むすっとした顔のまま、下獄は何も言わずに俺を見つめる。
「戻るつもりはないからさ。折角だけど、俺、一緒に回りたい奴がいるんだ。本当にごめんな」
気まずさが残るが、いつまでもいるわけにはいかない。俺は最後にもう一度「ごめん」とだけ言って、下獄の隣を通り過ぎる。
「……せんよ」
「え?」
下獄が何か言ったような気がして、つい振り返ってしまった。
「行かせませんよ、護先輩ぃぃいいい!」
それはまさに獣の咆哮か。
全身に伝わるだけでなく、窓も割れるほどのその雄叫びは、下獄を可愛らしい小柄な姿からあの巨体へと変貌させた。耳は象のように大きくなり、手は虎のように鋭い爪を生やし、ケツには兎みたいな丸っこい尻尾が見える。
「え? え……!?」
待って。ラスボスは会長じゃなかったの?
あ、もしかしてこれって。
「隠しボス? まだ装備もステータスも、なんにも揃ってないんですけど……」
たじたじになる俺を他所に、下獄(魔獣)が「ぜんばぁぁああいいい!」と唸るように声を上げたのだった。
息も上がってきたし、足は覚束なくなってきた。流石におかしいと思い足を止めると、両隣の窓が勝手に動いていたことに気づいた。
「なんだよ、これ」
「これまた大層な仕掛けだな。マモル、面倒だ。さっさと抜けるぞ」
肩に乗る牡蠣に「あ、あぁ」と頷き返し、俺はまた足を動かそうとした時。隣の教室の扉が開いた。
「護先輩!」
ピンク髪が嬉しそうに揺れながら教室から出てくる。ここは一年生の場所だっただろうか、いや二年生の教室が並ぶ廊下のはずだ。間違いない。
俺は警戒を怠らないようにしながら「よう、下獄」と少しずつ距離を取っていく。ここまで来たら後輩だろうが年下だろうが、何か思惑があるに違いない。
「護先輩、ウチを迎えに来てくれたんですか? 嬉しいです! 球技大会を思い出しますね!」
「そ、そうだな。球技大会、懐かしいなぁ……」
適当に相づちを打ちながらじりじりと離れる、が下獄もまた同じ距離だけじりじりと詰めてくる。走って逃げてしまいたいが、さっきの調子だとそれも意味がないように思えた。
「あ、そうだ。懐かしいといえば、学園祭も楽しかったですね。護先輩と回ったお化け屋敷! 先輩が一緒だったから、ウチ怖くなかったんですよ?」
「え、お化け屋敷? あれは確か、あいつ、と……」
言いかけて言葉が喉に詰まった。
本当にあれはあいつだったか? 下獄と回ったんじゃなかったか? だってほら、俺に敬語を使う奴なんて下獄しかいないし。
「護先輩」
俺は自分でも知らずのうちに足を止めていたらしい。呼ばれて顔を上げれば、手が届く距離に下獄が立っていた。
その笑顔は少し小悪魔的で、意地悪に見えなくもないが、それがむしろ可愛いとすら思えてくるから不思議だ。
「ね、護先輩。ウチとパーティに戻りましょ? あ、それとも二人で抜け出しちゃいますか? ウチ、先輩となら全然構わないですよ」
下獄の手が頬に触れる。俺は自分の手を重ねるようにすると、目の前の下獄を見据えた。下獄の目が閉じられ、足りない身長を補うように背伸びをしてきた。俺もまた目を閉じかけ。
「マモル!」
「むぎゅっ」
口と口の間に挟まるように、牡蠣が割り込んできやがった。生臭い海鮮の臭いやら、微かにしょっぱい海の味やらが広がって、俺は下獄を突き飛ばしてから「うげっ、ぺっ、ぺっ」と口を拭った。
「何すんだ、馬鹿野郎!」
「だってマモルに最初に食べてもらうのはワイっちだろ! こんなぽっと出の、規定路線しか走れないような奴には、マモルは渡さないぞ!」
「だから俺は食わねぇって言ってるだろ!」
床にぽとっと落ちた牡蠣を拾い上げてから、俺は「おぇ」と舌を出してみせた。まだ生臭さが残っている気がする。後でサイダーかなんか飲んで口の中をすっきりさせたい。
俺は突き飛ばした下獄に「あー、ごめん」と頭を下げた。むすっとした顔のまま、下獄は何も言わずに俺を見つめる。
「戻るつもりはないからさ。折角だけど、俺、一緒に回りたい奴がいるんだ。本当にごめんな」
気まずさが残るが、いつまでもいるわけにはいかない。俺は最後にもう一度「ごめん」とだけ言って、下獄の隣を通り過ぎる。
「……せんよ」
「え?」
下獄が何か言ったような気がして、つい振り返ってしまった。
「行かせませんよ、護先輩ぃぃいいい!」
それはまさに獣の咆哮か。
全身に伝わるだけでなく、窓も割れるほどのその雄叫びは、下獄を可愛らしい小柄な姿からあの巨体へと変貌させた。耳は象のように大きくなり、手は虎のように鋭い爪を生やし、ケツには兎みたいな丸っこい尻尾が見える。
「え? え……!?」
待って。ラスボスは会長じゃなかったの?
あ、もしかしてこれって。
「隠しボス? まだ装備もステータスも、なんにも揃ってないんですけど……」
たじたじになる俺を他所に、下獄(魔獣)が「ぜんばぁぁああいいい!」と唸るように声を上げたのだった。
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