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二月
涙の防災訓練、今からお前を追放する!? その9
「で、なんか、えぇと、どこから説明してもらおうか……」
猪に跨って現れた会長のこと、ラスに色々吹き込んだ人間が会長だったこと、それから会長がここに来てどうやら一週間が経っていること。
ラスじゃないが、頭痛が痛いくらいおかしな言葉を使いたくなる。それぐらい、さっぱり意味が理解出来ない。
「何、疑問があるなら答えよう。順に言わずとも、思ったことを思ったままに話してみるといい」
手にした槍で、木になる林檎を突き落としながら会長は笑った。落ちた林檎を上手くキャッチすると、そのままラスに餌付けしている。
「じゃ、じゃあ、なんで会長は猪に乗ってたんすか」
「母君が子供を探していたのを手伝っていたまでだ。オレとしては、護くんに会うことも出来、一石二鳥だったわけだが」
二つ目の林檎を落とし、それもラスに与える。ラスが「わーい」と林檎を体内に取り込むと、微かにラスの身体が膨らんだ気がした。
「そもそも、なんで子供を探してたんすか」
「それはオレが勇者だからだ」
「は?」
今、会長は自分を勇者って言わなかったか? 聞き間違いであれと願う俺とは反対に、会長はもう一度、今度は少しゆっくりと、そしてはっきり、
「オレが勇者だからだ」
と自信満々に、ドヤ顔で言ってのけた。
「は? 勇者は俺ですよ? 勇者って書いて無職だけど」
自分で言ってて悲しくなる。だけどこれは譲れない。勇者なんてかっこいい肩書き、誰にも渡してたまるかってんだ。
下から若干睨みつけるように見上げていると、身体全体をもぐもぐさせていたラスが「しらないの?」と目をくりくりさせた。
「ゆうしゃはたくさんいるよ? ひとりだったら、しんじゃったとき、たいへんだもの」
「何その、“俺がやられても第二、第三の勇者がお前を倒しにくる”みたいなやつ」
「だから、けっこうにーとはいるよ」
「え、俺、喜んでいいの? 悲しんでいいの?」
仲間がいる。それは嬉しいはずなのに、それがこんなにも虚しいなんて。俺は涙が出そうになるのを、上を向いて必死に堪えた。
そんな俺を知ってか知らずか、会長は「勇者というのは」ともうひとつ林檎を取り、俺に差し出してきた。もちろん断った。会長は気に留めることなく、その林檎をひと口かじってから、
「一人でなければならないのか? そもそも、勇者だから魔王とやらを倒さねばならん、ということもあるまい。自身に与えられた肩書きに胡座をかき、理由をつけ、何もしないということのほうが、よほど虚しく、恥ずべき行為だとオレは考えるが? むしろ喜べ。勇者にのみ与えられた、この自由な時を」
「わー! にんげんのひと、かっこいい!」
「……いいこと言ってるのか、そうじゃないのか、ほんっとこの人よくわかんねぇな」
はしゃぐラスは、林檎を消化し終えたのか元のサイズに戻っている。そんなラスに、会長は自身がかじった林檎を渡してから、
「だからオレはこうして、困る者全てに手を差し伸べているわけだ。オレだけが先にここにいたのは、起動に問題ないか、訓練をするに足る場かを見極めていたのだが……」
と会長にしては珍しく、少し困惑したように目を細めた。
「おチビに会い、その願いを叶えようと思ってな。だがオレでは無理だった。何度試みようと、何をしようと、叶えられはしなかった」
「んー? ぼく、にんげんのひとに、おねがいいったことあったっけ?」
「ふははは。あぁ……、あった。力になれず、すまないな」
「ふーん?」
ラス本人も理解していないようだが、大丈夫だ、俺も理解していない。でも会長の目を見る限り、なんでかな、嘘はついてない気がしたんだ。
そんなしんみりした雰囲気を蹴散らすように、会長が「だが!」と俺を指差してきた。その期待に満ちた目に、俺は「い!?」と一瞬縮こまった。
「護くん、キミなら出来る! だからこそ、オレはおチビに人間社会での生き方を教え、キミに会えるように仕向けた。もとい、そう作戦だてた!」
「いや、そんなん勝手にすんなよ。いい迷惑だわ」
「キミは“輪”から少し外れた場所に在る者だからな。そんなキミならば、おチビの願いも叶えられるだろう」
「話を進めんなって……」
本当に人の話を聞かない奴らばっかりだ。盛大にため息をつく俺を横目に、会長はラスをひと撫でしてからくるりと背を向けた。ラスが「にんげんのひと!」と名残惜しそうに声を張り上げる。
「では、オレは失礼する。終を迎えに行ってやらねばならないからな」
「あー。はい、そっすね」
そういやセンパイ、怒られたままだったな。俺は逃げてきたから、あの後どうなったのかは知らんけど。
「にんげんのひとー! またあえるよねー!?」
ラスが涙声で叫ぶのに、会長は振り向くことすらせず、片手を上げただけだった。
なんなんだ、この茶番は。
猪に跨って現れた会長のこと、ラスに色々吹き込んだ人間が会長だったこと、それから会長がここに来てどうやら一週間が経っていること。
ラスじゃないが、頭痛が痛いくらいおかしな言葉を使いたくなる。それぐらい、さっぱり意味が理解出来ない。
「何、疑問があるなら答えよう。順に言わずとも、思ったことを思ったままに話してみるといい」
手にした槍で、木になる林檎を突き落としながら会長は笑った。落ちた林檎を上手くキャッチすると、そのままラスに餌付けしている。
「じゃ、じゃあ、なんで会長は猪に乗ってたんすか」
「母君が子供を探していたのを手伝っていたまでだ。オレとしては、護くんに会うことも出来、一石二鳥だったわけだが」
二つ目の林檎を落とし、それもラスに与える。ラスが「わーい」と林檎を体内に取り込むと、微かにラスの身体が膨らんだ気がした。
「そもそも、なんで子供を探してたんすか」
「それはオレが勇者だからだ」
「は?」
今、会長は自分を勇者って言わなかったか? 聞き間違いであれと願う俺とは反対に、会長はもう一度、今度は少しゆっくりと、そしてはっきり、
「オレが勇者だからだ」
と自信満々に、ドヤ顔で言ってのけた。
「は? 勇者は俺ですよ? 勇者って書いて無職だけど」
自分で言ってて悲しくなる。だけどこれは譲れない。勇者なんてかっこいい肩書き、誰にも渡してたまるかってんだ。
下から若干睨みつけるように見上げていると、身体全体をもぐもぐさせていたラスが「しらないの?」と目をくりくりさせた。
「ゆうしゃはたくさんいるよ? ひとりだったら、しんじゃったとき、たいへんだもの」
「何その、“俺がやられても第二、第三の勇者がお前を倒しにくる”みたいなやつ」
「だから、けっこうにーとはいるよ」
「え、俺、喜んでいいの? 悲しんでいいの?」
仲間がいる。それは嬉しいはずなのに、それがこんなにも虚しいなんて。俺は涙が出そうになるのを、上を向いて必死に堪えた。
そんな俺を知ってか知らずか、会長は「勇者というのは」ともうひとつ林檎を取り、俺に差し出してきた。もちろん断った。会長は気に留めることなく、その林檎をひと口かじってから、
「一人でなければならないのか? そもそも、勇者だから魔王とやらを倒さねばならん、ということもあるまい。自身に与えられた肩書きに胡座をかき、理由をつけ、何もしないということのほうが、よほど虚しく、恥ずべき行為だとオレは考えるが? むしろ喜べ。勇者にのみ与えられた、この自由な時を」
「わー! にんげんのひと、かっこいい!」
「……いいこと言ってるのか、そうじゃないのか、ほんっとこの人よくわかんねぇな」
はしゃぐラスは、林檎を消化し終えたのか元のサイズに戻っている。そんなラスに、会長は自身がかじった林檎を渡してから、
「だからオレはこうして、困る者全てに手を差し伸べているわけだ。オレだけが先にここにいたのは、起動に問題ないか、訓練をするに足る場かを見極めていたのだが……」
と会長にしては珍しく、少し困惑したように目を細めた。
「おチビに会い、その願いを叶えようと思ってな。だがオレでは無理だった。何度試みようと、何をしようと、叶えられはしなかった」
「んー? ぼく、にんげんのひとに、おねがいいったことあったっけ?」
「ふははは。あぁ……、あった。力になれず、すまないな」
「ふーん?」
ラス本人も理解していないようだが、大丈夫だ、俺も理解していない。でも会長の目を見る限り、なんでかな、嘘はついてない気がしたんだ。
そんなしんみりした雰囲気を蹴散らすように、会長が「だが!」と俺を指差してきた。その期待に満ちた目に、俺は「い!?」と一瞬縮こまった。
「護くん、キミなら出来る! だからこそ、オレはおチビに人間社会での生き方を教え、キミに会えるように仕向けた。もとい、そう作戦だてた!」
「いや、そんなん勝手にすんなよ。いい迷惑だわ」
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「話を進めんなって……」
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「では、オレは失礼する。終を迎えに行ってやらねばならないからな」
「あー。はい、そっすね」
そういやセンパイ、怒られたままだったな。俺は逃げてきたから、あの後どうなったのかは知らんけど。
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なんなんだ、この茶番は。
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