【完結済】ケーキはフォークの共犯者

とかげになりたい僕

文字の大きさ
20 / 22

フォークを突き刺すように

しおりを挟む
 冬休みは蒼と勉強しつつ、たまに幸太郎と息抜きに遊びながら過ごし、そして一月。
 専用のサイトにて合否確認をするため、俺は朝からベッドの上で正座をしていた。目の前に置いたスマフォの画面には、『9:51』と表示されている。

「十時まであと九分……」

 合否発表は十時。
 気分はまるで処刑される罪人だ。されたことないけど。

「全力は尽くしたし、受かってるはず……」

 自己採点の結果もよかった。
 受験番号だって何度も確認した。
 受かってなかったら今から地元で就職組だ。就職は構わんが、蒼と離れるのは嫌だ。約束だってあるし。

「光哉、いる? いるよね。暇人だし」

 ノックすらせずに入ってきた蒼に舌打ちをした。

「勝手に入ってくんな。俺がナニしてたらどうすんだ」
「光哉がこんな大事な日に、そんなこと出来るわけない。小心者だから」
「よくご存知で」

 そこで会話は止まってしまう。スマフォを見れば『9:57』と表示されている。情けないことに、スマフォを触る指先が震えてしまう。
 もし、もし駄目だったら? そう考えるだけで吐き気が込み上げてきて、俺は「う」と口元を押さえた。

「光哉、朝ご飯食べてないの?」
「食欲ねぇし、つーかこれで食ったらぜってぇ吐く」

 元から味なんてないものを食っているのだ。胃に詰めるだけの作業なら、後でもいい。スマフォを見ればあと一分まで迫っていた。
 息を吐いて、自分を落ち着かせようと目を閉じる。
 大丈夫、大丈夫、大丈夫だ――

「……ミツ」
「ん? う、お!?」

 目を閉じていた間に乗り上げてきた蒼が、俺を思いきり抱き寄せてきた。そのまま引っ張られるようにベッドに寝転がされ、俺は意図せず、蒼を押し倒す形になる。
 ちょうど顔の辺りに蒼の首筋がきて、すん、と鼻を鳴らすだけで、身体の隅々まで蒼の香りが満ちていく。

「ど? 落ち着いた?」
「全っ然」
「そ。あ、発表された」

 蒼は俺のことを気にもせず、左手に持っていたスマフォに視線をやった。離れようにも、蒼にがっちりホールドされているため動かせそうにない。

「おい、離せ。見えねぇだろが」
「合格した」
「あぁそうかよ、それはおめでとさん。で、肝心の俺が見えねぇわ」
「してるよ、合格」
「は!?」

 腕に力を入れてなんとか上体を起こす。そうして蒼のスマフォを見れば、確かに合格番号の欄には俺の番号が載っていた。

「まじか……。やった、やった……!」

 込み上がる嬉しさが溢れて、下敷きになったままの蒼を抱きしめた。潰されて苦しいはずの蒼は、それでも何も言わず「おめでと」と微かに笑う。

「おぉ、ありがと。つか、ん? 番号教えたっけ?」
「把握しといた」
「こわっ」

 冗談っぽく言い放って、それから改めて蒼の首筋に鼻を擦りつけた。緊張から解放された俺には、その甘い香りは空腹に堪える。

「なぁ、もう喰っていい?」
「駄目だって。三月いっぱいはまだ高校生だって、先生も言ってた」
「真面目か」
「ミツと違ってね。でも」

 蒼の手からスマフォが落ちる。床に落ちたのか、カタンと乾いた音が響いて、蒼が俺の背中に両手を回した。

「頑張ったご褒美、あげる」
「……今さら取り消すのはなしな」
「しない。八年、よく我慢出来ました」

 俺もアオの背中に手を回す。ガタイがいいわけでもないが、華奢でもない。女子みたいに柔らかいわけでもない。
 それでもこんなにアオを求めるのは、ひとつしかない。

「アオ、アオ……っ、好きだ」
「ん。俺も好き。ミツが好きだよ」

 まるでそれは、ショートケーキの先端からフォークを刺すように。少しずつ広がる甘い味は、人生の中でも最高のご馳走となる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...