【本編完結済】前世の英雄(ストーカー)が今世でも後輩(ストーカー)な件。

とかげになりたい僕

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第二部

田園に揺られて

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「あっつ……」

 額にじっとりと浮かぶ汗をぬぐって、僕はズボンのポケットからスマフォを取り出した。時間を確認すれば、約束の時間まであと三十分もある。
 早く着きすぎたことに内心ため息をついて、僕は自販機で缶コーヒーを一本買ってから木陰へと移動した。
 六月も終わり、夏の始まりを運んできている。珍しくユーリから「デート、行こ」と言われ、週末の貴重な時間を使って駅へと歩いてきた。

 ユーリと恋人になってからは、毎週末ユーリの家に泊まりに行くのが日課みたいになっていた。といっても、居酒屋が土曜日に休みなどなかなか取れるわけもないので、終わる頃にユーリが迎えに来て、二人で帰路についている。

「もうすぐ夏休みかぁ」

 コーヒーの飲みながら、三週間後に入る長期休みのことを考える。去年まではバイト三昧だったが、さて今年はどうしようか。
 ある程度は働かなければならないが、ユーリとの時間も作りたい。けれど彼は彼で、夏休みに何日か集中講義があったはず。出るか知らないけど。

「聞いてみるか」

 飲み終えた缶コーヒーを片手に、木々の間から見える太陽に目を細める。
 こんなに夏って暑かったんだなぁと考えていると「おにーさん」と二人組の男の人に話しかけられた。アロハシャツに短パンという早めの夏仕様。僕だったらアロハシャツは恥ずかしくて着れないな、なんて思いながら「はい?」と二人に向き直った。

「いやー、実はおれたち、道に迷っちゃってー」
「よかったら教えてくれないかなー」

 観光か何かで来たのだろうか。
 確かにここは有名な食べ歩きの通りがあるし、観光客がいないわけでもない。

「えぇと、どこに行きたいんですか?」
「有名な通りがあるらしーじゃん? そこ!」

 やっぱりそうだった。
 僕は「それなら……」と説明しようとして、ぐいと手を引っ張られ、少し足をもつれさせた。

「口じゃわかんないからさ、行って説明してよー」
「そーそー」
「え、ちょ、ちょっと」

 ぐいぐいと引っ張られ、みるみるうちに集合場所から離されていく。この感覚に近いものを知っていた僕は、恐怖で全く声が出なくなってしまう。
 このままだと大変なことになる。そう、わかっているのに――

「リヒトっ」

 名前を呼ばれ、弾かれたように顔を上げる。
 後ろから、息を切らして、肩を上下させたユーリが、二人を押しのけるようにして僕の肩を掴んだ。

「俺の恋人に、なんか用?」

 改めて言われた“恋人”の二文字に、こんな時だというのに嬉しくなって、赤い顔が恥ずかしくてまた俯いた。
 二人は悪びれた様子もなく「そっかそっかー」と僕から離れると、

「じゃーねー」

とひらひら手を振って雑踏の中へと消えていった。
 ユーリは見えなくなるまでその背中を睨みつけて、それからやっと「ごめん」と肩から手を離してくれた。

「いいよ、大丈夫」
「大丈夫なわけない。俺が待ち合わせしたいなんて言ったから……。そうだ、これからはリヒトの家で待ち合わせをしよう!」

 その素っ頓狂な答えに僕は苦笑いをし、

「それ、待ち合わせじゃなくて、お迎えって言わない?」

とユーリの手に自分のを絡めた。ユーリは「確かに」と納得しながら歩いていく。その隣を歩きながら、再び見えてきた駅に「ねぇ」とユーリを見上げた。

「そういえば今日はどこに行くつもり? わざわざ駅集合ってことは電車に乗るんだよね?」

 ユーリはスマフォを、僕は交通系ICカードをかざして、スムーズに改札を通る。ホームにはそれなりの人がいたけれど、僕たちが向かったのは人がまばらのホームだ。
 土曜だというのに、電光掲示板に映る本数は三十分おきに出ている。あと十分も待てば目的の電車が来るようだった。

「デートといえば決まってるでしょ」
「いや、ごめん。誰かと出かけるなんて、本当になくて……」

 一応、居酒屋の面子メンツで何回か遊んだことはあるが、それとデートはもちろん違う。
 遊園地? 動物園? それとも映画館? この電車はどこに行くんだっけ?
 答えが出ないまま、ホームに入った電車に乗る。いくつかの駅を通り過ぎ、のどかな田園が広がる景色を眺めながら揺られていると「次だよ」とユーリが立ち上がる。
 つられて立ち上がりホームへ降りれば、目の前の視界いっぱいに看板が見えた。

「……ようこそ、うさぎ村へ?」

 可愛らしいうさぎのイラストが書かれたそれを読めば、ユーリは得意気に頷いてみせた。
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