【本編完結済】前世の英雄(ストーカー)が今世でも後輩(ストーカー)な件。

とかげになりたい僕

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第二部

過去を知りたくて

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 ユーリとは特に話をしないまま、僕は言われた通り机や椅子を並べたり、火を起こすための風をうちわで送ったりと働いた。夕方になると何人かの子供たちが「こんにちはー!」と顔を見せだしたから、店長が気を使って少し休んでろとお寺の中へと押し込まれてしまった。

「もう、まだ働けるんだけど……」

 夏だというのに、お寺の中はとても涼しかった。風通しがいいのだろうか、クーラーや扇風機などなくとも、十分に涼むことが出来る。
 本堂、とでもいうのか。大きな大仏が鎮座していて、左右には立派な金の飾りがたくさんある。本堂の隅には、家に入る用の渡り廊下が続いていて、そこの奥側から何やら声が聞こえてきた。

「――めろ」
「そう――」

 子供たちかと思って、僕は渡り廊下へと歩いていく。

「だからやめろって!」
「へぇ、でももう入るけど」

 渡り廊下まで来たけれど、誰かの姿が見えるわけじゃない。おかしいなと思って辺りを見回して、僕はその声が足元から聞こえてくることに気づいた。

「アアアッ、お、お、おおっ……!」
「もうちょっと可愛い声出せないの? あと叫びすぎ。本当、此永このえくんのケツ穴、雑魚すぎ」

 いくら疎い僕でもわかる。この下で、誰かがそういうことをしている。息を殺して、足音を消すようにして、僕は本堂へと後ろ向きで戻っていく。
 ギシッ。
 なんで!? 来た時は鳴らなかったじゃないか!

「……っは、此永くん、誰かいるんじゃない?」
「オッオッオッ、うあアッ」
「ま、いっか」

 僕はたまらずその場から逃げ出した。足音なんて知ったことか。こっちの姿は見えていないのだから、多少煩くしてもバレやしない。
 本堂から飛び出すように出たところで、僕を呼びに来たであろうユーリとぶつかった。反動でよろける僕を支えて「どうしたの」と顔を覗きこんでくる。さっきの会話もあって、顔が赤くなっていた僕は「なんでもっ」と咄嗟に顔を背けた。

「リヒト、具合悪い?」
「だからなんでもないって。呼びに来たんだろ? 早く戻ろう」
「……ならいいよ」

 納得はしてないみたいだけれど、わかってはくれたようで、ユーリは先を歩く僕の後を大人しくついてくる。耳まで赤い自覚のあった僕は、とりあえずユーリに顔を見られないよう必死だった。

 日が沈みかけた頃。かなりの子供たちが来て、わいわいとバーベキューを楽しんでいた。お肉ばかり欲しがる子に野菜も食べようと宥めながら、僕も焼くのを手伝っていく。
 すると本堂のほうから、銀縁の眼鏡をかけた高校生の男の子がやって来て、シスターに「すみません」と頭を下げた。

「お母さん、遅れました」
「いいのよ。もうすぐ夏休みも終わるんだもの。此永くんとのお勉強は終わった?」
「はい、お陰で。俺も手伝いますよ」

 その声に聞き覚えがあった。
 あの渡り廊下で聞いたあの声だ。
 ということは、え? 高校生で付き合っている子でもいるのかな。最近の子って早いんだなとトングでお肉を引っくり返していると、僕に気づいた息子さんがこっちに歩いてきた。

「こんばんは」
「こ、こんばんは。ええと……」

 動揺を悟られないよう、なるべく目線は手元のお肉から離さないよう努める。

「夏川ソウシといいます。屍人のリヒトさん?」
「……っ、誰?」

 明らかに前世を知っている物言いに、トングを持つ手が震えた。ソウシくんが「あぁ」と震える手を抑えるように、そっと手を重ねてきた。

「安心してください。俺は貴方をどうこうするつもりはありません。貴方と仲良くなりたいんです。殿下の……、ユーリさんのことでも語らいながら、ね」
「ここじゃ駄目なのかい……?」
「前世、なんて話してたら、子供たちも不思議がるでしょう? この先に、ちょっと公園があるんです。そこまで歩いて、帰りながら、なんてどうです?」

 正直、あまり乗り気じゃなかった。
 けれど、僕の知らないユーリのことも気になるのも事実だ。だから僕は「いいよ」と軽く答えてしまった。

「では先に向かって頂けますか? 俺は母親に用事を言いつけられてまして、すぐに向かいますから」
「……わかったよ」

 僕はトングをスイに任せ、ちょっとコンビニまで買い出しだと嘘をついてお寺を出た。
 朝、車で通った時、確かに公園があったのを見ているから迷わずに進めるはずだ。街灯のない道は少し薄暗いが、全く見えないほどじゃない。山間にかかる橋を渡れば、目的地の公園まではすぐそこだ。
 ドンッ――

「え」

 何かに押されたような、引っ張られたような感覚が走り、視界が大きく傾いた。欄干から身体が大きく乗り出し、そのまま重力に抗えずに落ちていく。
 真っ暗な中聞こえた「さよなら、リヒトさん」の声は、ソウシくんのものだった。
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