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竜の恩讐編
リズベルの想い その1
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「繋鴎、どうするつもりなんだ? そのリズベルという赤の一族の姫を」
大体の事情を飲み込めた佐権院蓮吏は、播海繋鴎に今後の動向を尋ねた。
「『ナラカ』は依頼の上での約束事に関してはかなり厳しい。正直、リズベルの解放は望み薄だ。仮に解放が可能だとしても、どんなとんでもない条件を出されるか……」
『オレも兄も、ギリギリまで条件に応えられるように努めるつもりだ、繋鴎。もう他の派閥からの反発も覚悟の上だ』
伝声管からのパーシアンの真剣な声を聞き、繋鴎も心を決めた。
「そうだな。三年前、ピオニーアを守りきれなかった播海家の責任、ここで負わなきゃみっともないからな」
『それは王族も同じだ。立場がありながら、身内を守ることさえできなかった。ピオニーアが結局なにを考えてたのかは分からないが、せめてリズベルだけでも―――』
不意に電話の着信音が鳴り、パーシアンの言葉が中断された。
『電話か? 繋鴎』
「悪い。ちょっと待っててくれ」
繋鴎は書斎の机に置かれた電話の受話器を取った。
「繋鴎だ。今は客と大事な話を――――――何だと!?」
電話の相手からの報告に、繋鴎は驚きの声を上げた。
「どこへ向かっている!? 必ず行き先を突き止めろ! 絶対に撒かれるな!」
繋鴎は慌てて指示を出して受話器を置いた。
「すまない。このタイミングで『ナラカ』の首領が動き出した。追いかけてすぐにでも交渉する」
「分かった、繋鴎。私もここまで事情を聞けた。文句はない」
『繋鴎、話がついたらすぐに報せてくれ。オレたちの方でもできる限りのことはする』
「ああ、必ず」
書斎を出た繋鴎はもはや全力疾走に近い速さで廊下を駆けた。
『ナラカ』との再取り引きについてもそうだが、もう一つ、特別な理由があったからだ。
(リズベルに伝えなければならない! ピオニーアから託された遺言を!)
「ピオニーアさんは……君のことを一番大事に想っていたよ。たとえ自分の命が尽きようとしている時でも。だから…………最高のお母さんだったって、誇りに思っていいよ」
結城は力強い瞳で、そして一番優しい微笑みで、リズベルにそう伝えた。
「僕の言うことじゃ信じられないかもしれないけど……」
「……んな……こ……い……」
「え?」
「……そんなこと……ない……」
消え入りそうなか細い声だったが、リズベルは確かにそう返した。
「りずべる!」
いつの間にか結城の前に立っていた媛寿が、リズベルの名前を声高に呼んだ。
「えんじゅは、ぴおにーあから娘にやさしくしてあげてってたのまれた。こんかいはまちがったけど……えんじゅはいつだって、りずべるのこと、たいせつにおもってるから!」
媛寿は両腕を大きく広げ、両手をリズベルに差し出すようにした。
年端もいかない着物姿の少女の行動に、リズベルはなぜかある人物の影が重なった。
「っ!」
その瞬間、リズベルは反射的に媛寿に抱きついていた。
媛寿もまた、リズベルの背中に両手をそっと回した。
「……母さま……母さま……」
ついに叶うことがなかった呼び名を、リズベルは媛寿にだけ聞こえるように呟き続けた。
「もうだいじょうぶだよ、りずべる。だいじょうぶ……」
力なく咽び泣くリズベルの背を、媛寿は優しく撫で擦った。
大体の事情を飲み込めた佐権院蓮吏は、播海繋鴎に今後の動向を尋ねた。
「『ナラカ』は依頼の上での約束事に関してはかなり厳しい。正直、リズベルの解放は望み薄だ。仮に解放が可能だとしても、どんなとんでもない条件を出されるか……」
『オレも兄も、ギリギリまで条件に応えられるように努めるつもりだ、繋鴎。もう他の派閥からの反発も覚悟の上だ』
伝声管からのパーシアンの真剣な声を聞き、繋鴎も心を決めた。
「そうだな。三年前、ピオニーアを守りきれなかった播海家の責任、ここで負わなきゃみっともないからな」
『それは王族も同じだ。立場がありながら、身内を守ることさえできなかった。ピオニーアが結局なにを考えてたのかは分からないが、せめてリズベルだけでも―――』
不意に電話の着信音が鳴り、パーシアンの言葉が中断された。
『電話か? 繋鴎』
「悪い。ちょっと待っててくれ」
繋鴎は書斎の机に置かれた電話の受話器を取った。
「繋鴎だ。今は客と大事な話を――――――何だと!?」
電話の相手からの報告に、繋鴎は驚きの声を上げた。
「どこへ向かっている!? 必ず行き先を突き止めろ! 絶対に撒かれるな!」
繋鴎は慌てて指示を出して受話器を置いた。
「すまない。このタイミングで『ナラカ』の首領が動き出した。追いかけてすぐにでも交渉する」
「分かった、繋鴎。私もここまで事情を聞けた。文句はない」
『繋鴎、話がついたらすぐに報せてくれ。オレたちの方でもできる限りのことはする』
「ああ、必ず」
書斎を出た繋鴎はもはや全力疾走に近い速さで廊下を駆けた。
『ナラカ』との再取り引きについてもそうだが、もう一つ、特別な理由があったからだ。
(リズベルに伝えなければならない! ピオニーアから託された遺言を!)
「ピオニーアさんは……君のことを一番大事に想っていたよ。たとえ自分の命が尽きようとしている時でも。だから…………最高のお母さんだったって、誇りに思っていいよ」
結城は力強い瞳で、そして一番優しい微笑みで、リズベルにそう伝えた。
「僕の言うことじゃ信じられないかもしれないけど……」
「……んな……こ……い……」
「え?」
「……そんなこと……ない……」
消え入りそうなか細い声だったが、リズベルは確かにそう返した。
「りずべる!」
いつの間にか結城の前に立っていた媛寿が、リズベルの名前を声高に呼んだ。
「えんじゅは、ぴおにーあから娘にやさしくしてあげてってたのまれた。こんかいはまちがったけど……えんじゅはいつだって、りずべるのこと、たいせつにおもってるから!」
媛寿は両腕を大きく広げ、両手をリズベルに差し出すようにした。
年端もいかない着物姿の少女の行動に、リズベルはなぜかある人物の影が重なった。
「っ!」
その瞬間、リズベルは反射的に媛寿に抱きついていた。
媛寿もまた、リズベルの背中に両手をそっと回した。
「……母さま……母さま……」
ついに叶うことがなかった呼び名を、リズベルは媛寿にだけ聞こえるように呟き続けた。
「もうだいじょうぶだよ、りずべる。だいじょうぶ……」
力なく咽び泣くリズベルの背を、媛寿は優しく撫で擦った。
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