小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

文字の大きさ
446 / 459
竜の恩讐編

幕間・氷乃

しおりを挟む
「――――――んむ?」
 自室のキングサイズのベッドの上で、多珂倉稔丸たかくらねんまるは目を覚ました。
(うわっ! 体おも! 後で雪花せっかに疲労回復の薬もらわないと)
 稔丸の自室では、ベッドの上や床を問わず、人外の少女たちが浅い寝息を立てていた。
 天逐山てんぢくざんの決戦の後、稔丸は多珂倉家の者として、播海家はるみけを補佐する形で動いていた。
 小林結城こばやしゆうきへの復讐にたんを発する、一連の出来事を裏の裏まで調べ、場合によっては財力によって事実を消去した。
 『ナラカ』の説得に関しては、繋鴎けいおうが『赤の一族ジェラグ』の王族うえと協力して事にあたるので、多珂倉家は外れてくれて良い、という流れになった。
 それはそれで稔丸は安堵したが、代わりに今は別の問題に悩まされている。
 天逐山包囲網に参加した稔丸おかかえの人外の少女たちは、想定外の大妖怪キュウの登場であっさり制圧されてしまった。
 その時に味わった恐怖がまだ残っているらしく、包囲網に参加した八人は稔丸としばらくねやを共にしたいと申し出てきた。
 稔丸も恐い思いをさせてしまった負い目があるので承諾したが、ただ同衾どうきんするだけで終わるはずもなく、八人+αとの行為・・が明け方まで続いた。
 ここ最近はそういった夜が多いため、稔丸は昼夜問わず忙しい日々に追われていた。
「う~ん……あ、おはよ、稔丸」
 ベッドシーツの下から現れた少女は、目をこすりながら稔丸に挨拶あいさつした。
「おはよう、氷乃ひの。けど君ってあの時は出動ででないよね?」
「いいじゃない。稔丸だって昨夜は誰とヤッたかなんて順番も憶えてないでしょ?」
 細身ながら整った裸身を惜しげもなくさらしながら、氷乃は気分よく伸びをした。
「ねぇねぇ、この後サウナでヤらない? 二人っきりで汗だくになりながら―――」
「悪いけど、今日もまだまだ事後処理があるから」
「そう。残念だけどサウナでするのは次の機会ね。お風呂行ってこよ」
 バスローブを身に付けた氷乃は、床に横たわる少女たちを器用にけてドアに向かっていく。
 一族が代々住んでいた山が開発されることになり、を追われてしまった雪女一族の末裔まつえい
 山を開発した人間たちに復讐しようとしていたところを思い留まらせてからは、多珂倉家に腰を落ち着けることになった、高度な冷凍能力を有する少女。
 氷をつかさどる能力において、右に出るものは滅多にいないであろう少女の背中を、稔丸は少し呆れた目で見ていた。
「あ、そういえば」
 ふと思い出したことがあり、稔丸は氷乃にたずねた。
「三年前に繋鴎さんに頼まれたことって何だったの? 繋鴎さんからは『氷乃きみが話す気になったら聞いていい』って言われてるけど」
「……」
「氷乃?」
「う~ん、ごめん稔丸。まだ話す気になれないや。別にキツく口止めもされてないけど、アタシもあんまり気持ちのいい仕事じゃなかったから……」
 氷乃にしては珍しく、浮かない顔でそう答えた。そんな顔を見たのは稔丸も三年ぶりだった。
「じゃ、気が向いたら浴場に来てね♪」
 手を振りながら部屋を出た氷乃の姿を追うように、稔丸は閉められたドアをしばらく見ていた。
「……やれやれ。そんな顔されたら、ボクも悪いことした気になるじゃないか」
 ベッドから降りて少女たちをベッドに寝かせた後、稔丸もバスローブを羽織った。
 浴場に向かうために。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...