小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

エピローグ その1

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「んぐ……んぐ……ぷはぁ! スッゴい効く~!」
 ホテル『ヴァージンズ・ブラッド』の一室で、千春ちはるはグラスの中身を飲み干して息を吐いた。
「千春~。どっからこんなイイお酒もらってきたのぉ? 効きすぎよぉ~」
 ベッドで幾人もの愛人をはべらせるルーシーもまた、からになったグラスを揺らしながら酩酊めいていしていた。
「お姉様~、もっとして~」
「いまスゴくイイ感じ~。これまでで一番スゴいのキちゃう~」
 ルーシーとベッドに寝る少女たちは、室内に充満した芳香ほうこうだけで影響され、快楽に酔いしれている。
「はいはい、休憩したらまたイかせてあげるから」
 ルーシーは二人の少女に接吻キスするが、少女たちはそれだけで体をびくりと痙攣けいれんさせ、シーツの上に脱力した。
「キスしただけでこんなになっちゃうなんて、ホントに効きすぎ~」
「その二人もダウンしちゃったのかぁ。このももう限界みたいだし」
 千春はもたれかかるように脱力していた少女を、くびつかんで部屋のすみに投げた。
 そこには涙とよだれを垂らしながら痙攣している少女たちが、折り重なるように倒れていた。
「あ~あ~、わたしのお気に入りのたち軒並のきなみ壊しちゃって」
「どうせ女の子には不自由してないでしょ?」
「あなたもね、千春。ところで正味な話、このお酒どこで手に入れたの?」
「う~ん……」
 千春は水割りにした八塩折ヤシオリの酒をグラスにそそぎながら考えた。
「物々交換」
「へぇ~、何と?」
 結城ゆうきたちとの話し合いの際、いきなり現れた行商人アマテラスにリズベルと引き換えで入手したわけだが、
「まっ、いいじゃない。こうしてイイお酒ご馳走してあげてるんだから」
 流石さすがに酒に釣られたと思われるのはしゃくだったので、千春はルーシーのグラスにもぐことで答えを濁した。
「ふ~ん? まぁ、たしかにね。それより今回の依頼、例の『潰王かいおう』には会わなかったわね。一番出現した報告があった区域だったのに」
「あ~、そういえば」
 ここ数年で裏社会に名が通っている謎の人物。
 悪徳な手法で財産を徴収する高利貸しが、事務所のビル諸共に叩きつぶされたり、『流血と殺戮こそ至高の祈願』をかかげる新興宗教が、たった半日で本拠の施設を更地さらちにされてしまったり、どこか行き過ぎた世直しを敢行かんこうするという。
 悪逆の徒を根もまとめて叩き潰して消し去る様から、いつからか『潰王』という名前がささやかれるようになった。
「ショートボブの髪型で眼光が鋭い身長2メートルに届きそうな着物姿の大男……警戒はしてるけど、ホントにそんな奴いるのかどうか」
わたしも半分は信じてないけど……今回の依頼で出くわさなくて良かったと思うわ」
 ルーシーがグラスを差し出し、千春もまたグラスを差し出して、二つのグラスを打ち鳴らして乾杯する。苦難は多かったが、依頼の完了を祝して。
(このお酒、このまま飲み干しちゃうのはしいわね。あいつの墓にも持っていこうかな?)
 千春は今日こんにちに至る『私立皆本みなもと学園』創設のきっかけをくれた幕末の友人のことを思い浮かべていた。
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