小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

文字の大きさ
83 / 459
友宮の守護者編

満ちる時……

しおりを挟む
 結城ゆうき友宮咆玄ともみやほうげんの亡霊と、柱に括りつけられた友宮里美ともみやさとみを交互に見やった。ここまでの友宮咆玄の言葉を聞いて、最初に佐権院さげんいんたちから持ちかけられた話と大きく相違があると感じていた。
 犬神についてはキュウや九木くきから、敵対する相手を呪殺するなどして家を繁栄させるものと説明された。そういったものを使ってきたという友宮家に対して、結城はあまり良い印象を受けなかった。友宮咆玄の言葉から、どうやら先代は善人とは言い難かったらしい。しかし、いま相対している現当主の咆玄に関しては、それほど悪人には思えなくなってきていた。
 犬神の一体である虎丸とらまるからの依頼を聞いて、友宮の結界のカラクリが分かった時、義理とはいえ娘を儀式の道具にしようとしている咆玄に怒りを覚えていた。何としても友宮里美を救うと心に決めていたが、神降ろしの事情を聞いてしまった今、どうすべきか迷いが生じていた。儀式を止めても止めなくても、あまり良い結果にならないと心のどこかが囁いている。仲間たちとともにボロボロになってまで辿り着いた場所で、結城は精神的にも肉体的にも身動きが取れなくなってしまっていた。
(あれ?)
 思考の迷路をぐるぐると回っていた結城は、ふと気付いたことがあった。
(虎丸はどこに?)
 ダンスホールが崩落するまではいたはずの犬神の姿が、ここに来て見えなくなっていた。

「全ての犬神を身に収めた状態では、里美の命は二ヶ月と保たんと分かった。娘の死を待つだけのわしだったが、ある可能性に思い至った。今にして思えば天啓だったと信じられる。里美の肉体に破邪の武神を降ろし、体内の犬神を残らず消滅させる。房乃ふさのと里美の家系は神仏習合しんぶつしゅうごうの時代、巫女としての役割も担っていた。神降ろしが可能と知った時、わしは迷うことはなかった」
「大量の犬神を宿した器に、さらに神を降ろすと!? それも武神を! たとえ肉体が耐えられたとしても、精神は確実に掻き消えてしまう。命を落とすも同然だ!」
 佐権院からすれば、友宮咆玄の選択は常識の範疇を超えていた。容れ物に注げる水の量が決まっているように、一つの肉体に入れられる霊魂の総量もまた決まっている。個人差や霊的な素養によって大きな触れ幅はあれど、それでも限界はある。
 友宮里美は友宮が二百年に渡って増やし続けてきた犬神を全て受け入れてなお、命を失わない程の驚くべき素養があったのだろう。しかし、生命維持に問題が起こっている以上、その容量は限界に達しようとしている。そこへ神々の中でも強大な力を持つ『武神』を呼ぼうというのだ。完全な容量オーバーであることは、目に見えていた。
「このまま里美の命が尽きるのを待つか、一縷の望みを懸けてでも救える方法を取るか。答えは言うまでもない。わしはすぐに儀式の準備に取り掛かった。友宮がつちかってきた知識と霊力を全て使って。だが、儀式を開始してほどなく、犬神の抵抗に遭い、わしは取り殺された。もはやこれまでと思うたが、肉体から解放されたことで、わしの霊力は生前の数倍にも引き上げられた」
「ただの残留思念ではなく、霊魂そのものがこの世に留まり、儀式の動力源となったのか。なるほど、術者が死亡しても儀式が継続されていたわけか。ならばなおのこと、この儀式は中止する!」
「邪魔をするな!」
 異様な威圧感を持った友宮咆玄の一喝が、結城と佐権院の身を貫いた。
「貴様らがただの素人の賊なら、ここまで話すことなどなかった! 闇の世界に通じている者だからこそ、全てを話したのだ! 事情を解したなら、この場から速やかに去れ!」
「死者と成り果ててまでこのような大それた事を続けるなど、見逃せるはずなどない! 結局これは、犬神という闇の存在を使い続けた所業から逃避したいだけだ!」
かたるな小僧が!」
 佐権院と友宮咆玄の舌戦が続く中、結城は目の端に光を捉えた。気になってその方向を見ると、儀式の中心である柱の発する光が強くなっていた。加えて、柱に括りつけられている友宮里美が不気味な痙攣を起こしている。あまりこの手のことに詳しくない結城でも、これが危険な状況であることだけは分かった。
「佐権院警視!」
「っ! しまった!」
 佐権院も柱に目を向け、状況の深刻さを知った。
「どの道もう遅いわ! 儀式は完成へと近付きつつある! 今こそ風の武神・建御名方神タケミナカタノカミが降臨するのだ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について

青の雀
恋愛
ある冬の寒い日、公爵邸の門前に一人の女の子が捨てられていました。その女の子はなぜか黄金のおくるみに包まれていたのです。 公爵夫妻に娘がいなかったこともあり、本当の娘として大切に育てられてきました。年頃になり聖女認定されたので、王太子殿下の婚約者として内定されました。 ライバル公爵令嬢から、孤児だと暴かれたおかげで婚約破棄されてしまいます。 怒った女神は、養母のいる領地以外をすべて氷の国に変えてしまいます。 慌てた王国は、女神の怒りを収めようとあれやこれや手を尽くしますが、すべて裏目に出て滅びの道まっしぐらとなります。 というお話にする予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...